「…シルシ!」
アノンの手を引いて僕は周りを顧みることすらしない。
「人の中だ。とにかく人ごみの中に逃げるんだ」
そしてまたいつかスクランブル交差点に辿り着いた。僕達は息を切らして、しばし彷徨うように次第にその歩を緩める。周りにはアノンによく似たマキーナ達もそこかしこに見受けられる。これでいい。多くのマキーナに囲まれていれば気休めくらいにはなる。そんな僕らを見下ろすように巨大液晶スクリーンではCGのマキーナが歌ってる。世界の終りに見える空一面のオーロラもきっとこんなふうだろう。僕と同じようにスクリーンを見上げた後、アノンはゆっくりと僕の手を放した。
「…アノン?」
「私、色々楽しかったからいいよ?ヨミのために死ねるんならかまわない。ずっとそう思ってきたんだ。それにね、もうマキもヤエコも二度と死なない。今日それを証明できたんだから…それは私も同じ」
震えながらアノンは笑う。信号が青に変わる。僕たちの間を人が通りすぎる。でも僕は見失わない。
「また逃げ出せるなんて思うなよ?」
僕は笑う。そしてアノンに歩み寄ると、少し乱暴に彼女の手をとった。
「ヨミが何を望んでるのか分かったら、お前は生き延びなきゃいけないんだ。ヤエコやそれに…マキだって同じ風に思ってる。ヤエコ達の死は今この時のためにだって広がって僕達に光を当ててるんだ」
アノンは何も言わない。けれど代わりに僕の手を握り返した。
僕達はまたあてどなく街を歩く。
「こっちだ」
僕はスクランブル交差点から伸びる一番に賑やかな通りに進む。復活したスフィア、デウ・エクス・マキーナの狂乱の仮装行列は続く。鳴り止まないマキーナの歌、人々の嬌声、街を彩るネオンに照らされては背中を丸めて歩く僕達は誰かの妄想の中に迷い込んだようだ。単純に伸びるアーケード街すら迷路のように一歩毎にそれが正しい選択なのかを尋ねる。破滅に近い大団円に向けてこの一週間がもうすぐ終わろうとしていた。
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