BRING UP

①子どもを育てる。養育する。しつける。②問題などを持ち出す。提起する。

「サッカーボーイズ 再会のグラウンド」

2009年01月14日 | Weblog
サッカーボーイズ 再会のグラウンド」
はらだみずき著  角川書店発行  514円

 校庭を縁どるように咲いた桜の薄紅色が、雲ひとつない青い空に映える日曜日。卒業式を間近に控えた小学校のグラウンドで、ジュニアサッカークラブ・桜ケ丘FC主催の「六年生を送る会」が開かれていた。午前中にクラブの子どもたち全員参加のミニサッカー大会。昼食をはさんで、午後からは毎年恒例となっている六年生対クラブコーチでの「卒業試合」。試合が終わると校舎側の白いゴールポストの前に子どもたちが集合し、六年生を送る式典が始まろうとしていた。
 司会の声にうながされ、クラブのコーチ全員がゴール前に並んだ。六年生たちから、お世話になったコーチたちにお礼の小さな花束が手渡された。クラブを代表して最高学年チームを率いた年嵩の監督が、六年生の選手とその保護者に向けて卒業を祝う言葉を贈った。長年クラブを支えてきた監督は、晴れやかな表情で笑い話を交え選手たちと過ごした日々を語り、自らもクラブから退くことを告げた。思春期の入り口に立った十四人の少年たちのうつむきがちな顔は、試合のあとのせいなのか、別れのときを想ってなのか、頼を赤く染めていた。
 髪を短く刈った精悼な顔立ちのキャプテンは、選手を代表してサッカーをプレーする環境を与えてくれたコーチ、サポートしてくれた親たちに感謝の言葉を述べた。ときおり、キャプテンは言葉を詰まらせたが、それでもしっかりと言葉をつないで締めくくった。クラブを去っていく少年たちの姿に、その成長の過程を見つめてきたコーチや親たちが、目頭を熱くする姿があった。
 そして、六年生キャプテンから次期最高学年チームのキャプテン候補に、歴代の主将の名前が入った伝統の腕章の引き継ぎが行なわれた。桜ケ丘FCで、この式典だけに使われる今ではボロボロになったトリコロールのキャプテンマークを、五年生チームのキャプテン武井遼介は受け取った。
 式の最後に、多くのクラブの子どもたちやコーチ、保護者が見守るなか、卒団を迎える選手たちは、試合の始まりのときにするように、このチームでの最後の円陣を組んだ。
 キャプテンが声をかける。
 エンジに黒の縦縞のユニフォームが重なり合い、肩を組み合ったチームメイトの背中が沈む。
 一瞬の静寂のあと、高らかに勝利を誓い合う叫び声が上がった。
 春の空に再び拍手が湧き立つ。その喝采に感極まった激励の声が入り混じり、六年生を送る会は無事幕を閉じた。   (以上物語冒頭)


 この小説に出てくるエピソードの数々がうちのチーム、きたはらでの出来事にオーバーラップしてくる。取材を受けたわけではないのにどこかで見ていたのだろうかと思うほど懐かしいような気分にさせられた。

 十一歳で深い挫折を味わった人間の物語であり、妻を失う夫の物語であり、死にゆく元マネージャーのために高校時代のイレブンを集め試合を画策する男の物語であり、自分の力では如何ともしがたい現実と真っ向から戦う少年たちの物語だ。
 作者は、主人公遼介の挫折から遼介とともにゆっくりと歩み出す。再生に向けて。『サッカーボーイズ』は、人間の再生の物語でもあるのだ。子どもであっても大人であっても同等の挫折があり、絶望がある。そして再生もあるのだ。
 サッカーというスポーツを糧に、ゆっくりとゆっくりと前に進む。生きることへ、自分を信じることへ、今を楽しむことへ、自分たちのプレイを手にすることへ、進んでいく。

 サッカー好きにはこの本はたまらない。場面場面が目に浮かぶ。最後の試合など自分が交代選手として出たくなってしまう。サッカーに今まで興味がなかったならば、これはサッカー入門書になりそう。サッカーって結構いいもんだなって感じそう。
 子どもたちもパパスもママたちも読んでくれたら嬉しい。そして魔法の言葉を使ってみたいな、なんてことを思っています。


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