明神館はさよこさんからのお葉書には『フレンチがリニューアル』と書いてありました。いつもモダン和食というカテゴリーのお食事を頂いていましたが、今回はよい機会だとフレンチをチョイス。浴衣をシャツに替え、ジャケットを羽織ろうとしたら、彼女からやりすぎだと指摘を受けて、そういえば足元はスリッパなのがアンバランスではあります。
レストランは四階、黒服の上品な女性が出迎えてくれます。こういうのが、フレンチらしい劇場空間のスタートです。
相変わらずお酒を嗜まない私たちは、オールフリーで乾杯してさっそくコースに入ります。
メニューをみると全部で八品、お皿のタイトルではなく、それぞれの主な素材が書いてあるのが面白いところです。
シェフのメッセージにはこうあります。『主役が100%ではなく、皿にのっているもの全てが100%』食べる方も意欲を持たねばなりません。
マコモ茸をあぶって黄身とビネガーが気泡で膨らんだベアネーズソースで。食感フワフワ。
会田の卵60℃。石は巣。卵の殻が器になって、トウモロコシのメレンゲが蓋する下にトロッと黄身が現れます。殻が割れないようにきおつけながら、スプーンでかき混ぜ、渾然一体にしてから口に流し込みます。
キクイモ、のタイトルで戸惑いました。ホタテ貝のソースとして、甘味に滋味を加えた根菜ならではの旨味を生かしたキクイモのマッシュを使うのです。何という組み合わせ。その発想を知るも楽しく、食べながら、この取り合わせは何だろうとずいぶん頭を使いました。
そして何故美味しいかを舌が探り出したとき、シェフの仕掛けた周到な味のマジックに思わず笑ってしまうのです。
信州牛も、焼いてパリパリの葉っぱやソテーされたアスパラに埋もれて、混声合唱の一員として、ロゼの肉色が微笑んでいるように見えるのです。
タップリ二時間、食後に温泉に入り部屋に帰り着くと、もう何もできません。
本も開かぬままに、目はふさがり、10時過ぎにはシーツにくるまる繭の眠り人となったのでした。
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やっぱり良いね、明神館。