Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

006-思えばどうかしてた

2012-09-19 21:42:12 | 伝承軌道上の恋の歌

 そして今日。神宮橋。ヨーロッパの市場に並べられた野菜みたいに色んな人間がひしめいてる。同じ顔や違う顔。誰とも違っていたいという意味で同じな人形みたいに。それがいつからか見物に来る人や芸能事務所のスカウト見に来るようになって、モデルとかアイドルとかそういうのに憧れた若者たちが集まって見本市になってるらしい。間近にいながらまるで遠くのことのように感じるのは、僕がうさぎの着ぐるみのわずかな隙間からその光景を覗いているからだろう。今日も僕はいつもの『周知活動』と同じように新しくオープンした服屋を告げるビラを配ってる。
『ここがテーマ・パークになるだよね?』『そんな話しあったっけ?』
 そんな何気ない会話がこもった声で喧騒に混じって聞こえてくる。別に聞き耳を立てていた訳でもなかったけど、気になる単語が僕を惹きつけた。
『ほら、あれ…デウ・エクス・マキーナだよ…言ってみようぜ』『お前、あのスフィアのアソシエイトだったのかよ?』『いや、ただのユーザーだよ』『ほら、あれ。スカウトも来てる。目をつけられてるんだよ。これから大きくなるかも』
 彼らの視線の先には十人くらいの一群がいた。雑誌で見た『デウ・エクス・マキーナ』の格好をした女の子達がいる。あの朝アキラと見たポスターのCGが歩いていたら多分こんなだろう。髪もピンク色で、ブーツとビニール生地のワンピースまでまるで同じだ。しばらく眺めていると、熱心な取り巻きからカメラを向けられていたりと、まるでアイドルみたいな扱いだった。
 と、そこで僕は一人の女の子を見つけた。間違いない。あの時の女の子だ。『これって嘘なんですか?』あの周知活動で謎の言葉を僕に残したまま消えていった彼女。
「ほら、アノン、あれ見てご覧」
 彼女の仲間の一人らしき女の子が僕に気づいて指さした。彼女も似たようなコスチュームに身を包んで奇抜なメイクをしていた。


「あ、ウサギさんだ」
 僕を見つけた『彼女』がマキーナの格好で近づいてくる。間違いないあの時の女の子だ。アノン…そう呼ばれているらしい。
『こんにちは、アノンちゃん』
「ウサギさん、お仕事ご苦労様」そう言ってアノンは抱きついてきた。
 あの日の朝の時とは打って変わって明るい。中身も『マキーナ』になったんだろうか?
『今日もビラ配りなんだ。アノンちゃんはビラは好きかい?』
 ならば僕はかわいいウサギさんでしかありえない。
「え、っと…」 
『好きかい?』
「う、うん、好きだよ」
『世の中には色んなビラがあるよね。でもみんな何か伝えたくて配ってるんだ。一枚一枚に手渡す人の気持がこもってる。でもね、それを嘘と言われたらどう思うかい?』
「えっ…」
『家族の死んだのを作り話だと言われたら、その人はどう思うだろう、アノンちゃん?』
「あ、あ…」
 さっきまでの屈託のない『マキーナ』のアノンはもうどこかに行ってしまったようだ。ここまでくれば僕のものだ。どう料理してやろうか…
 と、不意にカメラマンの一人の
「肩組んでーアノンちゃん!」と叫ぶ声がくぐもった僕の耳に届く。
『…騒ぐな。笑うんだ』
 僕はアノンの肩に手をかけて、彼女にだけ聞こえる声で伝えた。きっとアノンはひきつった笑顔で笑いかけていたことだろう。
『さあ、訳を言うんだ。なぜあんなことを言ったのか…』
「それは…」
『教えるんだ…もしかしてあの事故を起こしたやつから何か…』そう言いかけたところでアノンは僕の背中に両手を絡ませた。
「シルシ、私、ずっと見てたんだよ?」
『…?』
「それでシルシのあの反応で全てを理解したんだ。ああ、私の探していた人だって…」
『君は一体何を言ってるんだ』
「大丈夫。まだ知ってるの私だけだから。シルシが隠したいならそうする」
『だから何を…』次の言葉が見つからないまま、うろたえていると、
「ネットマガジン『ベント』です。アノンちゃん、こっち!」
 照明までたいた大掛かりなカメラマンが、僕達の前に現れた。するとアノンは僕に抱きついたまま、カメラに向かってアッカンベーをした。

…つづき

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