SpiMelo! -Mie Ogura-Ourkouzounov

L’artiste d’origine Japonaise qui mélange tout sans apriori

月の満ち欠け

2023-12-21 20:35:00 | Essay-コラム

娘が5区にあるR校に行き始めてから、送り迎えの為に、パリ中心部を通って5(カルチェラタン:パンテオンを中心に、多くの著名大学や名門高校が集まっている)に滞在する時間が増えた。




時間制で支払って、コーヒーやケークも値段込み、という学生向けのリーズナブルなワーキングカフェも、作編曲によく利用させて貰っている。




学生が多いカルチェ・ラタンは、安く美味しい最先端のレストランも多い。ここはカラフルさが楽しい四川ラーメンの店。8段階から辛さが選べる、パリでは珍しい店。5段階にしたら結構辛かった、満足!




R校は、芸術/スポーツ科、半日制で、後の半日は自分のやりたいことを好きなように極めてくださいね、という、大変自由な校風で、独特の時間割と選抜試験を持つ、公立であるにも関わらず、パリでも唯一の小学高学年部併設の中学校。




音楽、舞台、フィギュアスケート、ダンス、チェスの名人まで、、、R校の子供の守備範囲は幅広い。


フランス(もちろんパリ市も含む)が、「音楽はみんなのためのもの」という民主化の大合唱の元で、子供の試験を無くし、くじ引きや学区制(学区外からの受験を排除するため、住所による減点制にする)にしたが為に、音楽自体のレベルがどんどん下がってしまっている(多分日本の「ゆとり教育」の時みたいな感じなのかな?)

というご時分に、R校が選抜式で学区の区別なし、という独自方式を維持しているのはすごいことだし、ぜひ「みんな推し並べて同じです、ピース!」という風潮に対抗して、特殊な環境が必要な子供たちのために頑張って、長く存続して欲しいと思う。


芸術に「推し並べて同じ」は存在しないのだから。


子供それぞれに、一番あった場所があるということだと思う。

大人にしたって、居場所は一番大事。日本人としてパリにいる、それは私が自分で選んだ場所であり、これでとても幸せだと思っている。



6年前(もうそんなに経つんだ!)の火事から、再建を急いでいるノートルダム。


R校と同じ通りのセーヌ川沿いにある老舗レストラン「トゥール・ダルジャン」、なんかノスタルジック。




冬至も近づき、日がとても短い。

水曜の暗くなった夜は、クリスマスらしく飾り付けられた10区の親密な路地(10区って、何故か親密って言葉がしっくりくる)を通って、現在行われている10区/19区音楽院合同オーケストラの練習に参加しに行く。




「フランス/アンティーユ/日本」と題されたこの学生オケコンサート企画、(最終コンサートは年明け12627日!夏の間3か月かけてオーケストレーションした自分の作品と、アンティーユ諸島のマックス・シラの作品を、5カ月間リハを聴いたり、協奏曲形式のものは一緒に演奏したりして練習している。





自分が作曲者として外から聴く、というのは本当に慣れてなく座り心地が悪いものだが、

指揮者でヴァイオリニストのステファンが、これらの作品を心から気に入ってくれて、一小節、そして次の一小節と、彼が感じることを、滋味深い、ユーモアに溢れた言葉で表現し(彼の人生経験を知らなくとも、それを感じる瞬間だ)、オケがそれに感応して、月が満ち欠けするように少しずつ、時間をかけて曲が姿を変えていくのを聴いていると、ああ、インタープレテーション(楽曲解釈)とは、こんなに素晴らしいことだったのか、と思う。




23回だけのリハでわーっと飛び込むように組み立て、その時の感動だけで通りすぎる通常のコンサートだと「月の満ち欠け」を感じる時間なんてないけれど、5か月に渡って二人の指揮者と仕事を共にしていると、深い共感が脈打つのが肌で感じられる。私のパーソナルな心から出てきた音楽が、指揮者のパーソナルな心を通り、そしてそれがオーケストラのひとりひとりの心に伝わっていく、その微妙な振動の過程で、私が書いた当初思い描いていたものとは全く違った形になっていくのを、新鮮な驚きを持って聴いている。


そして、指揮者によって、出てくる音のなんと違うこと!!指揮者という職業の「イタコさん」のような奥深さを感じると共に、心から心への振動によって、音楽は意味を持つものになっていくんだなあ、と思った。




その10区のサン・マルタン運河沿いにある、ハスキー犬がお留守番するカフェ。ショコラやホット抹茶ミルクがとっても美味しい!




今学期最後の日には、9区と10区の境目にあるCさんのアトリエのクリスマス・ツリーを見に寄ってみた。予約札済のブランネンのフルートは、なんと1月のオケとのコンサートで貸してくれるとのこと!楽しみすぎる新年。



「やることがハンパじゃないでしょ(笑)」とCさん。確かにこんな完璧なツリーは珍しい。
メリー・クリスマス!!











探さずに見つける。

2023-12-11 14:12:00 | Essay-コラム

最近、谷川俊太郎さんの「ひとり暮らし」を読んでいて、なるほどと思ってしおりを挟んであったページがあるのだけど、そこには、とあるサウンド・アート展に谷川さんが行って、その後同じ日に、画家の難波田龍起展に行った時のことが書かれていた。


難波田さんの抽象は生きることの具体性から生まれてきたが、「サウンド・アート」の作家たちは、観念から出発して生きることの具体性に触れようとして触れ得ないでいるのだろうか」


この本は日記的また散文的で、答えのない、まさに詩のような感じなのだけれど、谷川さんの芸術に対する考えが、日々の生活の中に映し出されていて面白い。


先日、とある音楽を聴く機会があった。即興音楽であったが、聴きながら、音としても現代的で素晴らしいし、良くお互いが聴いている。楽器も上手く、どんなジャンルでも演奏できるキャパシティだってある。有名な人たちだし、経験豊かで、落ち着いている。しかしどう言う訳か聴いているうちに段々、元気がなくなってきてしまった。


で、ずーっと、この不完全燃焼な感覚って何なんだともやもやしていた結果、この谷川さんのしおりを挟んだページのことを思い出したのだった。


こうなってもいいけど、こうなっても良かったかも、という音楽。


音の表面のエキセントリックさとは逆に、何故かとても守備的に聴こえる。


こうも出来たけれど、自分はこの時こうしたかった、だからそれに正直になることが大事です、とかいう具合に。いつも探っていて、かつ逃げ場もいっぱいある。


最初は感心して聴いていたのに、だんだん、原因不明の鈍痛が心を覆っていく。



そのことを、親愛なるアフリカ音楽専門家の即興アトリエの同僚Cに話すと、


C「やっぱり音楽ってさ、これしかない!か、いやこれじゃない!か、どっちかじゃないか。アフリカでだって、師匠がこうだ!というのを演奏してみせて、そうであるのかどうか、そこが肝心だろ。」


「だよねー。こういうのって、個人的な「分析の探究」みたいになっちゃってない?「これしかない」っていうものがその人の直観から溢れ出てくる、そういうものが、私たちの求めているものだよね。」


C「そう、芸術とは、分析されたり、曖昧になることを拒む、唯一つのものなんだ。」


「私は探さない。私は見つける」、確かそうピカソは言ったっけ。


そうこうあって頭痛のする週末明けの月曜。 行きつけのフルートのアトリエの修理人Cさん(またしてもCだ!)のところに行くことにしていた。


何故かというと、先週娘のフルートの修理に行った時に、Cさんが「ミエ!今すごい中古のブランネン(注・アメリカのメーカー、ブランネン・クーパーのフルート)が手元にあるんだ!絶対ミエの気に入ると思うから、吹いてみな?」って言うから試奏したら、もうこれがブッ飛んでしまう程のすごい感覚で、どうしてもその感覚が忘れられないから、(頭で良いなぁと思うフルートはいっぱいあるけど、このブランネンの場合は、自分のフルートを吹いていてもその感覚が蘇ってきてもうもとにもどれないような、恋に落ちたような生々しい感覚)、もう一度吹きたいと、彼のアトリエに戻って来たのだった。


Cさん曰く


「これね、実は亡くなった偉大なフルーティスト、Dさんの遺品なんだ。どうしても他の人に渡したくないから買っちゃった」


だって!


「あーた、買ったの!?先週試した時はそんなこと言ってなかったじゃん!すんごい高いでしょこれ?狂気の沙汰じゃないの?!」


「そう、僕は楽器に関しては病的なんだ、、、箱を開けた瞬間に、これがすごい楽器だって分かるんだ。だからとにかく買ったんだ。それで満足なんだ。でも、この楽器が本当に素晴らしいと分からせてくれたのは、他でもない、君なんだよ。一週間前君がこのフルートを吹いた時、僕は確信したんだ。この楽器は特別であり、今買うべきであり、いつかはそれを君が吹くべきだと。」


なんたる話!

もう頭痛なんて吹っ飛んだがな。


私はこれまでにも、もう5年に渡って彼にお世話になった間、山ほど色んなフルートを彼の店で試してきたから、彼がお金儲けのためにこの話をしているのではない、直感の話をしているんだ、ということが良くわかる。


そしてそんな直観は、個人的な利益の範疇を越えるのだ。


Cさんは続ける。


「僕は探さない、僕は見つけた。いつだってこうなんだよ。だからこの楽器は、君のために僕がとっておく。」


…図らずも運命を共にしてしまった、Cさんのブランネン。


果たして本当に、この超高い楽器が、私に買える日が来るのだろうか?!


また冒険が始まった()


To be continue!!!!!お楽しみに。