「今日もいらしてくれたのね。ありがとう」
そう言って私は彼女の手を取った。少し恥ずかしがる素振りをしたけど、でもきっと私の気持ちは伝わったんだと思う。ちょうど一番端の大きな窓の下が背を持たれて座れるくらいに出っ張っていて、私達は背を伸ばしてそこにふたりして座った。
「ね、月がきれいでしょう?」
窓の外に半身を振り向かせながら、私達は鏡合わせのように並んで夜空を見上げた。私はまた歌を口ずさむ。澄んだ光に私の歌声が伝って夜空にまで届いていくようなそんな夜だった。女の子は黙って聴いてくれてる。そういえば、まだ名前を聞いてない。
「ねえ?名前、名前なんていうの?」
でも女の子は首を傾げるだけだ。
「私、ヤエコ。あなたは?」
自分と相手を指さして分かるように伝える。けれど、あんまり要領を得なかった。
「じゃあ、こうしましょう。私があだ名決めてさしあげます。…そうですね。そのまき毛が可愛らしいからマキちゃんってどうかしら?」
「マ、キ」
私は彼女に分かるようにはっきりと口を大きく開いて言った。すると女の子は
「マキ?」
そう言って初めて口を開いた。そうしたら私はとても嬉しくなって
「そう。マキ。マキちゃん」
「…マキ」
もう一度確かめるように女の子は自分についた名を繰り返した。
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