遠くから花火の音に少し遅れて歓声が起きた。日はとっくに暮れていた。狂熱の一週間の終わり。その輪の中心でその後永くファンたちの伝説となったライブを終えたアノンも今はただ遠くでそれを感じている。
「…もう終わったんだね。本当に夢みたいな時間だった。永遠に終わらないでって思ったけど、いくつもの歌と言葉を瞬間瞬間に私は刻んでいたんだ。ちょうどヤエコやマキのようにね…あの時がどんなに昔になっても今の私に絶対に会いにいける。そんな勇気をもらえた気がするんだ。私がそれまで生きていればだけどね…」
僕は何も言わず、真っ暗だった空間に携帯電話の明かりを灯した。モノクロの冷たいコンクリートの壁が辺りを取り囲んでいる。そこはいつか皆で集まった公園のドームの遊具だった。マキとヤエコの最後の避難場所だった場所。不意にアノンと目が合うと初めて出会った時の彼女を思い出す。
「私達助かったのかな?」
「…」
気休めに僕は携帯電話のラジオをつける。この先の行く宛もなければ、ただあてどなく時間が過ぎるのを待つだけだ。その先に何があるのかも知れない。緩んだ倦怠感に見を委ねたまま、少し困ったように僕達は背中を丸めた。アンプからすり切れた音でぶつ切りに流れる女の人の声が伝えているのは世界のニュースだった。この国でもオーロラが観測できるようになってきたこと、地球が寒冷化していること、どれも夢の先の遠い出来事に思えた。アノンはただ膝を抱えて黙って聞いている。そして最後のトピックが読み上げられる。『…世界初のISP細胞元に作られた臓器を用いた臓器移植が行われ注目を集めています。来月頭の法的な整備を待って各機関こぞって臨床試験に移ることを発表しており、今後の医療分野における革新的な進歩が期待され…』電波の向こうの女性の声はそう伝えていた。
「…ウケイ先生がいってたのは…」僕がつぶやく。
「どうかな…?」
「これで変わったんだろうか?」
そして僕達は救われたんだろうか?
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