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日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

他人事でない地下鉄誤射事件

2005-08-19 13:08:11 | Weblog
 「ゆりさんのメールから」でお伝えした、ロンドン警視庁の刑事による暴挙と隠ぺい工作疑惑は、警察当局の幹部の責任問題を追及する声が高まっている。また、ブラジル政府は18日、近く2人の捜査員を独自調査するために英国に派遣すると発表した。
 ただ、今回の騒動を見ていて感じるのは、独立調査委員会の存在の重さだ。警察幹部から委員会に対して様々な形で圧力がかけられているようだが、捜査当局とは一線を画している。確かに、ITVが報道するまで(一部報道では、委員会関係者がITVに情報提供したとしている)は、ロンドン警視庁に遠慮していた節があるが、これまでのところはその役割を果たしているようにみえる。
 これが日本で起きたらどうなるかと考えてみた。警察捜査の苦情処理は、各都道府県の公安委員会によって行なわれるが、“有識者”で構成される各地の公安委員会は、ほとんどが警察のお気に入りの人たちで構成されており、その機能は発揮されていない。警察法では、国家公安委員会が都道府県の警察の大本締めである警察庁を管理すると規定されているが、その実態はと言えば、その逆で公安委員会が警察に管理されている状態だ。
 大分前から警察の体質改善が叫ばれているが、大きな進展は見られない。アル・カーイダのメンバーだとして在日外国人を誤認逮捕した後もなんら再発防止の手が打たれたとも聞いていない。このままでは英国であった射殺事件と同じような事件が日本で起きかねないと思うのは私だけであろうか。

ゆりさんのメールから

2005-08-19 02:02:32 | Weblog
 8月1日付の「私の視点 英国の人種差別」に寄せられたコメントの中からユーザー名「ゆり」さんが書かれているものをご紹介してそれに私の体験と解説を加えた。これまでゆりさんが書かれたものを見ると、英国在住ならではの“空気”が感じられ、貴重な報告にもなっている。

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(ゆりさんのコメント)
 やっぱり、というか多くの人が想像したような結果になりつつあります。
肩に一発、頭に七発の銃弾を受けて誤殺されたブラジル人青年の死をめぐる不可解な状況が少しずつ明らかになってきています。民放ITVによる独自の検証が毎日新聞の記事にも出ていましたが、青年がいつも着用していたのはジーンズの上着であって厚手のジャケットではないなどは、青年の従弟の方が当初から主張していたことです。つい最近、当局は現場駅の監視カメラに不具合があったとかで、裁判では映像による状況の検証が不可能になったと発表していましたが、こうなって来るとこちらの方にも疑いの目を向けてしまいます。もともと、あれだけの弾丸を頭部に撃ち込んでいながら「誤って射殺」と言えるものなのかどうか。
こんな調子では、英政府が司法当局に要請している、解釈を引き締めたテロ法によって過激派を出身国にどんどん送還しても、その中にはテロとは全く無関係の人間もいた、という事になるかも知れません。私はイスラムの人間ではありませんし、過激派の擁護をしているわけではありません。確証のない捜査によって善良な一市民の人生が無茶苦茶になることに不条理を感じるのです。
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 と、書かれているように、事件直後、「テロリストの射殺」と報じられたこの事件が、実は「正当防衛」どころか「過剰防衛」でもなく「人種差別殺人」であったことが分かった。ITVやガーディアン紙などが17日、警察独立調査(苦情処理)委員会から入手した映像などの内部資料を使って射殺されたブラジル人男性デメネゼスさんに不審な点はなかったと報じている。
 その内容は、「捜査官の追跡から逃れようとしたデメネゼスさんは、地下鉄の駅で改札口を飛び越えて…」とされた部分について、「普通に歩いて改札口を通り、構内に置かれたフリーペーパーを手にした」としており、また、「夏なのに厚手のジャケットを着ていた」という当初の警察の発表についても「薄いデニムの上着」であったとなっている。確かに、殺害後映された写真をご覧頂ければ分かるように、地下鉄車両にうつぶせに斃された被害者はジーンズを履き、ライトブルーの薄手の上着を着ている。いくら「自爆テロ」容疑者として仕立てるのに厚手のコートが不可欠であったとしても、このような証拠写真があっても警察が「厚手のコート」にこだわった理由は解せない。
 ゆりさんがこの事件に怒りを感じるのはもっともな話である。これを読んで、私は自分が30年前に英国で体験した警察と入管当局者のズサンで無礼な態度と仕事振りを思い出した。
 警察に関しては、私が引ったくりを捕まえて警察に引き渡したときのことだ。当時、ロンドン名物である「ダブル・デッカーズ(二階建てバス)」は乗降口にドアがなく、乗り降りはバス停があるなしに関係なく自由で、たとえ走行中でも飛び乗る事が出来た(今でもあるのかな?)。ヴィクトリア駅が幾つかのバス路線の起点となっており、出発を待つバスが並んでいた。
 一台のバスの横を通り過ぎようとした時、若い男が車掌の持ち場からかばんをひったくる光景を目撃した。呆気に取られる女性車掌に、「snatcher(ひったくり)?」と聞くと、激しく首を縦に振ったので、私は男を追いかけ、背後からつかまえると首投げでその場に倒した。
 駆けつけた警察官に男を引き渡してその場を去ったのだが、それからしばらくして警察官の訪問を受けた。犯人を裁判にかけたから証言台に立ってくれとの要請であった。だが、先ずその訪問時間が常識外であった。午前7時前に来たのだ。そういう依頼は正式に裁判所から文書で来るものと思い込んでいた私は、その旨を言い、寝込みを襲われた不快感を口にした。警察官は口では謝ったが、表情は明らかに「この生意気なアジア人の若造め」と敵対心丸出しであった。
 そんなことがあったが、私は指定された日時に裁判所に出かけた。ところが、受付に行って用件を伝えても、そんな裁判は存在しないと言われた。粘って書記官に調べてもらうと、事件は既に解決済みだという。ならばなぜこちらに連絡をくれなかったかと食い下がると、木で鼻をくくったような謝罪の言葉のみが返って来た。
 もう一つの例は、入国管理事務所(HomeOffice)とのやりとりだ。当時から英国には仕事を求めて密入国や不法滞在をする外国人がいたので、私のようにひんぱんに国を出入りし、さらにパレスチナゲリラの取材をする者は歓迎されなかった。1972年、日本赤軍が空港乱射事件を起こした時、シリアにいた私は、当時活動拠点にしていたロンドンに戻ると、空港で長時間調べられた。そしてその後しばらくしてパスポートを「一時預かり処分」にされてしまった。
 それから間もなくして、日本の雑誌社から米国取材の依頼が入り、私はパスポートの返還を求めてHomeOfficeに足を運んだ。ところがなんと、返って来た答えが、「今当局は新庁舎に引越し中だが、どうやら君のパスポートを紛失したらしい」というふざけたもの。
 まあ、パスポートだ。再発行を申請すれば、金はかかるが手に入る、と最悪の事態を想定して、その日はあきらめて仕事に出かけた。その日の仕事場は、先日ご紹介した「リンガフォン」だ。「今日の出来事」として事の次第をB氏に話すと、彼は秘書にすぐに電話をさせた。私はその電話先は分からぬままに仕事に手をつけた。すると、B氏の元に一本の電話が入った。私が彼のオフィスに入って10分もかかっていなかったように記憶している。
 「パスポートがありましたよ」
 B氏は笑顔で私に伝えた。B氏の話では、彼の秘書が電話した先は有力な国会議員。議員からHomeOfficeに電話を一本入れてもらったとのことだ。ここから推察するに、HomeOfficeは私に嫌がらせをしていたのだ。
 それから30年以上の時を経ても、今回の事件を通してみると、英国の官憲は、人は変われど、組織自体は当時とあまり変わっていないようだ。同時多発テロ直後、私は、非常事態に冷静に対応する「英国社会」をほめる記事を書いたが、時間が経つにつれそれが正しかったか今自問自答をしている。
 最後に、前にも書いたが、刑事がデメネゼスさんを惨殺した背景に、ロンドン警視庁のスタッフがイスラエルで「対テロ対策」の訓練を受けていたことが深く関係しているように思えてならない。今回の捜査方法からデメネゼスさんの殺害方法まで、イスラエルの兵士や警察官が、パレスチナ人に対して行なっている取調べ方法そのままだからだ。