「夢をかなえるゾウ」
水野敬也著 飛鳥新社発行 1,600円
「おい、起きろや」
聞きなれない声に日を覚ました僕は、眠気で重いまぶたをゆっくりと持ち上げた瞬間、眼球が飛び出るかと思うくらいの衝撃を受けた。
なんだ、コイツは
枕元にヘンなのがいる。象のように長い鼻。鼻の付け根からのぞく二本の白い牙(片方の牙はなぜか真ん中あたりで折れている)。そしてぽってりとした大きな腹を四本ある腕の一つでさすっていた。
こんなやつが。
長い鼻をゆらーりゆらーりと揺らしながら、目の前に座っているのである。昨日、たまたま家に泊まっていった同級生みたいな感じで。
直感的に、「ああ、これは夢だな」と思った。まだ夢の中にいるのだ、きっと。僕はよく夢を見る。いつも眠りが浅いせいかもしれない。眠りが浅いと疲れが取れない気がするし、その上こんな化け物と遭遇するなんてつくづく嫌な体質だと思う。でも、僕は開き直ることにした。夢だと分かれば恐れることはない。
「お前、だれ?」
大胆にたずねてみた。すると化け物はふん、と鼻を一つ鳴らして言った。
「だれやあれへんがな。ガネーシャやがな」
そして「タバコ、吸うてもええ?」と言いながら、僕の返事も待たずに、丸テーブルの上に置いてあるマイルドセブンの箱からタバコを一本取り出すと火をつけた。やつが手にしている黄色の一〇〇円ライターに見覚えがあった。というか、それ僕のだ。
ガネーシャと名乗った化け物は、六畳一間の低い天井に向かってぷはーと煙をはきながら言った。
「で、覚悟でけてる?」
「は?」
「いや、『は?』やあれへんがな」
頭がずきずきする。二日酔いだ。まだ残っている酒と寝起きとでくらくらとめまいがする。(なんでこいつは関西弁なんだ?)そんなことを考えながら化け物をうつろな目でながめていた。その時僕は不思議なことに、こいつ、どこかで見たような気がするなあと思ったけど、それがいつ、どこでなのか思い出すことはできなかった。
いずれにせよ。
もう少ししたらこいつは消えていなくなるだろう。なんてったって、これは夢なんだから。
「夢ちゃうで」
突然、強い口調でガネーシャが言ったのでびっくりした。こいつ、人の心が読めるのか?
「もっと見ようや、現実を」
何の話だ?
「自分、そんなことやから、『夢』を現実にでけへんのやで」
なんなんだこいつは。あーなんか腹立ってきた。もういいや、寝よ寝よ。面白そうだったからちょっと付き合ってやろうかと思ったけど、急激にムカついた僕は、朝の眠りを再び楽しむべく化け物にブイと背中を向けた。
あ。
その時だった。
突然、僕はその化け物のことを思い出してしまったのだ。
「いや、そんなはずは……」
(以上、本文冒頭)
ガネーシャのファンになってしまった。愛すべき登場人物?
ガネーシャのいっていることいくつかやっていた。
「靴をみがく」昔は試合前にやっていた。願掛けがあったかもしれないが。
この本は何だ。小説か、自己啓発本か、なんだかわからなかったけど残った。今からJリーガーになる夢をみても定年近そうだから違うのにして、夢は持ち続けなければ。おじさんだって、おばさんだって夢は持ちたい。小さなところから叶えられそうだなと、読後感を持った。正月休みにはもってこい。人前で読むとクスクス笑い出すからやめたほうがいい。こういうエンディングは好き。