Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

011-説明して!

2012-09-24 21:32:39 | 伝承軌道上の恋の歌

 僕は電車の窓から流れる風景をただ眺めていた。僕はいきなり人も背景も見た目と質量が同じだけのまったく違う空間に連れてこられたようだ。スクランブル交差点を歩く人達はさっきと同じに笑ってる。同じ人じゃなくても笑い方は同じだ。当たり前に僕なんかどうでもいいって顔してる。僕にだけはあんなことが起こったっていうのに?
 アノンは行ってしまった。また一方的な謎ばかりを僕に押し付けて。マキーナと妹のヤエコの境遇が似てると、アノンはそう思って僕との関係を疑った。結局それは誤解だった。思い込みの激しい女の子が思いついたただのお伽話、つまり偶然。
 いや、偶然…のはずだった。今日聞いたマキーナの新曲『伝承軌道上の恋の歌』が生前のヤエコが歌っていたのを僕が知るまでは。駄目だ。頭が混乱して何も考えつかない。左手の五本の指から宇宙の真理を見つけることくらいあてもない出来事のつながりだ。
 いつしか僕は家路に向かう駅の階段を下りていた。そして、六畳一間のアパートのドアを開ければもう行き止まりだ。どこか遠回りでもしてとにかくとにかく落ち着かなくては…そう思っていると、いつもと変わりのないはずの駅前の光景に違和感を覚えた。ちょうど時計台を囲むようにして並んでるベンチの辺り。妙に目立つ格好で座ってる女の子がいる。遠目でもそれが何かが僕には分かった。今日アノンが着ていたあの格好と同じだ…マキーナだ。もしかして…


「…アノン?」
 そうだ。そうかも知れない。なんでこんな所に?それすら今日目の当たりにした奇妙さに比べればほんの些細なことだ。もしかしたら、あのデウ・エクス・マキーナの物語を考えたやつはあの事故のことを何か知って…僕は期待に胸を高鳴らせて階段を駆け降り、ロータリーを過ぎる自動車の間をかいくぐっていく。
『…アノン』変哲もない郊外の駅前で一人コスプレをして座っている女の子はだんだんと近づいて、マキーナの女の子は僕に気づいて立ち上がると、ゆっくりと僕に振り返って。そして僕の期待の方向は思わぬ方向にねじ曲がって、でも思いがけず進んでいった。
「説明して!」
 マキーナになっているアキラは僕の言いたいことを僕に向かって代弁した。
× × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
「それって余程問題でしょ?」話を終えた僕にアキラが言う。
「ま、そういうことだ」
 僕は溜息を吐く。
「それでどうする気?」
 アキラはいつでも現実的だ。いつでも次の対応を考えてくれる。
「どうするって言ってわれてもな。あの歌自体が実は有名な曲でヤエコもマキーナとかいうやつのも元ネタが同じだけかもしれない。頭を冷やして考えればその可能性が一番高いだろうな。ただ…」
「ただ?」
「ただ、これが万が一でも偶然とか当たり前の結果じゃない何かを持っていたら?そう思ってる。現にアノンという女の子はヤエコの歌のことも知らないのにヤエコとマキーナのことを関係があると思っていたんだ。犯人につながる手がかりになる可能性が1%でもあるんなら、正直それに賭けたい気持ちはある。とにかく知りたいんだ。デウ・エクス・マキーナとか言うやつのことを」
「なら行くしかないでしょ?」
 アキラが不敵に笑った。
「どこに?」
「スフィア、デウ・エクス・マキーナに決まってるでしょ?!」
「…いつ?」
「今」
「お前それで…その格好して」
「…うん」
 アキラは少し恥ずかしそうに肩をすぼめた。
 × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
 僕の目の前にはアノンと同じ格好の、しかし大分縦に伸びたマキーナが窓の外を眺めて立っている。その横にはダッフル・コート姿のごく普通の見た目の男。そんな僕達は向い合って電車のドアに寄りかかっていた。
「…ん、どうしたの?」
 僕の視線に気づいたアキラが振り向く。
「今ここで間違い探ししたら百人が百人ともお前を指さすだろうな」
 僕はアキラの全身をまじまじと眺めていった。
「裏切ったのは世界、それとも自分?実に悩ましい問題だね。ま、ボクの場合、普段からコスプレみたいなもんだからさ」
「それもそうか…」
「もう、否定してよね」とアキラはむくれる。
 僕はすっかり暗くなった窓の外を僕は自分の姿を透かして眺めていた。
「…でも、三年忌迎えるこの時期にこんなことが起こるなんてね。こんなことがなければもっと静かに迎えられたのに」とアキラがつぶやく。
「まあな」
 でも、この偶然が今この時起こったことに意味があるのかもしれないと思う。
「この時期はボクも色々思い出すよ」
 強い風が正面から吹いてアキラは身を縮こませる。
「お前と研究所で会って三年目ってことだな」
「そうだよ。ボクにとってはその意味もあるんだよ。だからね、ボクも複雑な気持ち」
 僕達が出会ったのは『研究所』。僕達はその最後の患者だった。
「あーあ、ウケイ先生何してるかな」そう言ってアキラが窓の外の狭い空を見上げる。
「…さあな」
 それはヤエコの主治医でもあったウケイ先生が姿を消して過ぎた空白の間でもあった。

…つづく

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