ポエトリー・デザイン

インハウスデザイナーが思う、日々の機微。

感性品質。

2009年05月30日 | blog

一時期時流行った「感性品質」ですが、仕事でちょっと考えることになったので、考え中です。

感性品質は「perceived quality」と訳されます。パーシブド・クオリティ。耳慣れないですね。直訳すると「知覚される、品質」。

解釈はいろいろで、ひとことで言い切ったものは少ないのですが、私は「なんか、わかっちゃう品質」と解釈しています。わかんないけど、なんとなく、なんか、わかっちゃう、品質。

たとえばベンツのドアの話。
クルマのことは何も知らないおばちゃんでも、ベンツのドアの閉まり音は「まー金庫みたい」と言ったとか言わないとか。なんでかはわからないけれど、なんかしっかりしている。というのは、わかる。

我々のような裏方、作り手は、「何故」いいと感じるのかが、わかります。ベンツの例で言えば、「ボディ剛性が高かった」ことなどが、主な理由だとおもいます。

iPodの組み付け精度、寸法公差のすごさというのは、工業デザイナーにはわかります。でも、フツーの人は「スキマがなくてスゲー」とか、思うかな。あんまり具体的には、思わないんじゃないかな。でも、なんか、よくできてるな、というのは、「わかっちゃう」。

その、なんか、よくわからないけど、わかっちゃう品質が、感性品質なんだとおもいます。

かつて、具体的に、「なんか、わかっちゃう、品質」を高めてゆく方法論というのは、確立されていませんでした。
ベンツのドアは、走行性能のために、安全性のために、真面目に愚直に、ひたすらボディ剛性を高めていったら、結果的に、ドアの閉まり音が「いい音」になった。

今は、ドアの音を「お客さんが、なんか、わかっちゃう品質」つまり「なんか、わかんないけど、ヨシアシを判断する項目のひとつ」と考えて、お客さんが、直接感じる「ドアの閉まり音」を良くしよう。とするのが、現在の、感性品質向上の取り組みになっているんだとおもいます。

いきなりiPodのような寸法精度を要求しても、実現はできないでしょう。コストをかければできるけどね、という話になって終わりです。すべてのクオリティを、いきなり引き上げるわけにはいかない。

現実的な落としどころとしては、「お客さんが、直接感じる」部分についてのクオリティを引き上げる、つまり「優先順位」をつける、ということで、ちょっとずつ実現しよう。ということになります。
どこがお客さんにとって、「品質が高い」と感じるのか。それも、無意識に。そのポイントを見つけ出し、ピンポイントにコストをかけて、感性品質を高めてゆく。逆に言うと、見えないところ、感じられないところのコストは削る、ということです。
実務での運用で実行できそうなのは、たぶんここまででしょう。

でもね。

わかるとおもいますけど、「ドアの閉まり音」は、それ自体が価値ではない。
走る・曲がる・止まる・安全といった、そのプロダクト(この場合クルマ)の「基本的な価値」を追求したことの「副次的な効果」として、「重厚なドアの閉まり音」というものがあるわけです。そこを、お客さんは、「わかっちゃう」。

とすれば、ドアの音だけをチューニングしても、本質的には意味がない。

お客さんが感じるているのは、本質的なモノの価値であって、プロダクトそのものの目的、何のために買うのか、使うのか。その本質の部分に「コストをかけて」レベルを上げてゆく、ということが、結果的に、「感性品質の向上」につながるのだとおもいます。

以前、BMWの7シリーズを、ほんのすこしだけ運転したことがあります。車重2トン、幅1.8mを超える車体でも、走り出してすぐに、上等なスーツのような一体感で、キビキビ走れました。その走行性能にシビれると同時に、一千万円を超える値段のわりに、内装の質感は普通でした。

本質の部分に適正なコストをかけること。それによって滲み出す「質感」こそが、感性品質です。



問題は、イマドキのプロダクトの多くが、本来の目的、価値の本質を見失っているということです。
携帯電話の本質的な価値は何ですか?話せりゃエエやんということ?違うとしたら何?

難しいですなぁ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿