第1種目の走り幅跳びで何とか一位をいただき、12時30分。
2種目目のやり投げのコールまではまだ50分あります。
いったんスタンドの渋谷区チーム陣地にもどります。
雨を避けるためにひさしがかかったスタンド上段に並ぶみなさん。
下から階段を上りつつ見上げると、拍手で迎えてくれます。
思わず涙・・とまでは行きませんが、どうしても笑顔が押さえられずこぼれ出します。
ほめてもらう、というのは嬉しいもの。しかも手をたたき音を出してまで気持ちを高ぶらせて
くれるのです。
チームでいることの一体感で、みんなで進んでいることを確認していけるのは、
喜びと楽しみが渾然一体。
チームで参加するこの大会に、5年続けて出場している最大の理由かもしれません。
他に連続出場している大会はないですから。
汗が気になるウェアを脱いで、Tシャツに着替え、しばらくは応援組に転身します。
男子200mは、短距離のエースにして球技からフルマラソンまでこなす、
腰の据わったU氏が、コーナーを先頭で抜けるとその後もぐんぐうん後続を引き離し、
リラックスした大きなフォームのままゴールにぶっちぎりで跳び込みます。
渋谷区応援団、沸くこと沸くこと。大音声。
続く女子5000mは選手を出していないので、すこし落ち着き、羊羹を間食していると、
やり投げのコールタイム。
ともに出場するH吉さんと、100mスタート地点付近にあるコール=当日参加確認の場所に
向かいます。
このH吉さん、肉体多芸多才の士。
今日はやり投げの後すぐに400mを走り、さらに25分後に100m×4リレーにもエントリーしている、
彫りの深い超イケメンにして超人です。
しかも語る口調も朗らかで、レース前にご一緒するとリラックスさせてもらえます。
私も彼もやり投げは専門ではないので、緊張感が少ないというのもあるかもしれません。
コールをすませて、投擲場所へ移動。
20人近く集まっています。
毎年フィールド競技では人気の高いこの種目、
未経験者でも投げるだけならなんとかなりそうですし、原初的な狩猟民記憶がよみがえり血はたぎる、
しかも翌日に疲れも残りにくいので参加してやろう!と多くの人は考えるのだろうと
勝手に想像しています。
一方やりを一度投げるとすぐわかるのが、2m以上800グラムもある物体をバランス良く加速して、
上空で空気を切り裂くために回転力を与える投げ出しは極度に難しく、練習なくして実現できません。
たとえ腕力が強くても、野球のボールを150キロで投げられる人でもやり投げで結果を残せるわけではないのです。
かなりの技術種目ですので、経験の差が歴然とでて、練習投擲のフォームを見れば、
やりの扱いが慣れているかどうかが分かり、大体自分の位置が察せられます。
今日は・・・ああ第一投者、昔やってました。直接聞いていはいませんが間違いないでしょう。
ゆっくり助走しているだけですが、サイドステップで腰が安定し、
最後の一歩で踏み出しが早く、バネをねじったように腰が回転し、状態がしない、
弓なりに腕が後から追いついてきます。
あのリズム、筋肉の柔軟性が、やりに最大の力を与えるのです。
そして空中高くに飛び出したやりは、すぐに回転を始め、空気を裂く音が聞こえてきます。
私には全く出すことができない、喜んで飛んでいくやりの正しい姿です。
穂先は40mラインを軽くこえ、44メートル。
思わず参加者たちから拍手がでます。これもまた、チームでの応援とは違った意味で
楽しい様子です。いいものを近くで見せてもらったオベイション、リスペクトですね。
さて、その経験者の投擲を見せつけられれば少しは真似たくなります。
みてすぐに真似られるのならそれほど苦労はしませんが、思いだけは募ります。
すぐに修正できるのは、助走のリズム作り。
そして最後の一歩の早い踏みだしだけでもできれば、腰は自然に回ってくれるかもしれません。
考えている内にすぐ自分の順番。
スタート地点に立ち、空を見上げ、視線を落とすと普段はJリーグの試合もする養生が完璧な
芝生が広がります。フンと一息はいて体幹を立て、助走開始。
でも、あれ何歩だっけ、あれあれ、サイドステップを早く始めないと、
投げだし線を越えそうだ。腕を引いて引いて!いろんなことを頭に巡らせているうちに
最後の一歩。ぎりぎりで足の踏み込みを思い出し、
小さくではありますがなんとか腰を回し込みました。
「やー」
自然の声が出ました。
ここだけディーン元気だ、などとほくそ笑むところは中年の余裕とも言えなくはありませんが、
とにかくパワーを集中した実感は残りました。
記録は30m15㎝。1年ぶりの投擲で、なんとか30mを越えました。
3年前のやりデビュー戦では20m行かなかったのですから、これも「初心者範疇の経験者」だと
自分を0.1秒ほめてあげました。
2投目、ほとんど同じ慌てぶりで進歩はありません。
投げ出しの声だけは大きくなったかな?パワーで30m89㎝と少しアップ。
逆に3投目は、投げ出しのシュート回転をさせてやろうと握りが不安定になって、26m16㎝にポトンと落ちました。
同僚のH吉さんはといえば、これが2回目のやり投げだとのこと。
助走の仕方や投げだし、握り方も「見て学んで」いらっしゃいます。
柔軟に技術を吸収しすぐに修正できるのは、さすがに自己の肉体を扱い慣れている方です。
3投目に、それまでの記録を4メートル近く上回る結果を残すのですから大したものです。
私は2位、H吉さん5位で渋谷区チームに15点が加わりました。
競技終了14時40分、私はリレーまで休憩できますが、
H吉さんは20分後の400m走に向かいます。
頑張ってください!
16歳の夏を思い出すように、自然に声が出ました。
本当にいいメンバーです。