犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

スペイン便り 5~再びマドリード

2018-08-22 23:04:06 | その他諸国便り

 バルセロナ最終日は、朝早く宿をチェックアウトし、タクシーで空港に行きます。

 この日で、4女とはお別れです。4女はひとりでコペンハーゲン経由スウェーデンに向かい、これから一年間、スウェーデンのルンド大学での留学生活が始まるのです。

 流しのタクシーを拾おうとしているとき、

「あ、またいた、骨折してる人」

 脚にギブスをしているおばあさんがいました。

 実は、3週間ほど前、妻が自宅の階段でつまづいて踏み外し、足の親指を骨折したのです。旅行で歩けなかったらどうしよう、と心配していたのですが、幸い、添え木で固定するだけでギブスの必要がなく、全治3週間で旅行の日にはほぼ治っていました。でも、それもあってか、スペインに来てから、やたらと骨折の人が目につくといって、そういう人とすれ違うたびに盛り上がっていたのでした。

「もう20人ぐらい見たね!」

「こんなニュースあったよ」

 三女がスマホも見せます。

「読んで」

スペイン北西部のガリシア州ビーゴにある海岸で12日夜、木製の遊歩道が崩落し、377人が負傷する事故があった。うち9人は、骨折などの重傷を負った。当局によると、事故当時はラップ歌手による公演中で、この歌手が跳びはねるよう客に要求したところ、遊歩道が崩れたという(リンク)」

「ハハハッ。それで骨折してる人、多いんだ」

「他人の不幸を笑っちゃいけないよ」

 空港に着き、LCCのカウンタ―で搭乗手続きをすませます。

「一人で行くの、なんだか寂しいなあ」

「大丈夫。すぐ向こうで友だちできるよ」

「ハイジの写真、いっぱい送ってね」

ハ イジというのはわが家の飼い犬の名前。四女がとりわけかわいがっていました。ちなみに四女の名前はクララです(リンク)。

 四女が名残を惜しみながら保安検査場に入って行ったあと、残った3人は、バスでレンフェのバルセロナ駅に向かいました。スペイン語の少しできる3女が、購入するAVEの情報(人数、何等か、出発時刻)をメモにして、英語ができないかもしれない当日券の窓口に出しました。

「ペルフェクト!」

 すぐに買うことができました。

「あれ? 行きと同じ値段だよ」

「へえ、もしかしたら昨日がお休みだったので、配慮してくれたのかもね」

 当日売りは高額だと覚悟していたのに、ラッキーでした。

 マドリードは、エアビー(民泊)ではなく、一般のホテル。安めのホテルでしたが、民泊とは違い、設備は整っていました。

「またプラド行く?」

「いいや。ほかに面白いとこないの」

「王宮とか」

「そこにしよう」

 計画性のない旅です。

「でも、お腹空いたからまずはお昼ごはんにしよう」

「まだ行ってない店、あるんじゃない?」

 私が知人からもらっていたレストランリストを取り出しました。

「じゃ、ここ行ってみよう。牛肉の煮込み料理の店。歩いて行けるよ」

 ところが…。

「8月20日までお休みです」


の貼り紙が。

「レストランの人もバカンスとるんだね」

「じゃこっち。これはタクシーじゃないと無理だな」

 タクシーの運転手にレストランの住所を教えます。行ってみると、またもや夏休み。

「7月25日から8月31日まで…。書き入れ時なのに、ふざけてんじゃない?」

 バルセロナではお休みの店に出会いませんでしたが、マドリードはバカンスをとる店が多い。マドリードよりバルセロナのほうが観光客が多いのでしょうか。

「どこかマドリードっぽい料理のレストランありませんか?」

 運転手さんに助けを求めました。

「そうだね。夏休みの店も多いけど、今は時間が悪いね。ランチは4時までだから、店がやっていても入れない。ぼくがいいところ知ってるから、そこに案内するよ」

「グラーシアス(ありがとう)」

「そこの角曲がったところね」

 行ってみると…、すでに二日目に行った「サンミゲル市場」でした。

 しかたなく、市場でタパスとビールで腹ごしらえし、歩いて王宮に向かいました。

「すごいね!」

 王宮は、大理石の壮大な建築物です。王宮の裏にはカテドラル。

「ベルサイユよりすごいかも」

 妻と三女は、7年前にパリに行ったことがあります。

「スペインって、お金持ちの国なんだね」

「中南米から略奪したからね」

「そうなんだ」

 三女は大学入試で世界史をとらなかったようです。

 王宮の入り口には行列ができていました。

「美術館みたいに、夕方は入場無料になるのかな」

 案内文を読んでみると、EU居住者に限り、6時以降入場無料とのことでした。

「ぼくたちはダメだね」

「あっ、馬だ!」

 2頭の馬がひづめの音を響かせながら、王宮前を闊歩します。騎手はどちらも女性。ポリスの制服を着ています。

「スペインの警察って、馬なんだ!」

「ここだけでしょう?」

 お土産物屋をみながら再びマヨール広場に戻り、バルで軽食。

「もう一軒、行きたいお店があるんだけど」

 妻がガイドブックを差し出します。チュロスとホットチョコレートのお店でした。

「チュロスにホットチョコレートをつけて食べるんだって。おいしそう」

 場所はプエルタデルソルの近くでした。

 妻も三女もしず地図が読めない女なので私が案内すると、30人以上の大行列でした。

「あきらめよう」

 ホテルに戻ってからも、妻はあきらめきれない面持ち。

 とっぷりと日が暮れた夜10時過ぎ、

「やっぱり行ってみようよ」

「もうやっていないでしょう?」

「このお店、24時間営業らしいわよ」

「えっ? 夜中に行くお客さんとか、いるの?」

「あそこ、繁華街だから」

 1か月以上のバカンスをとるレストランがあるかと思えば、24時間営業のチョコレート屋さんもある…。スペインは奥が深い。

 乗り気ではありませんでしたが、最後の夜だし、つきあうことに。

 11時近くだというのに、店には10人以上の行列が。でも昼間よりはマシです。

 並んでいる間、しばし店を観察。客は中国系の観光客が多い。

「この店、1894年創業らしい。日清戦争のころだな。そんなころからチョコレート食べてたんだ!」

 結構回転は速く、10分ほどで入れました。

「おいしい!」


 妻と三女が声を揃えます。

「並んだ甲斐があったね」

 スペイン最後の長い夜が終わりました。


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