SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

「音」の意味すること

2018-04-16 10:26:00 | Essay-コラム

April 16, 2018


 「てんとうむしくん、なんなんだ、その君の色は。」

 

...10代の女の子の10人に9 が、自分の身体に不満があると答えており、彼女たちの間で摂食障害のために入院するケースが急増している。私はこの傾向が、ソーシャルメディアの普及と、 「プロアナ(拒食症支持)」や「プロミア(過食症支持)」に関係するサイトの増加にリンクしていると考えている。それらは脆弱で、自意識が過剰になる傾向 のある10代の若者に、大きな影響を与えてしまうのだ。....

(今日たまたま目に留まった、メアリー エイケン博士の記事より)

 

 んでこういう記事の抜粋を載せたのかというと、それは先日行われた我がパリ市立音楽院での生徒の試験であった出来事(といってももう何度も何度もこれまで にイヤという程見聞きしてきたことなのだけれど)、学長と審査員の言動について一言、わざわざ世界に向けて書きたいからである。

 

このことをここに書くのは、実際に私が彼らの前ではっきり明言したからであり、決してネット上だからと言っている愚痴ではない。

 

それは、今回もまた、審査員によって放たれたこの言葉。「何なんだ、その君の音は?!」

 

一生懸命フルートを8年も10年も、好きでやってきて、また私が音楽を表現しないで受け身でいるのを許さない先生だから、緊張を必死で吹き飛ばして、健気に各自の才能に見合った方法で音楽を、勇気を持って最大限に奏でた10代の子供たちを、一言で挫かせ自信喪失させるのに、最高の贈り言葉ではないですか。

 

私、 普段は怒ってもどうしようもない場合、何も言わない方なんです。。。でもね、「なんなんだ、この子の音は。どうしてレッスンでこれまでに、ちゃんとお前の 音は悪い、といって治さなかったんだ?」と私に言ってきた日には。。!!はっきり言いますよ。「失礼ですが学長先生、各自の音そのものを否定することは、 その子の顔を否定することと同じなんです。あなたの顔は悪いから、じゃあ手術しなさいねって、それと変わらないほどその子を傷つけますよ。音に関しては、 より多くの音楽的表現を得るため、呼吸やアンブシュアの技術、音への感性、理解を高め、いくらでも向上発展させることが可能です。でも私はあなたのいうよ うな方法で教育するつもりは全くありません」

 

 こで今日、冒頭の記事が目に留まってきた。ナイーブな少年少女はネットや世間の風評、痩せている方が綺麗だという。。。ステレオタイプに影響されて摂食障 害に陥る。音楽の世界で、私は何度、ステレオタイプのいわゆる「美しい音」から外れているために、音が悪い、と言われ続け、傷ついた子を見てきたことだろ う。

 

これはフランスだけの問題だろうか?いや、現在のスタンダードなクラシック界そのものが、「音楽することをまるで床の間の上の置き物の完成品を作るかのように考え、音楽とは必竟自分なのだ、ということも分からずに習得に明け暮れる」(八村義夫著 ラ・フォリア、ひとつの音に世界を見、ひとつの曲に自らを聞く」より)という歪んだ思考を持っているからではないだろうか。

 

 んな審査員からコンクールを受けるたび「音に問題がある」と言われ続けて、しまいにフルートで一番大切な「呼吸」を忘れてしまうまでに追い込まれる。自分 の顔を隠すが如く、自分の呼気=音を出すことに恐怖感を持っていく。それは拒食症になる子たちが、生命維持に一番必要で生の根源である「食」を忘れていく 過程と酷似している。前述の作曲家、八村義夫さんが言うように、音とはその人の「生」そのものであって、工業製品のように「不良品」だからと修理するもの ではない。

 

 ういう学内試験の話を一度パリに留学に来ていた生徒のいーちゃんにしたら、彼女は自分がやはりそのように言い続けられてきて、全く自分の自信をなくすとこ ろまで追い詰められたのだと言い、そして傷ついた小さな生徒たちの為に泣いてくれた。私は彼女の涙を、そして先日もまた流された若い生徒たちの涙を忘れな い。

 

「音」はその人の根源的アイデンティティを示すものだ。人間、しかも音楽に携わっている人間が、上にいるという立場を利用してここまで悪意を持てるとは、本当に信じがたい。これは生徒を思い厳しいことを言っているのとは断じて違う。

 

私は10年間教えてきて、18歳の今回の試験をもって音楽院を「追放」になった私の大切な生徒に、このようなメールを送った。

 

「悪 意というものも、善意というものも、人間界にいる限り、あなたのすぐ隣にいる。いつ降りかかってくるか、誰に降りかかるのか、それは誰にも予想がつかな い。私は今晩泣いている。でも私は、私が誰の評価も得られなかった厳しい時代に、私の最高の師匠ニコレが私にしてくれたように、あなたに、あなたの人生を 祝福したい。さようなら、今この音楽院の小さな世界から出なさい。そしてあなたのこれからの人生に乾杯!!」

 

彼女から来た返信は私の宝物なので、ここには記さないことにする。



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