SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

原風景、穴、そしてスタート地点

2018-11-03 09:44:00 | Essay-コラム

November 3, 2018



村上春樹さんがアメリカのプリンストン大学に滞在されていた時のエッセイ集を読んでいる。その中で春樹さんが、「何を小説に書いたら良いか分からない」というプリンストンの学生に、20 の頃ジャズバーを営んでいて、朝ロールキャベツを作るためにに大量のタマネギのみじん切りを朝から仕込んだりと、考えるヒマもなく肉体労働をしていた時 が、人生で一番学んだ時であり、その時間のお陰で何を小説に書けば良いか分かるようになった、と言う話をしたそうだ。そのようにして書き上げた処女作「風 の歌を聴け」って、「これだけしかないんだから、しょうがねえだろう」宣言だったのかも知れない、のだそうだ。(これは「村上さんのところ」より)

 

確かにこの小説は、ハルキファンなら分かってくれると思うのだけれど、その後の錚々たる村上小説の物語が立ち上がってくる土壌となる原風景を、透明な瓶の中に閉じ込めたような小説である。

 

 自身はと言えば(おこがましくも春樹さんの人生と自分を比較するつもりは全くなく、共感した事をここに書きながらまとめたいだけなのでご了承ください) とても歩みが遅い人間で、自分なりに「これしかないけど仕方ないじゃないか」と言い切れるものを作ってスタート地点に立つまでに、高等音楽院を終えてからさらに20 かかってしまった。どうしてかというと、やはり私にとっての「肉体労働」。。。自分の腰と自分の目線を落として生徒達の面倒を見、一人一人異なる彼らの問 題を自分という存在のフィルターを通すことによって理解するという、とてつもなく疲れる労働を通してしか、楽器、もしくは音楽が本当には理解出来なかった からではないかと思う。私の場合は学校で学んだことが一切役に立たなかった、とは思えない。多くのキーワードは学校の教室にも散乱していた、今思えば。で もある時点で外にでて自分自身の肉体労働で儲けたお金で自分に投資する必要があった。エリート音楽教育と呼ばれるものの埃(「誇り」の変換間違いじゃない よ、念のため)をきれいに振り払って、生徒達を教えながら、自分の言語で自分の音楽が今なら出来る!と思える瞬間を掴むまでの長い道のりだった。その間、 メディアに乗って光の中で活動しているような輝かしい仲間も横目に見えるけれども、(出たがりステージ上がりたがりミュージシャンにとって、羨ましくない 訳がない!)

しかし自分はなにせ、穴を掘るのが仕事である。脇見をしている場合ではない。  小学校の教室や、教えている音楽院の地下で日々せっせと穴を掘った。(私はパーカッションやジャズが好きなので、何故か学生時代からいっつも地下に身を置いています笑 )そうそう、孤独で熾烈な育児も穴を掘る作業の一種だ。運良く外に出られるとしたら公園ぐらいだから。もしかして自分の信じる穴は人々にはタブーである穴かも知れない。でも私としてはタブーの穴を掘り切ってその先に見たことのない光を見てみたかった。

 

まあこんなトンネルみたいに人生を考える場合、スローな分長生きするしかないかなーと、思う。でも寿命といものも自分で決められることじゃあないので、明日ちょん切られても良いように今日も踏ん張っておく必要がある。

 

ここでアーチストの創作活動のスタート地点である原風景を感じさせる、二つの音楽の作品を紹介します。

 

キース ジャレット spirit 

 

なんと彼がひとりで即興し多重録音したアルバム。

 術的完成度をこのアルバムで探したって見つかりっこないと思う。キースはただただ自分の原風景を掴もうと、わざわざテクニックのある本業ピアノを極 度に避けて、リコーダーやギターを使用し、自らの語彙を極限まで削減しているように見受けられる。それはキースの音楽が生まれ出る以前の原野のように響 く。

 

彼がクラシックのミュージシャンたちと共演を多くした時期の後に感じた疲れから、自分を立て直す為にこれを彼一人だけで創る、ということが必要だったそうである。私は時々無性にこのアルバムが聴きたくなる。相方に「なんやその聴いとるおかしな音楽?!」と言われてもくじけません(笑)

 

ローランド カーク  natural black inventions 

 

次5月6月にパリでやる予定の私の一人ライヴ「スパイラルメロディ」はカークの曲も数曲入れるので、お誂え向きの曲を探していたところ巡り会ったアルバム。

 

この常に複数声でパーカッションも入る立体的なアプローチでのアルバム制作を見ていた人が「彼は本当に、これを一人で一度に演奏した。機械など使わずに」と衝撃の証言している。

 

マイルスと対照的に電気楽器が嫌いだったカーク。私はルーパーを使用せざるを得ないが、なるべくオーガニックにやりたいと、カークの執念が私の背中を押してくれた貴重なアルバムである。

 

 

追伸いよいよ来2、3月の日本ツアーが始動です!!





 

こちら日程///

 

新しいプロジェクトの誕生です! その名もスパイラル=ウルクズノフ=プロジェクト。

 京で出会った佐藤紀雄(ギター)、佐藤洋嗣(コントラバス)、ミエ・ウルクズノフ(フルート)、アタナス・ウルクズノフ(ギ ター)、吉川真澄(ソプラノ)、原田亮子(ヴァイオリン)が参加。全国6カ所での公演が決まりました。(注*公演によって参加ミュージシャンに相違があります。詳しい情報は追っ て公開。お見逃しなく)

レパはアタナス&ミエのオリジナル曲を中心に、ジャズ、日本やブルガリア民謡の編曲まで、カラフルになること間違いなし!珍しい編成での新しい試みをぜひ聴きにおいでください!!


2月28日(木) 東京・代々木上原・ムジカーサ
3月2日(土) 浜松・ヤマハホール
3月3日 (日)14h 静岡・ 静岡江崎ホール
3月5日(火) 香川・ 多度津町 赤いハリネズミ
3月7日 (木)高松・珈笛画廊 ほのほ
3月9日(土) 大阪・ 岸和田 自泉会館