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売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

紅葉

2013-11-13 23:50:29 | 日記
 今日は定光寺まで行く余裕がなかったので、植物園に紅葉の撮影に行きました。

  
 大久手池と大谷山

  
 植物園のカナール

  
 
  
 園内の紅葉

  
 弥勒山

  
 頂上からの中央アルプス 雲が多く、やや霞んでいましたが、山頂付近には積雪がありました。左の手前にある山は、笠置山です。

 

『ミッキ』最終回

2013-11-12 11:03:34 | 小説
 最近寒くなり、昨夜は毛布を1枚重ねましたが、それでも寒く感じました。
 昨日から咳き込むようになったので、風邪を引いたようです。

 今回はいよいよ『ミッキ』最終回です。長い間、読んでくださり、ありがとうございました。


     エピローグ

 私は目を覚ました。伊勢市内の病院の一室だった。もう夜になっていた。母と伯母、慎二がいた。そして松本さんと河村さんも。私には何が何だかわからなかった。
 母は伊勢市の警察署から、私が交通事故に遭ったという連絡を受け、驚いて駆けつけてきたそうだ。寮の仕事はパートの山川さんたちにお願いしてきた。名古屋支社からも応援が来ている。
「あんな猛スピードで突っ込んだのに、よく軽い打撲とかすり傷程度ですんだもんだな。車の前はぺしゃんこだったからな」
 松本さんが驚いていた。そう言われて、少し思い出してきた。若林さんの車に乗せられ、県道を走っていたら、運転をしていた若林さんが急に苦しみだしたのだ。そして、私は怖くて、一心に光のお御霊に祈った。そのあと、大音響がして、何もわからなくなった。
「若林さんは?」
「若林さんと鈴木さんは亡くなったわ。いくら拉致をしたとはいえ、最後はあまりに悲惨だった」
 河村さんが目に涙を溜めて言った。
「今、波多野さんと大井さんは警察に行っている。事故の目撃者として」
「そうなの、二人は亡くなったの?」と言いながらも、私の頭は混乱して、まだ事態を十分に理解できなかった。事を認識できるようになったら、たぶんじわじわと悲しみが押し寄せてくるだろう。いくら私を拉致監禁した人たちとはいえ、心霊会の先達として、深い関係を持った人たちだったから。それに、鈴木さんとは同じ寮に住んでいたのだし。
 若林さんは即死だったが、鈴木さんは事故の直後はまだ意識があったそうだ。運転中、若林さんは急に頭が痛いと苦しみだしたと証言した。若林さんはくも膜下出血だった。
 私はジョンが来た日に、パートのおばさんが「あんたたちだって、いつかはくそばばあになるんだよ」と鈴木さんたちに言っていたことを思い出した。鈴木さんはお婆さんになるどころか、二二歳の若さで命を散らしてしまったのだ。
 セレナに激突された軽トラックは、荷物の積み降ろしの最中で、ちょうど運転手がトラックから離れており、事故に巻き込まれなかったのは、不幸中の幸いだった。
 河村さんは、二人が亡くなった責任の一端は自分たちにあるのではないか、と悩んでいた。くも膜下出血で倒れた若林さんはともかく、鈴木さんは河村さんたちが訪れさえしなければ、自動車事故で死なずにすんだのだ。若林さんにしても、スピードオーバーで車を運転するという強い緊張感に苛まれなければ、くも膜下出血を起こさなかったかもしれない。
 松本さんは「これも運命だったのだから、彩花が気にすることはない。それにもし俺たちが行かなければ、ミッキが大変なことになっていたかもしれないんだから」と河村さんを元気づけた。松本さんの心がこもった慰めが、河村さんの沈んだ心をいくぶんか軽くした。
「私はとっさに光のお御霊に祈ったんで、助かったんだ」
 私は光のお御霊に改めて感謝した。
「そうよね。こんなこと言っては不謹慎かもしれないけど、二人は助からなかったのに、ミッキだけ軽い怪我ですんだのは、光のお御霊のおかげだわ。本当に奇跡としか、言いようがない」
「お父さんね、もう意識も回復して、早く美咲に会いたがってるよ。夢の中で、美咲が輝く光という字から、まばゆい光を送ってくれた、と言っていたけど、やっぱりお札の力、すごいんだね。心配していた後遺症も大丈夫みたい。彩花ちゃん、お札、本当にありがとう。私もお札の力、信じてる」
 母は涙を流しながら、河村さんにお礼を言った。
「いえ、私の力じゃありません。光のお御霊の力です」
 河村さんも泣いていた。
「それから、今回はジョンもお手柄でした。ジョンにもご褒美で、おいしいものをたくさん食べさせてあげてくださいね」
 松本さんはジョンへの賞賛も忘れなかった。
「そういえば、ジョンは?」と私は母に尋ねた。
「ジョンは大活躍で疲れたのか、大井さんの車の中で、気持ちよさそうに眠ってるわ。残念ながら、ジョンは病室には連れてこられないし。ジョンがミッキの匂いを嗅ぎつけて、私たちにあの道場の中にミッキがいることを教えてくれたの」
 河村さんが母に代わって答えてくれた。
「匂いといえば、私、ずっとお風呂に入ってないので、臭くない? ずっと着替えもしてないし。いやだ、松本さんの前で、恥ずかしい」
 私がこう言って布団の中に顔を隠したので、みんな大笑いをした。

 父が階段から滑り落ちて、瀕死の重傷を負ったのは、酒井愛美さんの細工のせいだった。鈴木さん、酒井さん、永井さんの三人組は、父か母に怪我をさせて、私が退転した罰だと脅そうと計画した。それで、酒井さんが大学を休んで、階段に滑りやすくなるようにワックスを塗ったのだそうだ。せいぜい足を滑らせて、捻挫か軽い骨折をさせる程度のつもりだったのが、あのような惨事になってしまった。酒井さんは自分がしでかしたことの罪の大きさに、怯えていたそうだ。いくら若林さんや鈴木さんに、心霊会のためにしたことだから、徳を積みこそすれ、罪の意識に苛まれる必要はない、と言われても、心安らかではいられなかった。
 そして、突然の若林さんと鈴木さんの死。多大な御守護をいただいているはずの法座長と班長が、なぜあんな酸鼻を極めた最期を遂げなければならなかったのか? 心霊会で説かれているような、安らかな臨終とはとても思えなかった。同じ車に乗っていて、退転していたはずの私が軽い打撲やかすり傷程度ですんだのに。
 そう思うと、恐ろしくなり、酒井さんは母に自分がやったことを告白した。母は「私は酒井さん個人を咎めないけど、でもやってしまった罪は罪として、償ってもらわなければなりません。酒井さんももう責任ある二〇歳(はたち)の大人なんだから」と諭した。それで母と、元教師の伯母に付き添われて、春日井市の篠木署に出頭した。酒井さんは傷害罪もしくは殺人未遂罪を問われたが、父が死んでもかまわない、という未必の故意(殺意)まではなかったとされ、傷害罪で起訴されるようだ。母は、父は助かったことだし、酒井さんは非常に改悛しているので、罪を軽減してくれるように訴えた。自首が認められたことでもあり、おそらく執行猶予がつくだろう。
 また、永井さんも鈴木さんと三人で共謀したとして、共謀共同正犯で事情聴取された。気が弱い永井さんは、「それではやり過ぎよ」と言って、この計画には最初からあまり乗り気ではなかったと酒井さんが証言した。永井さんはたぶん罪を問われることはないだろう。
 平田信子さんと彼女の導きの子たちは、心霊会を脱退した。寮にいた信者も全員脱会した。
 死者二人を出した妙法心霊会の事件は、日本でも有数の大教団が起こした女子高校生拉致監禁事件として、全国的に報道された。そして、宗教のあり方がまた問題視された。かつての某宗教団体によるテロ事件以来、宗教関係の事件は、マスコミでよくクローズアップされる。私は未成年なので匿名で報道されたが、若林さんと鈴木さんは拉致監禁をしたとして、一部の報道で、顔写真まで出てしまった。宗教教団によるマインドコントロール、洗脳だとして、話題にもなった。
 妙法心霊会は、今回の事件は一部の信者が勝手に暴走したものであり、教団としては、いっさい関知していない、とのコメントを発表した。だが、本部直轄の施設である鍛錬道場の使用を許可したことで、教団本部が関与をしていない、という言い分は通らず、教団としては苦しい立場に追い込まれた。教団のために殉じた人に対し、むち打つような冷たい本部の態度に不満を持った幹部が、内部告発をしたのだ。
 若林さんのご主人は、『心霊会に家庭を破壊された』という手記を、週刊誌を通して発表した。家族全員が心霊会の会員ではあったが、家庭を顧みず、宗教活動にのめり込んでいた若林貴美子さんのことを、家族は快く思っていなかった。毎年一〇〇万円近いお金をご供養金としてつぎ込み、経済的にも大変な負担だった。心霊会は先祖供養を説き、一家和楽を主張しているはずなのに、若林さんの家庭は、崩壊寸前だったそうだ。
 しばらくはテレビや新聞、雑誌記者などの取材が続き、私は落ち着かなかった。乗っていた車が大破する大事故だったにもかかわらず、私はほとんど無傷の状態だったことも、奇跡として報道の対象となった。ジョンは主人の窮地を救った忠犬として紹介された。
 宏美が、大捕物のとき現場にいなかったことが残念だとぼやいた。宏美もその場を見たかったそうだ。宏美はそのころ、合唱部の文化祭の準備、練習で大忙しだった。でも、一歩間違えば、大怪我をしていたかもしれなかった。みんな軽傷ですんだのは幸いだった。大井さんは大男との格闘により、打撲傷や首、肘の関節への軽い怪我を負っていた。
 慎二は私を連れ戻すときに大活躍をした大井さんのことを、兄貴と呼んで慕っている。脚が快復すれば、大井さんに空手の手ほどきをしてもらうことになっている。

 そんな中で、一一月上旬の文化祭は無事終了した。歴史研究会の部室は、例年になく多くの人が訪れ、評判も上々だった。顧問の小林先生もよくやったな、と褒めてくれた。伯母も私たちの文化祭を見に来てくれた。そのとき、小林先生は初めて伯母と言葉を交わした。かつての反戦平和運動のリーダーに会い、小林先生は年に似合わず、大いに照れて、部員たちに冷やかされていた。私は今年の文化祭にはあまり協力できなかったが、来年度は部長として頑張ってほしいとみんなに励まされた。
 宏美が所属する合唱部の発表も体育館で行われ、私も伯母、松本さんや河村さんと聴きに行った。曲目は高田三郎作曲の『水のいのち』だ。ピアノ伴奏は守山先生、合唱指揮は三年生の前部長が担当した。県の合唱コンクールでは惜しくも全国大会進出を逃したものの、見事な合唱だった。
 文化祭のころには、父はもう歩けるまでに回復した。後遺症ももう心配ない。年内には仕事に復帰できるそうだ。

 紅葉の時季、私たちは弥勒山に登山した。河村さんをリーダーに、大井さん、松本さん、宏美、そして今回は波多野さんも参加した。宏美はボーイフレンドの野中明男君も連れてきた。
「いつも私は河村さんやミッキに当てつけられてばかりだったから、今日は私も明男君との仲を見せつけたげる」と宏美が明男君と手を組んでしなだれかかった。明男君は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
 定光寺駅から東海自然歩道に入り、外之原(とのはら)峠、桧峠を経由して、道樹山、大谷山、弥勒山の四〇〇メートル級の山を縦走し、内津(うつつ)峠に下るという、弥勒山方面としては今まででいちばん長いコースだった。
 気温も下がり、鬱陶しいメマトイもぐっと数が減り、快適だった。ただ、いくら涼しくなっても、私は歩けば大汗をかいた。河村さんが「最近は冷房の完備などで、汗をあまりかかず、体温調節が十分できない人が増えているけれども、汗をかくことは、体温調節や代謝もスムーズにできているので、とてもいいことよ。それに、汗をよくかく人は、さらさらの汗で、臭いも少ないのよ」と言ってくれた。
 残念ながら、今回歩くコースはそれほど紅葉に恵まれてはいなかった。それでも所々できれいな紅葉を見ることができた。また、その日は晴天で、弥勒山の山頂からは、御嶽山、乗鞍岳、中央アルプス連峰、白山などがきれいに眺められた。三〇〇〇メートル級の高山はもう白く雪化粧をしていた。

   

 弥勒山頂上からの中央アルプス 左は木曽駒、宝剣岳。右は空木岳、南駒ヶ岳。

  

 御嶽山と恵那山。

 涼しくなり、熱いコーヒーやカップ麺がおいしかった。今日は車ではないからと言って、大井さんが缶ビールを持参していたので、河村さんに「まだ一九歳になったばかりでしょう」とたしなめられていた。それにトレッキング中の飲酒は危険でもある。さすがの大番長も、将来は奥さんのお尻に敷かれそうだ。
 寮に戻れば、またジョンがみんなに散歩をねだるだろう。大好きな人たちが大勢いるので、ジョンは大はしゃぎしそうだ。
 五月のゴールデンウィークに初めて四人で弥勒山に登り、それ以来固い友情で結ばれた私の素晴らしい仲間たち。今回の事件をきっかけに、さらに固く固く結ばれていくだろう。そして松本さんと私の愛情も……。
(完)

定光寺の紅葉

2013-11-08 19:38:56 | 日記
 今日の午後、定光寺に紅葉を見に行きました。
 まだ少し早かったようです。今月の中旬から下旬が見頃でしょうか。
 5年前、11月下旬に行ったときは、きれいでした。

  

  

  

 定光寺は中央本線で、高蔵寺の次の駅です。うちから歩いても1時間半ぐらいです。

 
 玉野川(庄内川)の渓谷と定光寺駅。駅は左上ですが、この写真ではちょっとわかりにくいです。

 
 このザックはもう30年使っています。少し色あせていますが、まだ現役です。日帰りで多くの山に連れて行きました。日本アルプスの縦走など、長い山旅は、大型のザックを使います。

『ミッキ』第32回 緑内障 網膜剥離

2013-11-05 11:44:04 | 小説
 先ほど、眼科に行きました。私は緑内障や網膜剥離を患っているので、定期的に検診を受けなければなりません。
 緑内障は網膜の一部に感度が悪いところがあるが、眼圧は正常で、悪化はしていないとのことです。点眼薬は毎日忘れないように、との注意を受けました。
 網膜剥離も、今のところはレーザーで凝固手術をする必要はないそうです。7年ぐらい前に、右目に手術を受けました。
 最近、目が非常に疲れます。パソコンでの原稿執筆には支障が出ますが、2時間書いたら、十分に休憩を取るようにいわれました。

 今回は『ミッキ』第32回です。いよいよ次回で完結です。



            10

 私が行方不明になり、母は大きな不安に陥った。私と一緒に散歩に出たジョンが、永井さんと帰ってきたことに母は不審を抱いた。永井さんは「美咲ちゃんは散歩の途中、鈴木さんと一緒に出かけたので、私がジョン君を預かってきました」と伝えたが、母は何となく腑に落ちなかった。ジョンがぐったりしていたことにも、何かひどいことをされたのではないかと、疑念を持った。
「美咲ちゃんはお父さんがよくなるよう、強力な御守護霊がいらっしゃる道場で、祈願をしているから心配しないでください。私も一緒にいるから、大丈夫です。来週には帰るので、しばらく待ってください。学校、少し休むことになりますが、でもお父さんのためにしていることですから」
 夜八時過ぎに鈴木さんからこんな電話があり、その後もときどき鈴木さんから安心してくださいという電話があったそうだ。寮生の鈴木さんが責任を持つと言っているので、警察に通報することだけは控えていた。母は学校にも、父のことが心配なので欠席する、と連絡していたそうだ。
 私が学校を休んでいるので、松本さんたちも心配していた。このあとのことは、事件が終わったあとで私が河村さんや松本さんから聞いたことをもとに、私が再構築したことである。

 私が二日も学校を休んでいたので、松本さんと河村さんは寮まで様子を見に来た。寮生の夕食の準備中だった母は、ちょっと仕事を抜け出して、二人に会った。そして、母はどうやら心霊会の人にどこかに連れて行かれたらしいと二人に伝えた。ただ、連れて行った人の中には鈴木さんという寮生もいて、あまり手荒なことはしないだろうから、しばらく様子を見ていると母は不安げに言った。
「寮生で、波多野さんという方、今見えますか? 波多野さんも心霊会の信者ですけど、辞めたがっていて、ミッキにもいろいろ情報の提供をしていたそうです。だから、ひょっとしたら何か知っているかもしれません」
 河村さんにそう尋ねられて、母は「そういえば、最近美咲は波多野さんと親しく話し合っていることがあったわね」と思い出した。母は「まだ大学から帰ってないけど、まもなく戻ると思うわ」と言った。
「それなら、待ってる間、ジョン君を散歩に連れて行きましょうか」と河村さんが申し出た。
「そうしてくれると助かるわ。今、お父さんも美咲もいないんで、ジョンを散歩させる人がいないんですよ。ジョンが大きくなったので、慎二ももてあましているようだし。やっぱり事故の影響で、慎二もまだ思い切り走れないようです。私も昔、交通事故で膝を傷めているんで、ジョンが満足するまで付き合ってやれないし。義姉(あね)がときどき散歩させてはくれるけど」
 母は部屋の中からジョンを連れてきた。松本さん、河村さんを見て、ジョンは喜んでじゃれついた。
「美咲がいなくなったのは、ジョンを散歩に連れて行っていたときだったけど、ジョンひとりだけが帰ってきたの。それもジョン、何かひどいことをされたのか、ぐったりしていて。たぶん美咲を守ろうとして、殴られたか何かされたんでしょうね」
「ひどいことをしますね。やはりその鈴木さんという人がやったんでしょうか」と、松本さんが憤懣やるかたないという感じで言った。
 一時間ほどの散歩を終えたころには、波多野さんはもう帰っていて、食堂で食事をしていた。波多野さんが食べ終えるのを待って、母は松本さんと河村さんを波多野さんに紹介した。四人は応接室に入った。
「初めまして。私は美咲さんの友達で、河村と申します。今日は突然お呼び立てして、すみません。美咲さんから、超神会のことを聞きたがっている人がいるから、一度会ってみて、と言われていたものだから、失礼を顧みず、お呼び立てしました」
 河村さんは丁重に波多野さんに自己紹介をした。そして松本さんも自分の名前を告げて、挨拶をした。
「あなたが河村さんね。よく遊びに来てるので、知ってます。美咲ちゃんにも、私も超神会のこと知りたいから、一度会わせて、なんて頼んでたのよ」
「私も父が亡くなってから超神会のことを知ったので、まだあまり十分勉強していませんが」
 河村さんは謙遜した。そして、「今日お伺いしたのは、超神会のことより、心霊会のことでお訊きしたくて」と本題に入った。
「美咲ちゃんのことね。行方不明になって、寮母さんも心配していて。私、同じ信仰をしている鈴木さんたちが関係してるみたいで、心苦しくて」
「波多野さんはよくミッキに心霊会のことで助言してくれていたそうですね。それで、今回のことも何かご存じのことがあるのかなと思いまして」
「うーん。私も美咲ちゃんと同じように、心霊会、辞めたいと思っていたのよ。だから、美咲ちゃんには私が知っていること、いろいろ教えてあげてたんだけど、最近私も辞めたがっていることを鈴木さんたちに気づかれて、何も話してもらえなくなって。スパイみたいに思われて警戒されてるの。実際スパイと言われてもしかたないけど。今、鈴木さんも寮にいないから、たぶん美咲ちゃんと一緒にいると思う。それから、若林さんも」
「やっぱりミッキのいそうな場所、見当つきませんか?」
 波多野さんはしばらく考え込んでいた。
「春日井道場にはいないみたいね。私もちょっと探してみたけど。あそこは多くの人の目があるから、いればわかるでしょう。地下牢みたいなところがあればともかく。名古屋の東海本部は、なおさら大勢の目につくから、連れてかないでしょう。若林さんの自宅には、家族もいるから、二日も監禁しておけないでしょうしね。たぶん三人組や若林さんは、美咲ちゃんを辞めさせないような算段をしていたと思うの。ちょっと聞いた話では、美咲ちゃん、霊能者として、すごい素質があるそうなの。だから、辞められちゃあ困る、と言ってたから」
「美咲が霊能者の素質があるんですか?」
 母が驚いて聞き返した。
「はい。私たちのリーダーの、若林さんというおばさんが言っていました。あ、そうだ。素質がある人は鍛錬場で修行をするというので、ひょっとしたら鍛錬場という道場に連れて行かれているかもしれません」
「鍛錬場ですか? それ、どこにあるの?」
 母は藁にもすがる気持ちで波多野さんに尋ねた。
「心霊会の鍛錬道場は全国に四か所あります。仙台、高崎、伊勢、福岡です。この辺だと、たぶん伊勢に行っていると思います。もし鍛錬場に行っているなら」
 四人はしばらく押し黙った。そして、沈黙のあと、河村さんが「もし今夜ミッキが帰らなかったら、明日、そこに行ってみましょう」と提案した。
「明日は土曜日だから。私の友達の大井さんに頼んで、伊勢まで車を出してもらいます。松本君も一緒に行きましょうよ」
 母の前なので、河村さんはいつものようにマッタク君とは言わず、松本君と呼んだ。大井さんのことは母も知っている。
「当然僕も行きますよ。もしそこにミッキがいれば、連れ戻してきます」
「でも、伊勢は遠いですし。それにあなたたちに、もしものことがあったら、大変だし。そんなことになったら、彩花ちゃんや拓哉君の親御さんになんてお詫びすればいいのか。私が行ければいちばんいいんですが」
「大丈夫ですよ。暴力団の事務所に殴り込みに行くわけじゃあないですから。相手は宗教団体なので、そんな手荒なことはしないと思います。もっとも一〇年ほど前にあった何とかいう教団は殺人まで犯したそうで、ひどかったようですが」
 母を安心させるために言ったことが、かえって不安を増幅させてしまったようで、松本さんは一言多かったことを反省した。河村さんからも軽くすねを蹴られた。
 母は悩んでしまった。しかし河村さんは「今夜中にミッキが戻らなければ、明日の朝、大井さんにお願いして、伊勢まで行ってきます。大井さんには協力をお願いするかもしれないことを、もう話してあります。波多野さん、伊勢の鍛錬場の場所、ご存じですか?」と行くことを決めてしまった。
「ええ、調べればすぐにわかるわ。それから、私も一緒に連れてってくれない? 私もなんかの役に立ちたいのよ。やっぱり心霊会の会員として、責任感じちゃうから」
「いえ、波多野さんが責任感じる必要なんて、ありません。でも、波多野さんが来てくれれば、心強いです。私たち、心霊会のこと、全然わかりませんから」
 結局母の不安を押し切って、翌朝、大井さんを含め、四人で伊勢の鍛錬道場に行くことになった。
 母は最後に、河村さんに光のお御霊のお札のことでお礼を言った。医者は助かる可能性は五分五分と言ったが、実際は非常に厳しい状態だった。それが奇跡的に助かったのは、河村さんからいただいたお札のおかげだと思っている、と母は感謝した。父はもう意識を取り戻している。まだ集中治療室にいるが、まもなく一般病室に移ることができそうだということだった。父は私に会いたがっているので、早く連れ戻さなければと母は思っていた。

 その夜、とうとう私は戻らなかったので、翌朝早く、大井さん、河村さん、松本さんは寮に集まった。義理人情に厚い大井さんは、河村さんの依頼に、二つ返事で車を出してくれた。大井さんのお父さんも、河村さんの頼みだからということで、車を貸してくれた。
 大井さんの両親は、息子を不良から立ち直らせてくれた河村さんのことを、非常に気に入っていて、もう息子の婚約者と見なしていた。大井さんが「彩花は一人娘だで、俺は婿養子だぞ」と言うと、お父さんは「熨斗(のし)つけて持ってってもらう」と答えたそうだ。大井さんにはお兄さんがいて、家業の工場を継ぐことになっている。
 ただ、以前入道ヶ岳に行ったときのウィッシュは、お父さんが使う予定があるので、今回は車体に「(有)大井電工」と社名が入った、ライトバンの商用車だった。だから乗り心地はやや劣る。
 寮で波多野さんも乗り込んだ。母は波多野さんに、「これ、ガソリン代や高速道路代、みんなのご飯代にして」と三万円を手渡した。河村さんや大井さんだと、遠慮して受け取ってもらえないと考えて、波多野さんにそっと渡したのだった。
 ジョンが出てきて、一緒に行きたいと盛んにアピールした。
「ジョン、おまえはだめだよ」と松本さんが言い聞かせても、なかなか聞こうとしなかった。ジョンも私の危機を敏感に感じているのだろうか。
「ねえ、ジョン君も連れて行ったら?」と河村さんが提案した。
「ジョンは鼻がいいから、もしミッキがいれば、すぐ嗅ぎつけてくれると思うから。教団の人は素直にミッキがいるなんて言わないと思うけど、ジョンなら匂いでわかるわ」
 河村さんのその提言で、ジョンも連れていくことになった。
「それじゃあ、ジョン、ここに乗りゃあ」と河村さんは車の後ろのドアを開けた。ジョンは後ろの荷室に喜んで飛び乗った。ときどき父が会社の車を借りて、ジョンも一緒にドライブに連れて行ってくれたので、ジョンは車に慣れている。きれいな海や川へ行くと、ジョンはよく泳いでいた。
 母はくれぐれも無理しないでね、と心配顔だった。伯母が「皆さん、気をつけてくださいね。絶対に無理をしないでください」と声をかけた。
 慎二も「僕もお姉ちゃんの敵(かたき)を討つんだ」と、一緒に行きたがったが、母がだめだと止めた。
「よう、慎ちゃん、威勢がいいな。でも、姉ちゃんの敵討ちは俺たちに任せとけよ。絶対連れて帰るからな」と大井さんがしゃがんで慎二の目線で応え、頭をなでた。
「お母さん、先生、きっとミッキを連れ戻してきます」と松本さんが宣言した。
 波多野さんに教えてもらい、大井さんが心霊会の伊勢鍛錬道場の住所をカーナビにインプットした。
「それじゃあ、行くぞ」と大井さんが車のエンジンをかけた。前の席は大井さんと松本さん、後ろは河村さんと波多野さん。そして荷室には毛布を敷いてもらい、その上でジョンが寝そべっていた。
 車は国道一五五号線から一九号線に入り、勝川で東名阪自動車道に乗った。木曽川を渡るあたりから、鈴鹿の山並みが間近に迫ってきた。波多野さんが迫力ある鈴鹿の山を見て、きれい、と言った。八月にみんなで入道ヶ岳に登ったことを河村さんが教えると、波多野さんが「私も山が好きだから、今度行くとき、誘ってね。私の故郷は北アルプスの近くなのよ」と頼んだ。松本さんが「ミッキが戻ったら、一緒に行きましょう」と答えた。まもなく紅葉がきれいに色づく時季になる。
 河村さんは車の中で、いろいろ波多野さんと話をした。それで二人はぐっと親しくなったようだ。河村さんは心霊会の鍛錬道場のことも尋ねた。ときどきジョンが後ろの荷室から顔を出し、二人の話に割り込んだ。
「伊勢の鍛錬道場って、どういうところなんですか?」
「私も行ったことがなくて、よく知らないのよ。何でも、才能ある信者を霊能者にするために修行させる道場だそうだけど」
「霊能者の養成道場なんですね? でも、心霊会には守護霊を出せる霊能者って、一〇〇〇人以上もいるんでしょう? そんなに大勢、優れた霊能者を養成できるなんて、信じられない。そんな促成栽培の霊能者に、本当に守護霊なんて、出せるのでしょうか?」
「さあ? 私もよくわからないけど。でも私も超神会の『霊界の真実』シリーズの愛読者だけど、それを読んでると、心霊会の霊能者は低級霊を相手にしているとしか思えないの。だから私に出してもらったという守護霊も、本当に守護霊なのか、怪しいもんだわ。ひょっとしたらおかしな低級霊なのかもしれない。それともまだ成仏しきれていない先祖霊とか。低級な霊でも、多少の通力(つうりき)は持っているそうだから、何かいいことがあれば、守護霊様のお力だ、と信じちゃうのよ」
「そうですよね。力がないから、すぐ罰が当たるとか死ぬぞとか言って脅すのよね」
「それと、気になることがあるんだけど。鍛錬道場は、幹部クラスの人が退転しようとすると、無理やりそこに送り込んで、辞めないように洗脳したりする、という噂を聞いたことがあるの。美咲ちゃん、聞いた話では、すごい霊的素質があるそうなんで、辞めないよう、洗脳しようとしているんじゃないかしら?」
「え、それじゃあ大変じゃないですか? もしそんなところに連れていかれたのなら、絶対連れ戻さなきゃ。でもひどいです。私、本当に腹が立ってきました」
 河村さんは驚いた。二人の話を聞いていた大井さんと松本さんも、「そいつはひどい、そんなことは絶対させないぞ」と怒った。
 車は東名阪から伊勢自動車道に入り、さらに南下した。
 波多野さんはそれから心霊会について、知っていることをいろいろ話した。開祖妙山、二代目会長妙観のころは、妙山を守護していた守護霊を心霊会の、そして全信者の御守護神として崇めていた。そのころはまだ会員数も少なく、教義も本尊である守護神に法華経を読誦して供養し、その徳を先祖霊に回向(えこう)するという、先祖供養を主とした、地味な信仰だった。
 ところが三代目会長の妙賢の時代になり、昭和五〇年代の守護霊ブームに便乗し、供養料を取って、会員一人一人に守護霊を授けるようになった。教義も大幅に改められた。高額な供養料が必要とはいえ、心霊会に入信すれば、すぐに守護霊を持てるというので、会員数が飛躍的に増大した。そして妙賢一人では対応できなくなり、霊能開発講座を開設し、大量の霊能者を養成した。
「結局、三代目妙賢のときから、心霊会は先祖供養より、金儲け主義になってしまったのよ。妙賢は宗教家というより、商売人ね。今の会長も妙賢の路線をそのまま引き継いでるの。それに引き替え、超神会の会長先生は、とても清廉だわ」と波多野さんは批判した。
 途中のサービスエリアで昼食を取り、休憩したので、鍛錬道場まで三時間以上かかった。ジョンがおしっこをしたがり、サービスエリアの奥の林に連れて行った。伊勢自動車道を玉城(たまき)インターチェンジで降りた。
 ナビゲーションが目的地と示唆するすぐ近くに、鉄筋三階建ての大きな建物があった。
「あ、あれよ。あれが鍛錬場だわ」と波多野さんが断言した。近くの空き地に車を停め、みんなは車から降りた。
「あの建物にミッキがいるのかな」と松本さんが言った。ジョンが盛んに辺りを嗅ぎ回っている。最近、秋の長雨の季節も終わり、ここ数日移動性高気圧に覆われて、天気が安定しているので、私や鈴木さんの匂いが残っているのかもしれない。若林さんのことをジョンは知らないが、鈴木さんの匂いなら知っている。特に、スタンガンの一撃を食らった恨みがあるので、鈴木さんの匂いは忘れないだろう。
 ジョンが何かを見つけた。河村さんがジョンがくわえているものを受け取った。
「ミッキのハンカチだわ。やっぱりここにいるようね。ジョンを連れてきたのは、正解だったわ」
 ジョンは一目散に建物の入り口に走っていった。四人もジョンのあとに続いた。
 河村さんが鍛錬道場の入り口のインターホンを押した。
「どなたですか?」とインターホン越しに男性の声で尋ねられた。
「私は河村という者ですが、ここに鮎川さんがいると思うんです。ちょっと会わせてもらえませんか?」
 中でざわめいている様子が、インターホンを通して察知された。しばらくして、「そんな人、いませんよ」と断られ、インターホンの通話が途切れた。
 河村さんは何度もインターホンのボタンを押した。
「うるさいな、そんな女、いないと言ったらいないんだ」
 インターホン越しに怒鳴られた。
「いいえ、いるはずです。私は鮎川さんとしか言っていないのに、なぜ女だとわかったのですか? 私たち、鮎川美咲さんに会うために、名古屋の方からわざわざ出てきたんです。ぜひ会わせてください」
「いちいちうるせえな。いい加減にしないと、警察を呼ぶぞ」
 相手の男は、ちょっとした言葉の齟齬(そご)を突かれ、頭に来たようだった。
「どうぞ、呼んでください。もし鮎川さんを監禁しているなら、あなた方のほうが不利になりますよ」
「うるせえ、とっとと帰れ!」
 そう怒鳴ると、もうインターホンは応答しなくなった。それで大井さんが力を込めて、ドンドンとドアを叩いた。
「さっきから何をドンドンやっているんだ」とドアから大男が姿を現した。私を担当している、海坊主のような霊能インストラクターだ。体格は元番長の大井さんよりも大きい。この男を見て、松本さんが「わぁ、でかい」と驚いた。
 ドアが開いた際に、ジョンがするりとドアの隙間をすり抜けて、中に侵入した。そして、地下室への階段を駆け下りていった。
「あ、こら、そっちに行っちゃだめだ」
 大男はジョンを追った。大井さんたちも「よっしゃ、俺たちも行くぞ」と言って、道場に入っていった。玄関の近くには若林さんと鈴木さんが騒ぎを聞きつけて来ていた。そして、波多野さんと鉢合わせになった。二人は波多野さんを見て、驚いた。
 ジョンは地下室の扉の前でワンワン吠えた。
 私は真っ赤な部屋で、不眠、空腹などで極端な疲労状態で、「心霊会の会長先生、並びに御守護霊様に私は帰依します」と何度も何度も繰り返して唱えさせられていた。もう精神的にはボロボロで、私の心は崩壊寸前だった。しかし、部屋の入り口のところでワンワンと吠えるジョンの鳴き声が耳に入った。私はまさかと思った。そして、「おい、ミッキ、いるか?」という松本さんの声を聞いた。いくらぼんやりした頭でも、松本さんやジョンの声を聞き間違えることはなかった。みんな、助けに来てくれたんだ、と思ったら、涙がぽろぽろと零れ落ちた。部屋にいる二人の女性霊能インストラクターはおろおろしていた。
 玄関の近くでは、大井さんと巨体のインストラクターが戦っていた。さすがの大井さんも、巨体のインストラクターには手こずっていた。空手の大井さんに対し、大男は柔道が得意なようだ。組み止められたら勝ち目がない。スピードで勝る大井さんは、捕まれないように動き回って、打撃で大男を攻撃した。河村さんと波多野さんは、やってきた何人もの修行者に取り押さえられていた。
「何するのよ、放してよ」と河村さんが押さえつけている修行者に怒鳴った。河村さんを押さえつけているのは、複数の女性修行者だった。松本さんも修行者に囲まれた。
 みんなが押さえられている間に、私は若林さんと鈴木さんに腕を引かれて、出入り口に連れて行かれた。大井さんが鈴木さんに飛びかかろうとしたが、大男に後ろから羽交い締めにされた。
「この野郎、放しやがれ」と大井さんが叫んだ。そのとき、押さえつけている修行者を振り払って、ジョンが大男に飛びかかり、丸太ん棒のような太い左腕に噛みついた。しかし、大男はジョンの攻撃に耐えて、大井さんをがっしりと締め上げていた。ジョンは修行者二人に取り押さえられた。その間に、私は若林さんのミニバンに乗せられた。
 大男はジョンに噛まれた激痛のためか、大井さんを締め付けている腕の力が少し弱まった。その隙を逃さず、大井さんは大男の顔面に頭頂部で頭突きを入れ、大男は羽交い締めを解いた。そして大井さんは大男の頸椎に手刀を浴びせた。頸椎は人間の急所であり、そこへの攻撃は、ひとつ間違えば、相手を死に至らしめてしまう。そのことを十分わきまえている百戦錬磨の大井さんは、相手をひるませる程度に手加減をした。そして、動きが止まった大男の腹部や顔面へ突きや蹴りを食らわし、やっとの思いで倒すことができた。大男が倒されたことで、松本さんや河村さん、波多野さんを押さえつけていた修行者たちは、戦意を喪失して引き下がった。
「おい、おみゃんたー(おまえたち)、大丈夫か?」
 大井さんは松本さんたちに声をかけた。
「ミッキが連れてかれてまったがや。追いかけるぞ」
 四人とジョンは大井さんの商用車に乗った。今度は若林さんの車を追いかけるため、波多野さんが助手席に乗った。
「美咲ちゃん、たぶん若林さんの車に乗せられていると思うわ。白のセレナよ。玉城インターの方に向かったんじゃないかしら。三重県だと、津と四日市に道場があるのよ」と波多野さんが推測した。
「セレナか。いい車に乗ってやがるな。まだそれほど遠くまでは行っとらんはずだがや。早く追いつかなくては」
 そう言って大井さんは車を発進させた。若林さんの車を追っているとはいえ、大井さんは三人とジョンの命を預かっているので、そう無茶な運転はできなかった。鍛錬道場の前の道路はしばらく一本道だ。
「あ、あの車よ。ちょうど今右折のウインカーを出している。間に合ってよかった。もう少し遅かったら、右折したことに気づかず、まっすぐ玉城インターの方に行っちゃってたところよ」
 波多野さんが若林さんのセレナを発見した。右折する直前に見つかったのは、幸運だった。
 若林さんは、県道二二号線に入り、伊勢神宮の外宮(げくう)の方角に向かってセレナを走らせた。ひとまず伊勢市内の幹部宅に行く予定だった。
「ちくしょう、麻衣のやつ、やっぱり裏切りやがったんだ」
 ふだんは気位が高い鈴木さんが、乱暴な言葉遣いで波多野さんをののしった。松本さん、河村さん、大井さんに加えて、波多野さんも私の救出に来てくれたことが嬉しかった。そして、ジョンまでも。私が伊勢鍛錬道場にいることを推理したのは、たぶん波多野さんだろう。
「あ、追ってきましたよ。あの車です。さっき道場の近くに駐まっていた、ライトバンですよ」
 助手席にいる鈴木さんが後ろを振り向いて、若林さんに大井さんの車が迫ってきたことを教えた。
「オンボロのバンじゃないの。こっちのほうが、ずっと加速性能はいいはずよ。振り切ってやるから」
 若林さんはルームミラーで大井さんの車を確認した。そして、ぐっとアクセルを踏み込んだ。セレナはぐんぐん加速して、大井さんの車を引き離した。
「おばさん、運転、気をつけて。道は狭いし、ほかの車も走ってますから」
 若林さんがかなりのスピードで走っているので、鈴木さんが少し不安そうだった。
「任せておきなさい。運転歴三〇年は伊達じゃないよ。それに、御守護霊様もついているんだから、絶対事故なんか起こしゃあしないよ。それより、私たちを追いかけている後ろの車のほうが今に事故を起こすよ」
 若林さんは得意げになり、さらにスピードを上げた。追い越し禁止区域にもかかわらず、対向車線にはみ出して、前の車を追い越した。追い越すときに、違反を知らせるためか、クラクションを鳴らされた。
「くそっ、スピードを上げやがった。この車、ボロだで、ちょっともスピードが出ーせんがや、ちくしょう。カーチェイスになることがわかっとったなら、無理言ってでも親父のウィッシュ借りてこやあよかった」
 大井さんが悔しがった。さらに、赤信号にかかり、大井さんの車は停められてしまった。
「あれだけスピード違反や追い越し違反をしてるんだから、警察に捕まるといいんだけど」と河村さんが言った。
 大井さんの車はどんどん引き離されていった。このままでは、もし若林さんの車がどこかの枝道に入れば、大井さんは完全に見失ってしまう。
 そのときだった。運転をしている若林さんが、突然苦しみだした。
「ああ、頭が痛い、頭が割れそう、誰か助けてー!」
 若林さんは苦痛にうめいた。
「おばさん、運転が。止めて。私が運転を代わるから。ブレーキを踏んで!」
 鈴木さんは悲鳴をあげた。私はとっさに「光のお御霊、助けてください」と強く心で祈って、二列目のシートの下に身体を伏せた。セレナは緩いカーブの地点で、猛スピードで、反対車線の道路脇に停車していた軽トラックに突っ込んだ……。

メニュー偽装

2013-11-02 19:57:41 | 日記
 11月に入り、めっきり冷え込んできました。
 最近寒くなったせいか、風邪をひいたようで、朝起きたらひどい鼻づまりや咳がありました。
 このところ、ホテルのレストランのメニュー偽装が話題になっています。全国的に問題が広がっているようです。
 名古屋のホテルでもあったそうです。
 私は最近、ホテルなどの高級なレストランには入っていないので、遠い世界の出来事のようですが。
 意図的な表示偽装なのか、単なる誤表示なのか。
 芝エビとバナメイエビの違いは、私にはよくわかりませんが、伊勢エビを注文したのに、それはロブスターだったとわかったら、やはりショックです。
 最近バナメイエビの養殖は、病気のため漁獲量が激減し、かなり高騰して、高級なエビになったのかもしれませんが?
 私はグルメではないし、多少表示が違っていても、おいしければいいのかな、なんて思わないでもないですが、それでも名古屋コーチンのつもりで食べたら、実はブロイラーだった、では後味が悪いです
 たぶん、私は食べていても名古屋コーチンとブロイラーの違いは気づかないでしょうが。
 無添加のものを注文したら、添加物だらけだったら、健康も気になります。
 一流ホテルのレストランのメニューだったら、やはり信用してしまいます。信用を汚すような行為は、やめてもらいたいと思います。
 最近私は外食といったら、牛丼屋ぐらいしかいっていませんが……。

 来年刊行予定の『永遠の命』は、今月上旬入稿の予定で、今、最後の見直しをしています。