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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

2009-03-12 | cinema & drama


最近劇場で観るのはミニ・シアター系の作品ばかりだったが、久しぶりに大作を観に行ってきた。
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生 / The Curious Case of Benjamin Button』、ブラッド・ピット主演の話題の映画。
167分という長編だったが、全くその長さを感じず、観終わったあと、何とも言えない不思議な気持ちになった。
時計が逆回りして行くように、80歳の姿で生まれて成長するにつれて若返って行くという、自身に課せられた運命を受け止め、一生を終えて行くひとりの男の姿が、とても丁寧に描かれていた。
実父に捨てられて、育った環境が老人施設だったということもあり、ベンジャミンは周囲から異様な目で見られることもなく、たくさんの人と触れ合いながら淡々と時は流れて成長して行く。
心を通わせた女性デイジーとの普遍的な愛。彼女はどんどん老いて行く一方、彼はどんどん若返って行く。ケイト・ブランシェット演じるデイジーのジレンマは、同じ女性としてとても共感した。同様に、ベンジャミンも精神と肉体のジレンマに苦しむ。
ベンジャミンが出会う多くの人は皆とても温かく、中でも最初に出会った育ての母親クィーニーの存在がとても大きかった。

監督はデヴィッド・フィンチャーで、ブラッド・ピットとは 『セブン』、『ファイト・クラブ』 に次いてタッグを組んだ。
先日発表されたアカデミー賞では、美術、メイクアップ、視覚効果の3部門を受賞したが、技術の進歩とは言え、老いた姿や若返った姿はとても自然だった。
先ごろ来日した時にブラッド・ピットは、若返った姿はCGのお陰さと笑いながら言っていたが、昔懐かしい “カッコいいブラピ” がそこに居た。
ヨットでセイリングしている姿やバイクに乗っている姿は、若かりし頃のLEVI'S501のCMを思い出させた。そして、ケイト・ブランシェットはとてもとても美しかった。
登場人物の中でツボだったのが、7回も落雷に遭ったというおじいさん。そのことを何度もベンジャミンに話し、その度に被害に遭ったシーンが無声映画のようなモノクロの早回しの映像で流れて、思わずクスッと笑わせてくれた。
人とは違った運命を背負いながら、生きることの喜びや悲しみ、人との出会いと別れを経験していくベンジャミンの姿の中に、“人生は後戻りすることができない” というメッセージが込められた、魅力あるステキな作品だった。



『つみきのいえ』

2009-02-24 | cinema & drama


CONGRATULATIONS!!

『おくりびと』 が第81回アカデミー賞の外国語映画賞を受賞し、日本映画界初のオスカー受賞という快挙。やはり嬉しいものだ。
納棺師という、あまりにも日本的すぎる内容が、海外の人々の心に届いたというのが素晴らしい。死者を弔い、送り出すといういとなみが、とても神聖なものとして受け止められたということだろう。これは、是非とも観に行かなければ・・・。
『おくりびと』 は、モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞したり、つい先日発表された日本アカデミー賞の各賞を総ナメしたので、作品の評価はわかっていたが、それよりも何よりも気になったのが、同アカデミー賞で短編アニメーション賞を受賞した、加藤久仁生監督の 『つみきのいえ』。
12分という短いフィルムで、全部鉛筆の手描きのアニメーション。受賞のニュースでその映像の一部が流れたのだが、画のタッチがとても温かくてほのぼのしている。そして、主人公のおじいさんが、とってもチャーミングだ。
海面上昇という現在の抱える問題を背景に、積み木のように家を上へ積み上げて建て増ししていくひとり暮らしのおじいさんが、亡くなった奥さんや結婚して家を出た子供の思い出とともに人生を振り返るという、ノスタルジックでかつ現実的に描かれている作品。
既にDVDが出ていて、絵本にもなっていることがわかったので、さっそく入手してみようと思う。


 絵本    DVD(ナレーション:長澤まさみ)

こちらで絵本の一部が読める。

『ホルテンさんのはじめての冒険』

2009-02-17 | cinema & drama


二週間ほど前になってしまうが、映画の試写会に行ってきた。
この頃はもう滅多に試写会の応募はしないのだが、たまたま公開されたら絶対観に行こうと思っていた作品だったので応募したところ、まんまと当選。
『ホルテンさんのはじめての冒険』 という2007年のノルウェー映画で、試写会の場所はノルウェー王国大使館。それだけでも、なんだかわくわくしていた。
広尾の閑静な住宅街を抜けて行くと、右にノルウェー王国大使館、左にはスイス連邦大使館があった。
門のところで係りの人が出迎えてくれ、敷地内に入ってプール付きの庭に面した多目的ホールに入り、受付でノルウェー関係のパンフレットやポストカードをもらった。
50脚ほどの椅子が並べられた白木造りのホールの壁には、ノルウェーのポスターや、日本人アーティストが織ったというノルウェーの伝統的な模様のタペストリーが飾られていた。
開演前に大使館の人から挨拶があり、ノルウェーについての話の中で、国の独立を最初に承認したのが日本で、ノルウェーからはとても身近に感じられている国なのだということを初めて知った。

映画はまだ公開前なので、詳しい内容には触れないようにするが、とにかく素敵な映画だったということは先に伝えておこう。
観なくちゃと思いつつも結局まだ観ていない、『キッチン・ストーリー』(2003年)のベント・ハーメル監督の新作。
ノルウェーの首都オスロと、ノルウェー第2の都市ベルゲン間を結ぶベルゲン急行の生真面目運転士、オット・ホルテンさん67歳が主人公。
勤続40年、規則正しい生活を毎日送り続けてきたホルテンさんが、ついに定年を迎えるという日の前夜、同僚たちが送別会を開いてくれた。
鉄道ファンが泣いて喜びそうなそのパーティの趣向が、笑いを誘う。そんな場でも、ホルテンさんは生真面目。翌日の勤務に備えて早く帰ろうとしたが、二次会に誘われて断れずに結局付いて行った先で、予期せぬ出来事に遭遇。
そして、かなり笑えるその予期せぬ出来事によって、最後の勤務に大遅刻してしまったから、さあ大変! そこからゆ~っくりと、ホルテンさんの中の何かが解けて変わって行く。
「人生はいつも手遅ればかりだ。だけど逆に考えれば何でも間に合う」 と言う登場人物のセリフ。“そういう考え方もあるんだ” と改めて思うと、ポジティヴに考えることができる。
決められた枠の中で人生を送ってきたホルテンさんが、一歩を踏み出すことによって、戸惑いながらも今までとは違う何かを感じて行く。
そして、定年退職後もずっと制服を着ていたホルテンさんが、初めて私服になったことがメッセージとなる、人生最大の冒険(ホルテンさんの場合は何なのかは、観てのお楽しみ)へと臨んで行く姿に、温かい気持ちになって勇気をもらうことができた。
 ひと癖もふた癖もある欠かせない登場人物たち
 初めて私服になったホルテンさん

セリフは少なく、ゆる~く進んで行くが、そこかしこにクスッと笑えるユーモアが散りばめられていて、ほっこりとした気持ちにさせてくれる、とても優しくて温かい作品だった。
そして、いつもとは違うことに一歩踏み出すことは勇気はいるけど、それがいかに大切かということ、そうすることによってこれまで見えていなかったものが見えてくるということを教えてくれる、素敵な作品だった。
ポスターやフライヤーでホルテンさんが抱えている大きな犬のモリーは、特にストーリーに絡んでくるわけではないが、何とも言えない存在感がある。
このモリー(本名も同じ)は、本作品で2008年カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞審査員特別賞を受賞しているらしい。パルム・ドッグ賞とは、その年の出品作で優秀な演技を見せた犬に贈られている賞で、映画祭の最高賞パルム・ドールをもじって名づけられた賞。
「ニッサンが日本の会社だって知ってたか? スウェーデンって言うならわかるけど、日本だなんて信じられないよ」 というセリフや、ホーム・バーにサントリーのウィスキー “響” が置かれてあったりして、監督は日本好き?なんて思ったりする一面もあり、列車の連結の様子や、運転席からの車窓、真っ白な雪原風景や趣きのある街の様子など、旅行好きにとってもわくわくさせられる映像がたくさんあり、バックに流れる音楽も優しくて美しく、物語にとても合っていた。






★日本公式サイトはこちら。オリジナル公式サイトはこちら
★この(↑)予告編はUS版だが、上記公式サイトで日本版とオリジナル版を比べてみるのも面白い。やはり日本版はツボを得ていて、観たいという気持ちにさせる。
  でも、決して良いとこ取りの予告編ではなく、本当にステキな映画なので、是非お薦めする。そして、北欧好き、旅行好き、鉄道好きにもお薦めだ。
★2月21日より、東京Bunkamuraル・シネマ、大阪梅田ガーデンシネマ、神戸シネ・リーブル神戸にて公開。以降、順次全国で公開。

『ブロークン・イングリッシュ』

2009-01-30 | cinema & drama


今月は、よく映画館に足を運んだ。そして、今日はちょっと毒を吐く・・・。

第二のソフィア・コッポラと言われている(らしい)、若手女性映画監督ゾエ・カサヴェテスのデビュー作 『ブロークン・イングリッシュ』。
俳優として 『ローズマリーの赤ちゃん』 に出演し、インディペンデント映画というジャンルを確立した映画監督、ジョン・カサヴェテスの娘である。母親は女優のジーナ・ローランズ、兄も俳優で、『きみに読む物語』 の監督をしたニック・カサヴェテス。母親は、夫・息子・娘のそれぞれの作品に出演している。
ニューヨークとパリを舞台に、30代独身女性の揺れる感情を、リアルかつロマンチックに描いたラブ・ストーリーという振れ込みだった。ニューヨークとパリ、どちらも行ったことのある好きな街だったので、このふたつの街の風景が観れるということの方に興味を持ち、観たのだが・・・。
結論から言うと、ソフィア・コッポラの足元にも及ばないと思った。比べること自体、ソフィアに失礼だ。個人的な意見だが、ただ単に若手女性ということと、監督・俳優一家の血を引いているという環境が一緒なだけで、“第二の・・・” と言われているだけだと思った。

ニューヨークに住む30代独身女性ノラ。それなりに不満はあるものの、安定した仕事に就き、友達との食事やヨガ通いなども楽しみ、自立して生活している。
親友は自分が紹介した男性と結婚し、そのことで母親に皮肉られ、一夜を共に過ごした男性には恋人がいて、母親が引き合わせた男性は失恋を引きずっていて、恋愛に関しては結局どれもうまく行かない。
愛する人、愛される人がいなくて、恋愛に対して臆病になって行く一方。そのためストレスが溜まり、情緒不安定にまでなって行く。
そんな時、同僚のホーム・パーティで、優しくて情熱的なフランス人男性ジュリアンに出会い、お互いに惹かれ合って行く。
これまでの経験から弱気になるノラとは対象的に、ジュリアンはどんどんアプローチしてくる。“一緒にパリに行こう” というジュリアンの誘いに、自分に素直になれないノラは断ってしまい、やがてジュリアンは電話番号のメモだけを残して、パリに帰ってしまう。
ひとりになったノラは、いつものように親友とヨガに行ったり、ネイル・サロンに行ったりの日々を送るが、ジュリアンのことが気になり、結局行動派の親友と一緒に彼を探しにパリに行く。
しかし、ジュリアンの電話番号のメモを無くし、あてもなく彼を探すが見つかりっこない。親友は夫と問題を抱えていたが、パリに来たことで考え直すことができ、夫とやり直す決心をして帰国するが、ノラはそのまま残る。ノラとジュリアンは、再び出会うことができるのか・・・。

とまあ、結末は伏せておくが、同じ女性として所々で共感できる部分は少しあったものの、チープでありふれたストーリー展開で、不自然さが目立った。
例えば、パリに行くことになるくだり。普通は、行く前に電話をするだろう。もし自分の気持ちを相手に悟られたくないのなら、“久しぶり、元気?” だけでもいい。その時は、パリに行くと言わず、電話番号を確かめるだけでいいのだから。ビックリさせたいから、という気持ちがあるのなら、パリに行ってから連絡をするだろう。しかし、ノラは電話番号のメモを無くしてしまう。そして、それで終ってしまうのだ。
そもそも、ジュリアンとの出会いは同僚のパーティ。確かその同僚がフランスに留学していたときに、ジュリアンの家にホーム・ステイしていたと言っていた。なら、住所もわかるだろうに。メモを無くしたあと、その同僚に電話しているが、留守電だったと言っている。いや、それで終らないでしょ、普通は・・・。
ニューヨークにいるのなら少しは諦めるかも知れないが、パリにまで来ているのだから、話が出来るまで電話するし、電話が欲しいとメッセージを残すのも当たり前のこと。
ジュリアンが、電話番号だけ残して行ったっていうのも不自然。現代の話なんだから、メール・アドレスも教えるのではないか。音響の仕事をしているジュリアンに、インターネット環境がないとは思えない。
これらは皆、演出だ、映画だからと言われるとそれまでだが、等身大の女性をリアルに描くと言うのなら、もっと現実的に描いても良いと思う。ノラの人物像も、どこか中途半端だったし、ジュリアンの背景もほとんど描かれていなかった。
あと、誰もが予想できるラストの展開。最後の最後に、“ありきたり” の波がどっと押し寄せた。ロマンチックだとは、私には到底思えなかった。
辛口なことばかりだが、つまらなくて寝てしまうほどではなかったのは、ニューヨークとパリの風景が紛らしてくれたので、淡々と観ていられたという感じ。
そしてこの映画は、男性が観ると絶対につまらないだろう。

ノラのファッションは可愛かったが、ドレア・ド・マッテオ演じる親友のキャラクターの方が、ノラよりもインパクトがあった。
ジュリアン役のフランス人俳優メルヴィル・プポーは、なかなかイイ男。彼は兄弟でバンドを組み、ソロ・アルバムも出しているミュージシャンらしい。
ケイト・ハドソン主演の2003年作 『ル・ディヴォース~パリに恋して~』 に、ナオミ・ワッツの夫役として出演している。

『Paris パリ』

2009-01-27 | cinema & drama


ズバリ、『Paris パリ』 というタイトルの映画。もちろん舞台はパリ。パリに暮らす人たちの群像劇。昨年、Yahoo! JAPANに特集ページがあって、そこで予告を観て興味を持った。
Bunkamuraル・シネマは帰宅途中に寄れるので、無駄足ではなかったが、いつ行っても満員で、先週やっと観ることができた。
監督は、セドリック・クラピッシュ。(代表作は、『猫が行方不明』 『スパニッシュ・アパートメント』 『ロシアン・ドールズ』 など。)
物語は、ある姉弟を中心に展開して行く。3人の子持ちのシングル・マザーの姉エリーズ役は、私の好きな2作品 『存在の耐えられない軽さ』 と 『ショコラ』 でヒロインを演じたジュリエット・ビノシュ。
ムーラン・ルージュのダンサーだった弟ピエールが心臓病とわかり、彼を支えるために一緒に暮らすようになるところから物語は始まる。
死を意識したピエールが、アパートのベランダから眺めるパリの街。向かいのアパートに住む美しいソルボンヌ大学生、その大学生に恋してはしゃぐ老教授、マルシェ(市場)で働く人々、いつも文句ばっかり言っているパン屋の女主人、ファッション業界の派手な女たち・・・などなど。
それぞれがパリを愛し、パリに生き、パリに文句を言い、パリで悩む日常。誰もが抱えている痛みや辛さ、哀しみや喜びが交差して行く。そこには、いつもと変わらないパリの街がある。
残された日々を悶々と過ごすピエールには、今までの不満だらけの何気ない日常も、大切なものになって行く。

特にクライマックスがあったりするような展開ではなく、淡々と過ぎて行く人々の普通の日常を、要所要所にユーモアを交えながら、ひとつひとつ丁寧に描いている。
人と人との繋がりが、別のようで別ではない接点があったり、思いがけないところでその接点を発見することができる。でも、登場人物がとても多くて、繋がりを把握しきれない部分もあった。
何気なく通り過ぎて行く日々を、もっと大切に、そして自分自身で楽しまなきゃということを教えてくれる。生きていることを改めて実感する、人間味のあるいい映画だった。
予告編のイメージ・ソングがKeane(キーン)の 「Somewhere Only We Know」 だった。でも、劇中やタイトル・ロールでも一切この曲は流れなかったので、日本だけのオリジナルなのかも知れない。この曲は、既にキアヌ・リーヴス主演の 『イルマーレ』 の主題歌になっているから、逆にそれで良かったと思う。

それにしても、ジュリエット・ビノシュがキュートだった。『ショコラ』 では明るく朗らかな美しい女性、『存在の耐えられない軽さ』 では芯の強いコケティッシュな女性を演じていたが、今回とても彼女を身近に感じたのは、“普通” が描かれていたからかも知れない。とても魅力的だった。


パリの風景はとっても美しく、画になるメジャーなエッフェル塔やノートルダム大聖堂、モンマルトルのサクレ・クール寺院を始め、ディープなカタコンブや地元の人たちの生活に密着したマルシェや、パリに欠かせないカフェなど、パリのいいところも悪いところも様々な角度から伝えようとしている、メッセージのような映像だった。
ラスト・シーンで、ピエールの目線で流れて行くパリの街のアングルが、特に切なくて美しく、印象的だった。
パリでなくてもいい。東京でも大阪でも、ニューヨークでもロンドンでも同じ。生きているのだから、それぞれが抱える問題はつきもの。その街が好きか嫌いかはともかく、自分の人生、悔いのないように生きなきゃ!






★日本版公式サイトはこちら
★オリジナル公式サイトはこちら

『once ダブリンの街角で』

2009-01-18 | cinema & drama


2007年に公開された映画、『once ダブリンの街角で』 が、主役のふたりのデュオThe Swell Season(スウェル・シーズン)の来日に合わせて、一週間限定でレイトショーでアンコール上映されていた。
前から観たいと思っていた映画だったし、Jack's Mannequin(ジャックス・マネキン)のライヴが終った時間が早かったので、食事してから観に行った。
今回のこの公開はたまたまインターネットで見つけて、来日公演もその時知ったのだが、チケットはSOLD OUTで追加公演も決定という大盛況ぶりに驚いた。映画への期待も膨らむ。

邦題にあるとおり、舞台はアイルランドの首都ダブリン。
ストリート・ミュージシャンの男性と、彼の歌を聞いていたチェコ移民の女性の、音楽が心と心をつなぐハート・ウォーミングな物語。
それぞれ俳優ではなく、本物のミュージシャンが演じているので、歌や演奏は元より、ミュージシャンとしての苦悩なんかもよりリアルに表現されていた。
男(劇中で名前は明かされない)は、地元アイルランドの人気バンドThe Flames(フレイムス)のフロントマンGlen Hansard(グレン・ハンサード)で、しかも監督はそのバンドの元ベーシスト。女(こちらも名前は明かされない)は、チェコのSSW、Marketa Irglova(マルケタ・イルグロヴァ)が演じている。ちなみにGlen Hansardは、1991年の映画 『ザ・コミットメンツ』 にも出演している。
男は母親が死んでから、父親の家業である掃除機の修理屋を手伝うかたわら、ボロボロのギター1本でストリートで演奏する日々を送っていた。
他の男とロンドンに行ってしまった愛する恋人が忘れられず、部屋には写真を飾り、寂しい気持ちを歌に託していた。
人通りの多い昼間は誰もが知っている歌を歌い、夜は思いっきりオリジナルを歌う。そんな男の前に、ある夜ひとりの女が現れ、10セント硬貨をギター・ケースに投げ入れる。“10セントか・・・” と言う男の皮肉は通じず、女はまるで尋問のように根掘り葉掘り男に質問する。そのシーンでは、なんか嫌な女だなと感じてしまうくらいしつこかった。
結局掃除機の修理まで約束させられ、翌日本当に掃除機を持って再び男の前に現れた女。その時も、今から休憩だから後にしてくれという男につきまとい、一緒にランチをする。
そこで音楽の話になり、初めて素直に打ち解けることができたふたりは、女がピアノを弾かせてもらえるという楽器店に行き、セッションする。初めてとは思えないほど息が合い、通じ合うものを感じた男は、一緒に曲作りや演奏をすることを提案。ものおじしない女は、即答でOK。
音楽を通して、ふたりの中で特別な感情が生まれて行く。しかし、男は去って行った恋人が忘れられずにいる。一方女には祖国に別居中の夫がいて、子供には父親が必要だと思っている。
やがてロンドンに渡る決心をした男は、女にデモ・テープのレコーディングを手伝ってくれないかと言う。男はバック・バンドをストリートでスカウトし、女はスタジオ代を値切ったり、古着屋で男のスーツを見立てたり、ミュージシャンに憧れていた銀行の頭取から貸付を承諾させたりとチャキチャキこなして行き、その行動力に男は圧倒されるほど・・・。
レコーディング当日、最初は見くびっていたスタジオのエンジニアも、音を聴いた途端その素晴らしさに気付き、協力して行く。
無事にレコーディングが終り、男がロンドンに発つ時が近付いてくる。お互いに惹かれ合っているふたり、その後は・・・。

この映画は、アメリカでクチコミで広がり、大ヒットしたそうだが、ホーム・ビデオのように撮られているのが身近で親しみを感じる。ストリートでのシーンは、カメラを隠して撮影したそうで、主役の彼は既に顔を知られているので、色々苦労したらしい。
レコーディングを終えたメンバーを、海へとドライブに連れ出すスタジオのエンジニアの粋な計らいと、多くを語らずに男の夢を応援する男の父親がすごく良かった。
ストリートでスカウトしたバンドが、“オリジナル? 俺たちはThin Lizzy(シン・リジィ)しかやらないよ” と言うのには受けた。さすが、アイルランド!(笑)
その他、フィドルやチェロとのホーム・パーティでのセッションなどもあり、アイルランド文化の歴史に欠かせない音楽の伝統が、さり気なく描かれれていた。
男と女の微妙な心の動きを、音楽を通してひとつずつ丁寧に描かれた作品で、感情表現も歌に乗せることによって、とっても自然体でリアルに響いてくる。
ふたりの心が通じ合い、お互いに意識していると、通常はすぐキスして抱き合って・・・となるが、一時の気の迷いで一線を越えるということはなく、プラトニックなままなのがいい。
そして最後に、ふたりの心がひとつになった時のメロディだけが流れて行く。そのメロディが、ふたりに夢と希望と優しさを添え、柔らかく包み込むように流れて行くのが印象的だった。
ハッピー・エンドでも悲しい結末でもない、ひと言で表すことのできないこの終り方には、中には納得できない人も居るかも知れないが、私はこれはこれでアリだと思う。
全編で音楽が溶け出して、ふたりの心の痛みや切なさになって行く様は、音楽好きにはとっても浸透して行く温かい作品だった。
劇中のThe Swell Seasonの曲は本当に切ない曲ばかりで、力いっぱい熱唱する男の声に絡む、女の儚いハーモニーが心に沁みて、より切なく感じさせた。
私がダブリンに行ったのは1990年、去年京都で逢ったダブリンから観光に来ていた人は、“その頃とはずいぶんと変わったわよ” と言っていた。今はEU統合で通貨もユーロになり、経済面での成長が伺われる反面、移民などの貧困率が高い傾向もある背景も、そこかしこに描かれていた。





『英国王 給仕人に乾杯!』

2009-01-12 | cinema & drama


最近は、映画館で映画を観ることが少なくなり、公開からだいぶ経った後にDVDをレンタルして観ることが多かった。
でも当然のことだが、やはり大画面で臨場感のある音と共に観る方がいいに決まっている。
昨年、The Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)の 『Shine A Light』 を観た時に、つくづく思った。(それがライヴものだったということもあるが・・・)
その後、観たい映画の公開が続き、タイミング良く時間も取れ、このところはよく映画館に足を運んでいる。

先日レディース・デイの水曜日、チェコ映画の 『英国王 給仕人に乾杯!』 を観てきた。本国では2006年に公開された、チェコ映画の巨匠イジー・メンツェル監督の作品だ。
昨年、“Ahoj! チェコ映画週間” で観た内のひとつ、『厳重に監視された列車』 は、メンツェル監督が28歳の時の長編デビュー作で(現在監督は70歳)、ナチス・ドイツ占領下時代のチェコスロバキアを舞台に描かれた、とても素晴らしい作品だったが、今回観た 『英国王 給仕人に乾杯!』 も、同じ時代背景である。
『厳重に監視された列車』 同様、チェコの国民的作家ボフミル・フラバルの同名小説が原作で、本国では当時出版禁止となり、ビロード革命(1989年)以降に公に出版された作品である。

さて、肝心の内容だが、タイトルにある “英国王” は、一切出て来ない。なら、よくある邦題の矛盾かと思いきや、チェコ語の原題の英訳も “I served the King of England” なのだ。果たして、そのタイトルの理由とは・・・。
物語は、主人公ヤンが監獄から出所するところから始まる。そして、“私の幸運は、いつも不幸とドンデン返しだった” という言葉と共に、現在のヤンが15年前の自分を振り返りながら進んで行く。何故、彼は監獄に居たのか?
現在のヤンと過去のヤンは、ふたり一役。小柄で童顔の若いヤンは、愛嬌ある表情で可愛く、小さい故にちょこまかしたその行動ひとつひとつが笑いを誘い、現在のヤンは渋くて人間味のある風格が漂っている。
 15年前のヤンと現在のヤン

億万長者になって、一流ホテルのオーナーになることを夢見ていたヤンは、まず駅のホームのソーセージ売りからスタートした。
その後、小さな街のホテルのレストランで給仕見習いとなり、ソーセージ売り時代にひょんなことがきっかけで知り合った、ユダヤ人商人の後見もあって、その後どんどんと出世して行く。
最初の見習いの時の給仕長の、“何も見るな、何も聞くな、全てを見ろ、全てを聞け” という教えのとおり、その小さな体を生かして仕事をこなしながら、幸と不幸を同時に体験し、やがてプラハ一の高級ホテル “ホテル・パリ” のレストランの主任給仕にまで昇りつめる。
そこで出会った “英国王の給仕もした” と言う給仕長は、ヤンの尊敬する人物。ここで初めて “英国王” というセリフが出てくる。
 英国王の給仕をした給仕長とヤン

やがて、ナチス・ドイツの占領下となったプラハで、ヤンは自分より背の低いドイツ人女性と出会い、結婚し、夢であった一流ホテルのオーナーになるのだが・・・。
彼女との出会いから結婚までのくだりで、ナチス・ドイツが当時いかに人々に影響していて、それがどういうものだったかということが、コミカルでシニカルに描かれているのが興味をそそる。
そして、妻は軍人となり、尊敬する給仕長はナチスに抵抗して国家秘密警察(ゲシュタポ)に逮捕され、恩人のユダヤ人商人も強制収容所に送られる。
しかし、メンツェル監督は、こう言った様々な人間模様を政治的になりすぎず、素晴らしい表現力で伝えている。
何故監獄に入れられたのかはここでは伏せるとするが、現在のヤンがたくさんの鏡の前で過去と向き合うラスト・シーンは、とても切ない。
ナチス・ドイツに翻弄された母国の如く、ヤン自身もまた時代に翻弄され続けたのではないだろうか・・・。そんな姿が、ふたりのヤンによって見事に描かれている。

若かりしヤンを演じたのは、イヴァン・バルネフというブルガリア生まれの舞台出身の俳優。
公開当時の彼は33歳だが、とても歳相応には見えず、可愛くて憎めない。小柄で身のこなしの軽やかな演技からか、全米ではチャップリンを彷彿させると絶賛されているらしいが、本当に彼の存在感が大きく、彼なくしてこの作品は成り立たなかったのではないだろうか、と思う。
そして、公開に伴って来日した監督がインタビューで言った、“コミカルな要素があると、悲劇が際立つ” という印象的な言葉が、映画を観終わった後、更に脳裏に焼きついてくる。
次々と出てくるチェコ・ビールは、アルコールがダメな私は現地で飲めなかったが、ちょこっと出てきたプラハの景色は、先日行ってきたばかりだったので感慨深かった。
でも、そんなことよりも、時代背景を伝えつつ、チェコ人としての誇りも巧みに組み込み、ひとりの男の生きた人生を、幻想的かつユーモラスに描き、いやらしさのないエロティシズムも交えた温かい人間味のある作品で、バックに流れるオーケストラ音楽もステキだった。
しかも伝えたいことを、全て給仕という場面でメッセージを送っているというのが、鮮やかだった。

それにしてもこの邦題、勘違いされやすいのではないだろうか。タイトルだけ見ると、てっきり英国王室の話かと思ってしまいがち。
“英国王” と “給仕” の間にスペースはいらないのでは・・・。繋げるか、“の” を入れた方が誤解がないと思う。
Wikipediaでは、小説の邦題は、「僕はイギリス国王の給仕をした」 になっている。でも、ヤンが給仕をしたのではなく、彼が尊敬する給仕長が英国王の給仕人だった訳で、何ともややこしい。






★日本公式サイトはこちら。現在東京で公開中だが、1/24から大阪を皮切りに、全国で公開される。
オリジナル公式サイトは、チェコ語と英語ver.があり、とってもステキなサイト。

『マルタのやさしい刺繍』

2008-12-29 | cinema & drama


CDでジャケ買いをすることがあるが、フライヤーに惹かれ、裏に書かれてあったあらすじも読まずに観に行ったのが、『マルタのやさしい刺繍』 というスイスの映画。
スイスの映画を観るのはもちろん初めてだし、公用語となっている言語も数種類あるので、何語の映画なのか検討も付かなかったが、シネスイッチ銀座は金曜日がレディース・デーで900円で観れるので、とにかく観てみようと思い、行ってきた。
観に行って良かった。それはとっても温かくて可愛くて、そしてパワーをもらえるステキな映画だった。

80歳のマルタおばあちゃんが主人公。(左からふたり目)
愛する夫に先立たれ、自分も早く “あっち” に行きたいとばかり考え、夫の残した店を継いでいるものの、すっかり意気消沈の日々を送っていた。
息子には、店をたたんで何か新しいことを見つけろと言われていた。そんなある日、マルタの友達のひとりが彼女の部屋で箱に入った手作りのランジェリーを見つける。
それはマルタが若い頃作ったもので、夫に反対されて封印していた裁縫だったが、友達の賛辞と懐かしい作品を見て、“自分でデザインをして刺繍をしたランジェリーを売る店を開きたい” という若かりし頃の夢を思い出す。
みんなに内緒でこっそりランジェリーを作り、不安な気持ちでオープンしたものの、やはり周りの人々の目は冷たかった。
保守的な村人からはハレンチだと後ろ指を指され、マルタには他に2人友達が居たが、最初はその2人も “いい歳をして” といい顔はしなかった。しかし、その2人もそれぞれ抱えている悩みがあった。
唯一背中を押してくれた友達リージは、みんなより少し若くてシングル・マザーとして生きてきて、訳あってアメリカかぶれだったこともあり、大の理解者だったが、牧師である息子は、リージにそそのかされているとまで言って、色々手を回して母親の夢を壊そうとする。
一時は息子に聖書の会の場所に占領されて閉店に追い込まれた店だったが、2人の友達も次第にマルタを応援し、一緒に手伝って、夢を現実のものにするために動き出す。

夢と希望に向かって行くおばあちゃんたちのパワーがもの凄くて、観ている者にもそのパワーと感動を与えてくれて、とても心温まる作品だった。
おばあちゃんたちの前向きな姿勢は、同じ後悔でも何もやらずに後悔するのと、やってみてから後悔するのとでは大きく違うこと、そしてそれはきっと自分にプラスになる・・・ということを感じさせてくれた。
スイスの大自然の村の風景は美しく、生地を買いに4人で街に行ってカフェでお喋りしながらパフェを食べる姿や、ハイジのようなチロルの民族衣装に身を包んだおばあちゃんたちは、とっても輝いていて可愛かった。






★公式サイトはこちら

The Rolling Stones 『Shine A Light』

2008-12-18 | cinema & drama


今年の4月にロンドンの友達がプレミアム・ショーに行ったという報告を聞いてから半年以上、楽しみにしていたThe Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)のライヴ・ドキュメント映画 『Shine A Light』 を観に行ってきた。
観終わった感想をひと言で表すと・・・「シビレた~!」。ホンットにカッコ良くて素晴らしかった。やってくれました、マーティン・スコセッシ監督。
監督自身がストーンズの大ファンで音楽通ということもあり、ツボを押さえまくり。もう、映画という枠を超えていた。
2006年の秋に、ニューヨークのBeacon Theatre(ビーコン・シアター)で行なわれたライヴで、もう今ではスタジアムでのツアーが当たり前のストーンズを、3000人弱のキャパシティの劇場スタイルでフィルムに収めているので、臨場感は溢れんばかり。
ライヴが始まるまでのイントロダクションが面白かった。そしてそのイントロダクションで、これは映画であって映画でないというのが垣間見えた。
撮影の打ち合わせはほとんどなく、スコセッシ監督にセット・リストが渡されたのは、一曲目の 「Jumping Jack Flash」 でキース(Keith Richards)がギターをかき鳴らすのと同時だった。
ライヴが始まると、その音に鳥肌が立ち、涙さえ浮かんできてしまった。カッコ良すぎる・・・。
それにしても、ミック(Mick Jagger)はもはや人間ではないのでは・・・と思わせるばかり。とても65歳(撮影当時は63歳)とは信じられない。スリムのブラック・ジーンズに身を包み、スレンダーでセクシーなプロポーション。短いTシャツから覗くお腹はキュッと引き締まって、お尻はプリプリ。
そして若い頃以上に、動く動く。相変わらず変なダンスだが踊りまくって走り回る。決して息切れはしない。それどころか、逆にだんだんと声に艶とハリが増して行く。恐るべし!!
キースの茶目っ気ぶりとチャーリー(Charlie Watts)のジェントルマン気質は変わらずで、何度笑わせられたことか・・・。
キースがロニー(Ron Wood)の肩に身を寄せてニコニコしている姿がとても可愛くて、肘をサッと挙げてオープン・チューニングで弾くお馴染みのスタイルにカンゲキ。自由気ままにステージを楽しんでいるという感じが、キースらしくて微笑ましかった。
途中、黒のロング・コートを羽織って煙草片手に 「You Got the Silver」 と、続けて 「Connection」 と2曲ソロで歌ったのだが、キースのVo.もちっとも廃れていない。かつてドラッッグの影響で歯が全部抜けて生まれ変わった辺りから、彼もまた人間という域を超えているのかも知れない。
ミックが、ドラムの目の前で猛烈にチャーリーにアピールしているのに、チャーリーは殆んど目を合わそうとせずに時折フッと笑い、最後にカメラ目線でほっぺを膨らませてふーっとため息をつく姿には笑わされた。タイトル写真の、チャーリーの服装にも注目したい。
ロニーは相変わらずいい男っぷりを発揮していたし、「Faraway Eyes」 でペダル・スティールの前に座り、ミックに “変な楽器、弾けんの?” と言われてニマッと笑い、完璧にカントリーの世界を作り出すところは見もの。
キースの12弦アコギだけで歌った 「As Tears Go By」 には、再び鳥肌が立った。
曲間に時々昔のインタビュー映像が挿入されていて、これがまた笑いを誘う編集で、監督の愛が感じるステキで粋な構成だった。
ゲストで登場したThe White Stripes(ホワイト・ストライプス)のJack White(ジャック・ホワイト)と、Christina Aguilera(クリスティーナ・アギレラ)とのそれぞれのデュエットもとっても良かったが、圧巻だったのが、「Champagne & Reefer」 で登場した名ブルーズ・ギタリスト、Buddy Guy(バディ・ガイ)。ギターはもちろんのことだが、その声はとても渋くて迫力満点だった。そんな渋いブルーズ・マンは、水玉ギターとお揃いの水玉ストラップという可愛い一面も・・・。
歌い終わったあと、キースが自分の弾いていたギターをバディ・ガイに渡し、“プレゼントだ” と言うのが可笑しかった。
「Brown Sugar」 では、スクリーンを見ながら “フーッ!” と叫びそうになったし、私を含め、一曲終るごとに小さく拍手していた満員の観客も、最後には皆大拍手。自分もライヴに参加している気分にさせてくれる作品だった。
ライヴが終り、カメラはステージから袖を通って外に出ると、そこに居た監督が “上へ上へ!” と叫び、カメラはニューヨークの夜の街をパーンして上空から捉え、空には満月。そしてその満月がストーンズのベロ・マークに変身すると言う粋なラスト・シーンだった。
余談だが、観客はステージにかぶりつき。最前列はほとんど女性で、それがまた綺麗な女性ばかりだった。アレはやはり仕込みだろうか・・・。(笑)

この作品はもはや、21世紀のロックのマスター・ピースと言えるだろう。
グルーヴィでブラックで、そしてファンキーなストーンズは、その名の通り、転がり続けている。
DVD化されたら、買わずにいられない。もう一回くらいは生のステージを見てみたい・・・できれば国外で・・・。


★日付が変わったので・・・Happy Birthday, Keith!!

『Oliver Twist』 (1982)

2008-09-29 | cinema & drama


イギリスの国民的人気作家、チャールズ・ディケンズの代表作 『オリバー・ツイスト』 は、これまで多数、映画や舞台、TVドラマ、ミュージカル化されている。
昨年もイギリスBBCでドラマ化され、映像だけでもマイナー作を含めると20本以上もある。
オリバー役ではないが、『ロード・オブ・ザ・リング』 のイライジャ・ウッドも、1997年のアメリカ製作の映画に出ている。(劇場未公開)
私がこれまでに見たことがあるのは、『小さな恋のメロディ』 のマーク・レスターがオリバー役を演じた、1968年製作のミュージカル映画(タイトルは 『オリバー!』)と、ロマン・ポランスキー監督の2005年製作の映画の2本。
そして、昨夜ケーブルTVで見たのが、1982年製作のクライヴ・ドナー監督のTVドラマ版。
この監督について少し調べてみたところ、残念ながら知っている作品はなかったが、同じディケンズの 『クリスマス・キャロル』(1984)の映画を監督していた。
その 『クリスマス・キャロル』 で主役を演じたジョージ・C・スコットが、昨夜見た 『オリバー・ツイスト』 で、重要な役である悪党フェイギンを演じている。

舞台は19世紀初頭のイギリスで、産業革命が広がる中で貧富の差が激しくなった時代が描かれている。
教区が管理する救貧院で暮らす孤児オリバーが、虐待を受け続ける孤児院から奉公に出されるが、我慢ができずロンドンへと逃亡する。
そこで、子供の窃盗団のリーダー、ドジャー(イライジャ・ウッドが演じた役)と会い、そのまま窃盗団の元締めフェイギンと手下の少年たちと暮らすようになる。
しかし、オリバーは悪に染まらず、ふとしたきっかけで、紳士ブラウンロー氏に保護される。
しかしその後もフェイギンやその周辺の悪党たちとのごたごたがあり、最終的にはオリバーの出生の秘密がわかり、ブラウンロー氏の元で幸せに暮らす、というのが大まかなあらすじ。

これまで見た2作品も今回のも、原作に忠実に描かれているが、ところどころ違ったシーンもあり、ストーリーを知っていても十分に楽しめた。
そして今回の 『オリバー・ツイスト』 で、私はオリバー役の少年リチャード・チャールズ(なんとも高貴な名前!)に、魅せられてしまった。
細くて綺麗なソプラノ・ヴォイスと、輝くようなホワイト・ブロンドの髪がまるで天使のようで、本当に可愛かった。
時代背景と下層階級が暮らす街での描写が多いため、全体に暗くよどんだトーンの映像で、夜のシーンが多い。
マーク・レスターもブロンドだが、リチャードくんのホワイト・ブロンドはその暗い映像にとても映えて、オリバーの存在を植えつけていた。
ロマン・ポランスキー監督のもとても良く、オリバー役のバーニー・クラーク少年の演技は素晴らしかった。
演技の点では彼の方が上を行くが、“純粋な心を持ったオリバー” のイメージでは、今回のリチャードくんに軍配が上がる。


★『オリバー・ツイスト』 LaLa TVでの放送日時
  10/04 (土) 24:15~26:15
  10/05 (日) 09:30~11:30