ポエトリー・デザイン

インハウスデザイナーが思う、日々の機微。

Apple Watch。

2015年05月05日 | blog


伊勢丹のApple Watchストアに受け取りに行ったら、黒シャツの店員に満面の笑顔で「Apple Watch、何に使われるおつもりですか~?」と聞かれました。「逆に皆さん何に使われるんですか?」と聞くと、心拍センサーがついてるので、スポーツのときに使う、と言う方が結構いらっしゃるようですね~、という答え。

いきなりで恐縮ですが、何に使うの? 何に使えるの? という質問をする人は、Apple Watch、買わないと思います。

---

Apple Watchの発表と、アップルにマーク・ニューソンが参加のニュースは同時でした。そのとき、ああ、アップルは「かわいげ」を取り戻そうとしてるんだな、と思いました。

アップルのプロダクトは、「クール」になりすぎました。デザインが洗練されているのはあたりまえ、さらに左脳的なスペック競争でも(もう)負けない。どこからも誰からも、非の打ち所のない「クール」の称号を手に入れていました。

iPhoneが4になったとき、あまりにストイックなその造形に、もはやハードは黒子になった、と書きました。かつて愛されたブラウン管iMacのチャーミングなかわいさは、もう無かった。

デザインが洗練され、スペック的にも非の打ち所がない、と言う価値は、けれどやがては追いつかれます。だから、「そうではない何か」を取り戻さなければならなかった。

腕時計は、アップルが作るためにピッタリのプロダクトでしょう。iPhone4の圧倒的な精度やガラスの扱いに触れたとき、同じレベルのプロダクトが世の中にあるだろうか? と考え、思い当たったのは、腕時計の世界しかありませんでした。

そして、腕時計であるという制約は、アップル得意の潔い「割り切り」を存分に発揮できるフォーマットといえます。実際、よく割り切ったなぁ、と清々しくなる仕様も多いです。

アップルが「俺たちが次に作るべきプロダクトは何か? 」と考えたとき、必然的に選ばれたのが腕時計だったと想像します。腕時計には、クールの称号を超えられる可能性があった。

何に使えるのか、という問いの答えは、iPhoneの通知機能を取り出して腕時計にまとめたもの、ということになるでしょう。メールも、メッセージも、LINEも、Twitterのメンションも、セットしたアラームも、全部腕で鳴ります。もちろん電話の着信も。これらは、通知を確認するためにiPhoneを取り出すというコストが無くなるので、便利な機能といえます。

また、実利として、腕時計なら通知を逃さない、と言いたいところですが、普通に歩いていたり、バイクや自転車に乗っていると気付きません。

でも、腕にチーンと通知が来るのは、ブルッとするほどワクワクします。

そのまま電話に応答できたり、カメラのモニターリモコンになったり、アップルペイが使えたりするのは(日本じゃ使えませんけど)、わざわざ腕時計でやらなくてもいい機能です。でも、すこぶるワクワクする。

左脳的な実利はあまりない。腕時計でできると、ちょっと楽しいし、ワクワクするだけ。

そう考えると、この価格設定はいかにも高い。機能と価格が釣り合っていません。

しかし、モノとしての魅力はとてもあります。トロリとした質感と重量感、フォルムもディティールもじつにチャーミングで、愛玩的に愛でたくなります。

Apple Watchとはそういうもので、だから、何に使うのか? 何に使えるのか? という疑問を持つ人には向かないでしょう。ただ、とてもチャーミングで、ワクワクするだけ。

それが、「非の打ち所のないクールさ」の次に、アップルが目指したものなのだと思います。なんだか理屈で説明できないけど、魅力的なもの。説明できなければ、コピーも真似もできません。ああ、ぞっとしますね。(インハウスデザイナーとしては! )

最新の画像もっと見る

コメントを投稿