紫のオルフェ~何でもかんでも気になる音楽、名曲アルバム独り言

ジャズ、ラテン、クラシックを中心として、名曲、アルバム演奏者を紹介します。&私の独り言を…

久々にラテン系アルバムを…熊本尚美~ナオミ、リオへ行く。

2008-01-14 23:06:01 | ラテン・インストゥルメンタル
皆様、「ショーロ」って言うジャンルの音楽、ご存知ですか?
ブラジルで最古の都市型ポピュラー音楽の事を、「ショーロ」と言うんだそうです。
今日は、日本人で「ショーロ」演奏家として、リオで初録音した、フルート奏者「熊本尚美」の初リーダー・アルバムを紹介しましょう。

その前に「熊本尚美」さんについて簡単なご紹介をしておきましょう。
神戸市生まれ。大阪教育大学、音楽科でフルートを専政後、クラシック畑で活動を始めるが、最もフルートの合う楽曲、ジャンルを模索していた時に、行き着いたのが、クラシック音楽とアフリカのリズムが混血した、ブラジル最古の都市型ポピュラー音楽、すなわち「ショーロ」に出会ったとの事です。
現在は、音楽活動拠点をリオ・デジャネイロに移し、精力的に演奏を行っているとの事です。

アルバムタイトル…ナオミ、リオへ行く

パーソネル…リーダー;熊本尚美(fl、a-fl、picco)
      ナイロール・プロヴェータ(cl)
      エドゥアルド・ネヴェス(ts、fl)
      フイ・アウヴィン(cl)
      ペドロ・アモリン(tenor-g)
      ルシアーナ・ハベーロ(カヴァキーニョ)
      パウロ・アラガォン(g)
      マウリシオ・カヒーリョ(7弦g)
      セルシーニョ・シルヴァ(パンデイロ)
      ジョルジーニョ・ド・パンデイロ(パンデイロ、カイシェータ、他)

曲目…1.ナオミ、リオへ行く、2.私をリオで待っててね、3.トニーニョに捧げるショーロ、4.雨のリオ、5.ドミノ、6.~10.ブラジルの思い出(カドリーリャ)、11.甥っ子達、12.甦生(大震災から立ち直りつつある我が町、神戸に捧ぐ)、13.おめでとう、ショヴィ・ショヴァ、14.マリコチーニャ・シェガンド、15.にんじんケーキ(ドナ・ゼリアに捧ぐ)、16.アナ・カロリーナ

2001年6月、2002年5月、リオ・デジャネイロにて録音

原盤…アカリ・レコード AR-13  発売…㈲中南米音楽
CD番号…LAM-11503

演奏・曲について…オープニングのタイトル曲「ナオミ、リオへ行く」は、「マウリシオ・カリーヒョ」が作曲して、「熊本」へプレンゼントした曲との事。
「熊本」のフルートと、「カリーヒョ」の7弦ギター、他の楽器との絶妙の絡みが、寛ぎと癒しの空間を演出する。
とにかく気持ちの良い1曲です。

2曲目「私をリオで待っててね」…「熊本」が初作曲のオリジナル曲。
とても華やかで、軽やかなメロディに、ショーロの魅力が満載。
中盤からテナーの「ネヴァス」と「熊本」のフルートの掛け合いがワンポイントになっていて、良い味を出しています。

3曲目「トニーニョに捧げるショーロ」は、ブラジルのショーロの大御所フルーティストの「アントニオ・カスケイラ」のニック・ネーム。
彼に敬意を表している楽曲らしく、2曲目の後半以上に管楽器をフューチャーした演奏&編曲がなされている。
「ネヴァス」と「熊本」の二人…素晴らしいコラボです。

4曲目「雨のリオ」…これも勿論、「熊本」のオリジナル曲なんですが、一言で言いましょう。このアルバムのベスト・トラックです。
「熊本」の哀愁たっぷりのフルート演奏はもとより、とにかくテノール・ギターで感情豊かに入魂の演奏、アドリブを奏でる「ペドロ・アモリン」が素晴らしい出来栄えです。
「ハベーロ」、「バンデイロ」のリズム・セクションも二人をリスペクトする、バック演奏に従事します。

5曲目「ドミノ」…子犬の名前にちなんで付けられた、曲名&演奏で、いかにも可愛らしい雰囲気が溢れた曲です。

6曲目~10曲目「ブラジルの思い出」…カドリーリャと呼ばれている5つのパートから形成される組曲。
組曲なので当たり前かもしれませんが、起承転結が楽曲に見事にいかされていて、その中でも特に、個人的には8曲目のマイナー・メロディが気に入りました。
物悲しい曲調にも、明るい曲調どちらでもフルートって合うんですねぇ。

11曲目「甥っ子達」…正しく曲名通りのイメージ曲。
子供達が騒ぎながら駆けずり回って(暴れる?)、いたずらっ子風の感じが良く出ています。
ここで「熊本」はピッコロを使用して、より子供達の雰囲気を表現しています。

12曲目「甦生」…ショーロのタイトルとしては、相応しく無いと物議をかもしたらしいのですが、曲は良いですねぇ。
私の大好きなマイナー・チューンで、ここでも「熊本」とギター奏者達とのコラボレーション、フュージョンが、good jobを成し遂げました。
特に「熊本」の静かな悲しみを纏ったフルートにまいります。

13曲目「おめでとう、ショビ・シュヴァ」…まっこと、ジス・イズ・ショーロとも言うべき、ショーロの伝統的・基本的な曲調で、「バンデイロ」がタンボリンで参加している事も見逃せません。
ギター、カヴァキーニョ等のリズムに、ラテンの血が滾ります。

14曲目「マリコーニャ・シェガンド」…「マウリシオ」が(お腹の中にいる)娘のために書いた名曲で、「熊本」の荘厳のフルートと「アラガォン」の静かなギターが、生命の尊さ、神秘さを表現している。
二つの楽器だけのデュオ演奏が、逆に曲の重厚さと、生真面目さをより一層際立たせる役目を果たしている。

15曲目「にんじんケーキ」…遊び心と悪戯な雰囲気を良く表したトラック。
こう言うライトな感覚のラテン曲って、良いよねぇ?

16曲目「アナ・カロリーナ」は、ショーロの老舗グループ、「コンジュント・エポカ・ヂ・オウロ」のリーダー、「ジョルジーニョ・パンデイロ」が、自分のお孫さんに捧げたワルツ曲。
とても、気持ちのこもった優しいフルートの調べを、「熊本」が奏でます。
正しく、好々爺が孫の笑顔を見て、微笑んでいる様が、分り易く表現されていて、ほのぼのさせられる、goodな1曲です。

ボサ・ノヴァ程、洗練されていませんが、フォルクローレよりは、アーバナイズされているショーロ・ミュージックを是非お試しあれ!!

ジャズ・メッセンジャーズをバックに従えて…バーズ・アイ・ヴュー~ドナルド・バード

2008-01-14 08:55:22 | ジャズ・トランペット
以前、「ドナルド・バード」が演奏していた、幻のレーベル、トランジションに吹き込んだ、「ビーコン・ヒル」を紹介した事が有りました。
今日は、「バード」が同じくトランジションに残したデビュー・アルバム(曲によって、「ジョー・ゴードン」との2トランペッツ)を紹介しましょう。

バックのメンバーが「ジャズ・メッセンジャーズ」と言う、豪華且つ貴重なアルバムです。

アルバムタイトル…バーズ・アイ・ヴュー

パーソネル…リーダー;ドナルド・バード(tp)
      ジョー・ゴードン(tp)
      ハンク・モブレー(ts)
      ホレス・シルヴァー(p)
      ダグ・ワトキンス(b)
      アート・ブレイキー(ds)

曲目…1.ダグズ・ブルース、2.エル・シノ、3.エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー、4.ハンクス・チューン、5.ハンクス・アザー・チューン

1955年12月2日録音

原盤…TRANSITION  発売…東芝EMI
CD番号…TOCJ-5886

演奏について…解説から少し引用すると、スタートの「ダグズ・ブルース」は、12小節のブルースで、「ジョー・ゴードン」が加わったセクステット演奏との事。
ソロの順番ですが、「ワトキンス」の(2コーラス・ウォーキングベース)から始まり→「バード」(9コーラス)、「モブレー」(4コーラス)、「ゴードン」(7コーラス)、そして最後が「シルヴァー」(3コーラス)との事です。
まず、長いソロの「バード」ですが、ちょっぴりファンキーで、エモーショナルも豊かなフレーズ連発で、デヴュー作とは思えない程、堂に入った演奏をしてくれます。
「モブレー」は、とにかく、し、渋い!
渋くてス・テ・キ!!
2トランペッツで、派手になりがちなイメージの演奏・曲を、ブラック・ブルー色の楔(くさび)を打つが如く、燻し銀の役目をしています。
「ゴードン」は「ガレスピー」をアイドルと仰ぐだけに、非常に切れが有って、ブリリアントな音色で、尖ったソロを取ります。
この辺の二人のペッターの音色&フレーズ対決が、一番の聴き所でしょう。
「シルヴァー」の抑え目のソロ(余りファンキーには演っていないんだけど…)も良いですね。
御大「ブレイキー」は、何故か?地味に地味にバックに徹していますが、これも逆に良い味を出しています。
正にトップ・イズ・ベストの1曲でしょうか?

2曲目「エル・シノ」…こいつも少し解説のお力を借りておきましょう。
まず、「モブレー」が抜けた2トランペッツのカルテット演奏であります。
テーマは2管ユニゾンで演りますが、主題の1ブリッジは、まず「ゴードン」が吹きます。
それから、この曲…「ウォーキン」にクリソツと思ったら、一部メロディを引用しているとの事で…。
ここでのソロは、「ゴードン」、「バード」の順番で、代わる代わる取りますが、前述の通り「ゴードン」の音色の方が尖っているので、ちと鋭く、そして乾いたクールさが有るので分り易いと思います。
逆に「バード」の音色は、幾分、ウォーム系で、情感がとても豊かです。
「ブレイキー」「ワトキンス」「シルヴァー」のバックは…バック、リズム・セクションとして申し分無い出来栄えで、二人を強固にサポートしています。
2トランペッツのバトル的な演奏を際立たせる、とても見事な演奏です。
でも、でも「シルヴァー」は勿論の事、「ブレイキー」も1コーラスだけ、一発ソロを演りますよ!ムフフ…。

3曲目「エヴリシング・ハプンズ~」…一言で良いねぇ。
寛ぎ系の4ビートのバラッド演奏で、「ゴードン」が抜けたカルテット演奏なんだけど、序奏からソロと取る「バード」が、エモーション抜群のアドリブ・ソロを吹き切る。
「モブレー」もウォーム系で、訥々とした感じが何とも言えない良い仕事をしますねぇ。
ブラシで静かに演奏を通し抜く「ブレイキー」と、可憐にお洒落に弾く「シルヴァー」も最高です。

4曲目「ハンクス・チューン」は、名前の通り「モブレー」が書いたミドル・テンポのハード・バップ曲。
最初のソロは、当たり前だが「モブレー」から。
前2曲は一寸遠慮がち?で渋すぎたかも?て言うに思ったのか、結構、自我を出したソロを取ります。
※自我って言ってもそこは、朴訥な「モブレー」の事、ビッグ・ネームのサキソフォニストとは全く違って、やっぱり渋いんですけどね。(大笑)
この曲はハード・バップさをモロ出しで、「ワトキンス」のカッコイイソロや「ブレイキー」節全開の御大のソロなんかも繰り出されて、面白い演奏です。

ラスト「ハンクス・アザー・チューン」も勿論「モブレー」の曲です。
ここでの「モブレー」のソロの出来は良いですよ~!
音色は相変わらず渋いものの、アドリブ・フレーズのイマジネーションの豊かさは半端じゃない。
派手じゃないけど、とても良く思索された演奏です。
続く「バード」も、「モブレー」を尊敬して?同感覚(音色は地味に、だけど情感はタップリの)ソロを演ります。
中間では見事な二人の絡み合いが最高の聴き場所で、ハード・バップ・カルテットの醍醐味が堪能出来ます。

いずれにせよ、駄演抜きの好アルバムで、新人「ドナルド・バード」の実力と魅力を堪能できますよ。
とてもお薦めの1枚です。