2008年度の第81回アカデミー賞主演男優賞とオリジナル脚本賞を受賞した作品、『MILK』 を観に行ってきた。
同性愛者であることを公表し、ゲイの権利活動家・政治活動家としてアメリカ史上初の公職任務に就いた実在の人物ハーヴィ・ミルクの半生を描いた、ショーン・ペン主演、ガス・ ヴァン・サント監督の作品である。
実話ということもあり、ドキュメンタリー・タッチでところどころに当時の映像を織り込め、とても活気ある素晴らしい作品だった。
何と言ってもショーン・ペン、彼が見事だった。スクリーンの中の彼は、正にハーヴィ・ミルクそのものだった。
時は70年代、舞台は合衆国におけるヒッピー・ムーブメントの中心地、サンフランシスコ。
サンフランシスコは、私が唯一好きなアメリカ西海岸の街で何回か行っているが、実際に行ったことのある場所や地名が出てきたことも、この作品を楽しませてくれた要素のひとつだった。
同性愛者というマイノリティが、社会で生きて行くのがどれだけ厳しいかということ。そしてそんな逆風に屈することなく、バイタリティ溢れる精神で社会と向き合って行く、希望に満ちたハーヴィの姿はとても前向きで勇敢で、そんな彼を支持する人がどんどん増えて行ったのは、とても自然なことだったということがわかる。
物語は、ハーヴィが “もしものために” と題し、暗殺された時だけ公開してほしいとメモを残し、自分の半生をテープに録音しながら語って行く。そしてそれと同時に、映像が展開して行く。
ニューヨークで同性愛者であることを隠して暮らしていたハーヴィは、ひと目惚れしてナンパしたスコット・スミスと共にサンフランシスコに移住し、カストロ地区で暮らし始める。今でもここにはゲイのコミュニティーがある。
そこで小さな店を構え、やがてゲイ・コミュニティーの代表としてリーダーシップを取り、“カストロ通りの市長” と呼ばれるようになるハーヴィ。
サンフランシスコ市議会に立候補し、2度落選したが、その度に支持者をどんどん増やして行き、3度目にして当選。そして彼は、ゲイであることを公表した上で、合衆国の大都市の公職に選ばれた最初の人物となったのだった。
在職中はサンフランシスコ市の同性愛者権利法案を後援し、“条例6” という同性愛者という理由で職を解雇できるとする法条例の破棄運動に精力を費やしたのだったが、辞職した議員ダン・ホワイトによって、ハーヴィの功績を支持した市長と共に、市庁舎で射殺されてしまう。
辞職を無効にしようと躍起になったホワイトだったが、市長の判断で再任命されず、それによって精神的に追い詰められた結果取った行動だった。
ハーヴィの葬儀の夜、多くの人々が彼の功績をたたえ、死を悼み、キャンドル・ライトを手に行進する様子は、圧倒的な感動のシーンだった。この行進は、自然発生したものだったそうだ。
一般庶民との連帯はなかったと言われる彼だが、それでも多くの人に愛され、敬われていたのは、彼のチャーミングなその人間性であろう。
そのことは、大通りの遥か彼方まで埋め尽くされたキャンドル・ライトの灯が物語っていた。
当選パーティの場面で流れたSly & The Family Stone(スライ&ファミリー・ストーン)の 「Everyday People」 が、そのシーンにピッタリで、自分も一緒に当選のお祝いをしているような気分になり、とても心踊らされた。
エンド・ロールでは、ハーヴィと彼の傍で一緒に戦い、支えた仲間たちの実際の写真が出たのだが、ハーヴィ本人はもちろん、みんな本人と瓜ふたつというくらい似ていた。
途中、活動家として大きくなって行くハーヴィの元を去って行くスコットだったが、最後までハーヴィを愛していたんだということがヒシヒシと伝わってくる、スコット役のジェームズ・フランコ(『スパンダーマン』 の主人公のピーターの友人で敵のハリー役)も好演だったし、ハーヴィの側近のひとり、グリーヴ・ジョーンズ役のエミール・ハーシュは、最後にクレジットが出るまで誰だかわからなかった。ショーン・ペン監督の 『イン・トゥ・ザ・ワイルド』 とは全く違い、本当にグリーヴ・ジョーンズ本人そっくりだった。
ハーヴィ・ミルクというひとりの人物をちゃんと知ることができ、そして、ショーン・ペンとハーヴィ・ミルクのふたりの魅力に触れることのできる、素晴らしい作品だった。