私がThe Black Crowesを好きだということを知っている人は、“あー、やっぱりねー” と思うだろう。
でもこの人たちの音楽をよく聴いていた当時、バンドをやっていた男の子によく 「女の子が聴くって珍しいね」 って言われた。
まあ当時の女子は、ニューロマ系にハマってる子が多くて、やれJohn Taylor(Duran Duran)だの、デヴィ・シル(David Sylvian / JAPAN)だのと騒いでいたから、そういうことを言われても仕方なかったのかも・・・。
いや、私だってDuranは好きだったし、John Taylorの美形ぶりにはうっとりしたクチだ。
でも、でも、この飾らないアメリカの大地を思わせる、男くさくて田舎くさいロックン・ロールは、何故か自然と耳に馴染んでいた。
アメリカ南部ジョージア州Atlanta出身(全くCrowesと同じ・・・)の4人組、その名もまんま、The Georgia Satellites。
この人たちの音楽を言葉で連想すると、「土」 「酒場」 「カウボーイ・ハット」 「泥まみれのトレーラー」 「Gジャン」 「ボッ・キュン・ボンの派手なお姉さんたち」 「バーボン」 etc...とまあ、典型的なアメリカの片田舎が浮かぶ。
実際、“田舎もの” とか “イケてない集団” とか、それはもう言いたい放題言われていたのは確かだった。でも、そんな外見なんていいじゃないか。音が良ければ・・・。(でもVo.のDan Bairdは、カッコ良かった)
Satellitesの音楽は、全曲にボトル・ネックのスライド・ギターがうなりまくり、ご機嫌なテレキャスが炸裂していて、ベース・ラインもイカしている。
そして何と言っても、グルーヴ! このグルーヴ感がたまらなく好きで、こういう音が今や私のルーツ的存在となっている。
彼らの音を知らなくてもこの時代に洋楽を聴いていた人なら、トム・クルーズ主演の 『カクテル』 で流れる 「Hippy Hippy Shake」 を歌っていたバンド、と言えはわかるだろうか・・・?
私はアメリカ南部へは、テキサス州のDalasにしか行ったことがないが、きっとAtlantaも同じような匂いがするのだと思う。お酒は飲めないけど、Satellitesの音にはバーボンの香りがする。
そして郷愁に満ち溢れていて、地元の酒場で綺麗なお姉さんにちょっかい出しながら酔っ払っているオヤジたちが目に浮かぶ。
「女の子が聴くって珍しいね」 と言われても仕方がなかったのかも知れない。巷では、“田舎のFaces” とか “Stonesフォロアー” とか言われていたが、私の耳には典型的なアメリカの音として入ってきた。
Satellitesよりは古いが、同じ南部出身でも何故かLynyrd Skynyrdはさほどハマらなかった。「Free Bird」 と 「Sweet Home Alabama」 は好きだが・・・。
それは、やはりDanのVo.にあったように思える。Vo.の声質とギターのメロディで好き嫌いがハッキリしてしまうのだ。
89年にリリースされたこの3rdアルバム 『In The Land Of Salvation And Sin』 は、Danが在籍した最後のアルバム。
もう思わず踊り出したくなるような、なんの飾りもないストレートなロック・ナンバー満載の最高傑作。
Danの元気のいいVo.とギターの音が絶妙に絡み合い、親しみやすいメロディを聴いているだけで、本当に気持ち良くなる。
それまでのSatellitesは、結構ストレートなワン・パターンのロックン・ロールが中心だったが、このアルバムではリズムに変化を加えたり、アコースティック・ナンバーを入れたり、泣きのスライド・ギターを全面に出したりと、様々な試みをしている。
だがそれは決して方向性を変えたという訳ではなく、楽しくノリのいいロックには変わりない。
一曲目から軽快なロックが駆け巡る。Drs.&Bのリズム、うなるギター、転がる様にすべるホンキー・トンク・ピアノ、そしてパワー全開のVo.。
彼らの曲には、必ずと言っていいくらい、ご機嫌なメロディの中にホロッとしてしまうようなフレーズがある。
M-2 「All Over But The Crin'」 でのオルガンの音がドラマティックに流れるサビもそうだし、ミディアム・ロックのM-5 「Six Years Gone」 のサビのメロディはノスタルジックで、じわじわーっとしみるDanのVo.に虜になってしてしまう。
ひとつ戻って、M-4 「Shake That Thing」。この曲の変則的なDrs.のリズムとスライド・ギターの音色は、めちゃくちゃカッコいい。この曲は、Little FeatのLowell Georgeに捧げた曲で、Feat並みのリズム・セクションを展開している。
車のCMでお馴染みの 「Hush」 を歌っていたJoe Southのカヴァー曲、M-6 「Games People Play」 では、BのRick PriceがリードVo.を取っている。
この曲はカヴァーでありながらも、“これぞSatellites!” というような音で、サビの “La da da da・・・La da da dee~” のコーラスは、つい大声で一緒に歌いたくなってしまう。
ガラッと変わって、M-7 「Another Chance」 はドラムレスのドブロやマンドリンが入ったカントリー・テイスト溢れるテンポのいいアコースティック・ナンバー。Vo.も全員が掛け合う曲で、こういう曲をライヴで聴いたらきっと楽しいだろう。
その後も痛快なロック・ナンバーが続き、M-11 「Sweet Blue Midnight」 では、「Shake That Thing」 でもバック・コーラスをしている、70年代ウェスト・コースト系ミュージシャンの妹分と言われ、Neil Youngのバック・アップでデビューした、少女のような可愛い声が印象的なNicolette Larsonとデュエットしていて、その愛らしいVo.とDanのちょっとダミった声が妙にマッチしている心地よいバラード。
もちろんここでもスライド・ギターが泣きまくっている。哀愁漂うメロディを、彼女の声が更に切なくさせている。

M-12 「Days Gones By」 は、GのRick RichardsがリードVo.を取っている。SatellitesにはRickがふたりいて、それぞれ “A-Rick” “B-Rick” というニック・ネームが付いている。
このA-Rickは、後にIzzy Stradlin & The Ju Ju Houndsのメンバーとなる。
そして最後に2曲、気持ち良くロックして全14曲が終る。最初にも書いたが、Satellitesのアルバムではヴァラエティに富んだサウンドが散りばめられているこのアルバムが、やはり最高傑作だ。
Danが抜けた後のSatellitesは、ふたりのRickがVo.を取っていたが90年に解散。
Danはソロで活動し、最高に気持ちのいいロック・アルバムをリリースした。彼のソロについてはまた改めて取り上げようと思っている。最近の彼はプロデューサー業も行なっているようだ。
ちなみに、今ではアメリカン・ロック屈指の名プロデューサーBrendan O'Brienは、Satellitesの初期のメンバーだった。

