SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

小さく豊かな世界

2015-04-04 18:31:36 | Essay-コラム
日本では桜が満開なようですが。。。パリはなかなか春が来ませんね~。
と言っていたら、今日はまだ気温は寒いけれどついに春の一日目、という感じでした。

今回はどちらかというと政治の話だけど。。。近年のパリ市の傾向として、「エリート主義を改め、音楽を全ての子供達へ」というのがある。私たち音楽院の教師が小学校に出張授業し始めたのも、こういう考え方が根底にあるからだ。この間はこのプロジェクトの面白さを書いたけど、http://blog.goo.ne.jp/cieuxstage/e/6f3dfb39f839012412ea33c65ae178d3今回はこういうスローガンのどこがヤバいのか?を現場から検証してみようと思う。授業は完全無償だし、そのうえ小学校の生徒に無償で楽器を貸し出すでしょう?すると、音楽院に自分または親の意思で通って来ている子達と違って、彼らには、もともとあまり音楽または楽器に興味がないか(一応ある、という口実で授業に参加しているのだが、本当にあるとは限らない)、また多少の興味はあったとしても、自分のものでもなく、いきなり手元に降って湧いた高価な楽器の価値なんかどんなに口頭で説明しても分からない。とにかく扱いが雑、ぶんぶん振り回すわ、無意識にいじくりまわすわ、ですぐに壊してしまう。わたしのクラスなんかまだ良い方で、友人の先生によると「楽器のキーを家でわざともぎとってきた」生徒がいたんだそうだ。こうなるともう実験用品である。あと、学年末に企画したコンサートの日にデッサンのレッスンがあるから来られない、と言った子に、「年一回の大事なコンサートなんだから、一回ぐらいデッサンは休んだら?」と言ったら「デッサンは年200ユーロで、フルートはタダだから、デッサンのほうが休めない」だって(笑)私、さすがに授業やめてさっさと家に帰りたくなりました

音楽院のほうではまた違う問題があって、「エリート主義の音楽院」と政治家からレッテルを貼られるのを避けるため、口先だけで「子供のために」「アマチュアの育成」とかいうスローガンを振りかざす人が上に立つことが多くなってきた。しかし同じ人間が試験となると「なんなんだこの音は」「音楽性がないからだめだね」「スタイルを知らないよね、音楽をきいているのかね君」と来る。抜けられない高慢なエリート体質と、偽善スローガンの間のひどいギャッププロにはならないかもしれない、けど好きで好きで音楽を何年も習ってきて、緊張を吹き飛ばして精一杯演奏しとうとしている若い生徒たちにかける言葉ではないでしょう?ひとりひとりの小さく豊かな世界に、どうして耳を澄ませてあげられないんだろうね?音楽ってつくづく、システムや政治とは相成れない。それは通り一辺倒で、ひとりひとりの感性を信じない。あの小学校の子にしたって、訳のわかんない物渡されて壊して怒られてるより、もしかして外で遊んでるほうがずっと為になるのかも知れないし

ところで、小さく豊かな世界が本当に存在するというお話を。。。田舎育ちの私はちょっと前まで「パリには自然がない!こんなところに住むのは嫌だ」と思っていたのですが、最近一歳半になる娘が歩きはじめて、近所の裏路地を一緒に散歩しはじめると、空き家の小さい庭の木の椿が満開だったり、(だいたい空き家があったことさえ気づかなかった)駐車場に小さな芝生があってそこにお花が植えられていたり(誰がいつ世話をしているんだろう?)、いろんな形の落ち葉が落ちていたり、ガス会社の黄色い登録マークが等間隔で貼られていたり、同じ時間に同じアパートの庭から灰色の猫が出て来たり(その後その猫のテリトリーもばっちり把握)。。。と、ただの裏路地になんともいろんなストーリーに満ちあふれているのでした。これは面白いでも子供の目線まで目線を落とさないと気づかないよね。特に遠くに行かなくたって、自分に一番近い一番小さなパラメーターを細々と見て行くと、その小さい場所には豊かな世界が広がっているのでした。

目線をふと上げると、近所の眼鏡屋さんのおばさんの顔がにっこり。「朝のお散歩ですか」。向かいのスーパーに入って娘が転んで大泣きすると、スーパーのおっちゃんが「あんたの娘さんは、まあ将来すごいキャラが保証されてる、っていうかね(笑)」同じ建物の下のアルジェリア人の仕立て屋さんとチュニジア人のおかず屋さんが「15分後に戻ります」の札を下げてモスクのお祈りに行きお店を留守にする時間を、近所の人たちはみんなよく知っている。そこではみんなが、いろんなうわさを話し、政治のディスカッションもする。お昼は、イタリアからやってきて細々と営んでいるご夫婦の料理屋で、奥さんのおばあちゃんのレシピというおいしいパスタを食べよう。アルジェリアの仕立て屋さんが「ここが一番」と太鼓判を押してくれたクスクス屋は、これぞサハラ!(行った事ないけど)な味7年もフルートを教えている生徒のお母さんがお医者さんをやっている近所の小さな診察所では、娘が熱を出したら診療前の時間にちょこっと見てくれる。こんなパリの下町の一角、娘がもうちょっと大きくなったら、安心して歩かせられるね。