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クリムト、シーレ 『ウィーン世紀末展』

2009-10-06 | art


日本とオーストリアの修交140年を記念して、今年、「日本オーストリア交流年2009」 と題されたイベントが、両国で開催されている。
そのイベントのひとつ、ウィーン・ミュージアム所蔵の作品展が7月にまず札幌で開催され、現在東京日本橋の高島屋の中にあるアート・ギャラリーで開催中。
知名度と日本での人気度からか、クリムトとシーレの名前が付いた作品展だが、実際クリムトの作品は少なかった。
当然ながらクリムトのあの大大代表作 「接吻」 は、ベルヴェデーレ宮殿のオーストリア絵画館所蔵のものなので、今回の作品群の中にはなく、私には初見の作品が多かった。

5つのテーマからなり、まず第一章は “装飾美術と風景画”。
プラーター公園やウィーン郊外の風景画などが展示されている中、印象に残ったのがライムント・フォン・シュティルフリートの 「ザンクト・シュテファン大聖堂(St. Stephan)」 と フーゴー・ダルナウトの 「シュトゥーベントーア橋(Die Stubentorbrücke)」。特にシュティルフリートのシュテファン大聖堂は、実際に自分が訪れたことのあるところということもあってか、とても現実的に見てしまい、大聖堂の中に居るかのような錯覚を感じさせるくらいだった。
上に向かって高く伸びるゴシック様式の柱やヴォールトの天井の模様がとても繊細で、厳かで美しい大聖堂の内陣が丁寧に描かれていた。
 フーゴー・ダルナウト 『シュトゥーベントーア橋』(1901)

第二章は “グスタフ・クリムト”。
クリムトの作品の他に、弟エルンスト・クリムトと友人フランツ・マッチェの作品があった。
弟のことは、ここに来るまで知らなかった。クリムトと言えば金箔をあしらった画法が特徴だが、弟は後に彫金師となって兄の作品を飾る額の設計をしていたそうで、弟の作品にも金箔が使われていた。
「宝石商(Der Juwelenhändler)」 という作品はまるで写真のようで、宝石を手に取る女性の指先がとても美しかった。
兄の作品は、初期の “古典主義的” と言われる 「寓話(Fable)」 や 「牧歌(Idylle)」 もあり、自分が知っている官能的で煌びやかなイメージとは違い、イタリア美術的な感じがした。
「愛(Liebe)」 は本当に美しくて切なげで、それでいて官能的でうっとり・・・。クリムトが生涯追い続けたであろう “愛” と “輪廻” と “美” が、狂おしいくらいに表現されていた。
本展の目玉とされていた 「パラス・アテナ(Pallas Athene)」 は、力強くて迫力があったがさほど感動はなし。
 グスタフ・クリムト 『寓話』(1883)
 グスタフ・クリムト 『愛』(1895)

続いて第三章は “エゴン・シーレ”。
シーレの作品は、画集やウェブ上の画像などでしか知らなかったが、実はそれまで目にしていた彼の作品は、個人的にあまり好きではなかった。彼の苦悩や欲望がむき出しに表現されたエロティシズムに、私は美しさを感じることができない。しかし、今回実際にこの目で見たあとその印象が少し変わった。
“私の自画像はない、絵の対象としては自分自身に興味がない” と言ったクリムトとは対照的に、自画像が多いシーレ。
その自画像にはあまりグッと来なかったのだが、「イーダ・レスラー(Ida Roesler)」 という作品に惹かれた。
シーレの絵は茶色や灰色のイメージが強かったが、それはハッキリとした大胆な色使いで、ツンとした気取った感じの婦人の表情を、目や唇の細かな柔らかなタッチで素晴らしく表現されていた。
シーレはこの女性のポートレートをたくさん描いている。美術評論家で、シーレの良き理解者だったらしい。
他に 「ウィーン工房のハガキ(Postkarte Wiener Werkstätte)」 という絵葉書のシリーズがあり、今回シーレの作品を見て変わったという私の印象は、この絵葉書シリーズによる。タッチが繊細で、これまで彼の作品では感じなかった美しさが感じられ、素晴らしかった。ハガキ・サイズでは物足りないくらいだ。
 エゴン・シーレ 『イーダ・レスラー』(1912)
 エゴン・シーレ 『ウィーン工房のハガキ』(1910)

第四章のテーマは、“分離派とウィーン工房”。
まず最初に目に入ったが、1900年にセセッシオンで開催された 「第6回ウィーン分離派展 “日本特集” のためのポスター」。それは、浮世絵版画が組み込まれたポスターだった。
ここでは、建築家オットー・ワーグナーの 「シュタインホーフの教会[草案](Kirche am Steinhof [Vorprojekt])」 があり、彼が手がけたアム・シュタインホーフ教会の貴重な原案画を見ることができた。
ウィーン工房を設立したコロマン・モーザーの作品が多く、ここにもメラ・ケーラーとマリア・リカルツの 「ウィーン工房のハガキ」 シリーズがあり、特にメラ・ケーラーのアール・ヌーヴォー調のドレスに身を包んだ麗しい貴婦人たちは、当時のファッション誌から飛び出してきたかようだった。
コロマン・モーザーは、オットー・ワーグナーが設計したアム・シュタインホーフ教会の祭壇やステンドグラスも手がけた人だそうで、「“フロメのカレンダー”のためのポスター(Plakat für "Fromme's Kalender")」 という作品が気に入った。フロメって何だろう、お店か何かの名前だろうか・・・。
オスカー・ココシュカの石版画 「夢みる少年たち(Die träumenden Knaben)」 という作品が面白く、8枚組でそれぞれ物語風になっていて、まるで絵本のようだった。色使いがステキで、右側に書かれているドイツ語が読めたらもっと楽しかったのに・・・と思った。
 オスカー・ココシュカ 『夢みる少年たち』(1908)の一部

最後のテーマは “自然主義と表現主義”。
ここでは、12音技法を確立した音楽家のアーノルト・シェーンベルクと、マックス・オッペンハイマーが印象に残っている。オッペンハイマーのエゴン・シーレの肖像画は、特に手の辺りがまるでシーレが描いたかのような画風だった。
 マックス・オッペンハイマー 『エゴン・シーレ』(1910)

まだまだ知らない画家の作品をたくさん鑑賞することができ、そして、またウィーンに早く行きたいという気持ちに駆り立てられた。
“作品を保護するために照明を暗くしています” というのは、日本の美術館によくあることだが、絵を照らしている照明が反射して見辛く、正面から見ると光って見えないので、しゃがんだり横から見なければちゃんと見えない作品がたくさんあったのが残念だった。
○○美術館とかでの開催ではないので、街中でもポスターなどの告知は見かけず、なんとなくひっそりと開催されているような感じでとても空いていた。
ステキな作品がたくさん展示されているのにもったいないなーと思いながら、ショップで気に入った作品のポストカードを買って(ないのもあったのが残念)、同時開催されていた “オーストリア・フェア” に立ち寄ると、カイザー・ゼンメル(パン)を見つけて心が躍った。
迷わず購入してヴルスト・ゼンメル(ソーセージ・パン)を作って食べたが、ゼンメルの味がイマイチだった。


ウィーン・ミュージアム所蔵 『クリムト、シーレ ウィーン世紀末展』
東京日本橋高島屋8階アートギャラリー
10月12日(月)まで開催
午前10時 ~午後8時(最終日は午後6時まで)

大阪サントリー・ミュージアム天保山
10月24日(土)~12月23日(水)
午前10時半 ~午後7時半(会期中無休)


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