あるBOX(改)

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思い出の名勝負「アルフレド・マルカノvs小林弘 」

2011年01月10日 | ボクシング
青森県立体育館 
1971年7月24日
【WBA世界Jライト級タイトルマッチ】

直前の9戦で5敗している挑戦者(計8敗マルセルに2敗)。
組みし易しの声もある反面、中南米の強豪に揉まれたキャリアと、
32勝中22KOの高いKO率を警戒する声もあった。

第1R。
マルカノの先制が有効。身体にバネがあるからジャブが伸びる。
少し今で言えば、まるでレオ・ガメスのようだ。
王者もアッパーで威嚇するが、挑戦者は止まらない。逆に4連打で
ロープへ追い、右フックを叩きつける。
ボディを叩いて再び顔面に伸びるジャブ。
小林の顔が大きく上を向く。早くも鼻血を出した王者、ややピンチ。

第2R。
マルカノは中々上体も柔らかい。リズミカルに振って、またジャブ。
小林も負けじとジャブ。
挑戦者のパンチに合わせ、左右フック。様子を見ていたのか?
しかし終盤再び攻勢を許す。

第3R~
静かな序盤からマルカノの手数がジワジワと増え出す。
小林の右カウンターも当たるが、挑戦者も輪をかけて反撃。

会場も暑そうだ。
観客は団扇で顔を扇ぎ、選手の身体が汗で濡れている。

ここらから王者の足が有効に動き始め、ジャブにキレと数が増してきた。
しかし左ガードを下げた所にマルカノの右(これは解説の田辺清氏に、
ややオープンと指摘される)。決して王者ペースでは無い。

第7R。
マルカノの攻め手に、パターンが尽きてきた。
ジャブ突いといて、左右フック、少し置いて身体ごと伸ばすジャブ。
出所を読んで来た小林だが、かと言って完全には防げず。
後半、身体で押して左右フック。
体格で劣るマルカノ、やはりフェザーでも出来る身体か?

第8R。
王者がジリジリとプレッシャーを掛ける。
1分過ぎ、右左右のフックでマルカノがロープへ後退。
王者の追撃に負けじと反撃するマルカノだが、小林の左ボディで失速。
右アッパーも貰って効いている。

第9R。
形勢は王者に移った。
さすが日本の誇る技能のボクサーだ。第1Rあれだけ攻められながら、
結果的に もう相手のパンチの出所を読んでいる。

はっきり言って並の日本選手なら最初のラウンドで致命的なダメージを
受けて、立ち直れない筈だ。
距離を見切り、上腕で相手のパンチを殺し、自分は速いパンチで反撃する。
目に見えやすい上手さ、技巧と云うよりインサイドワークこそが小林の
最大の武器だろう。

相手が弱ったと見るや、左右を連打し追撃。
酷暑もあってマルカノは両腕さえも下がりがち。そこへ王者の左フックの
ダブル。力ない表情でコーナーに詰まった挑戦者を連打で追いたてる小林。

会場は王者のKO防衛への期待で一杯だ。
やや的確さに欠けるかと思われた王者の攻勢だが、吉田勇作レフェリーは
ロープダウンを取った(結果的に これが凶と出る。マルカノは完全には
効いていなかったのだ)。

再開後、なおも攻める王者。小林自身も疲れている為、どうしてもクリンチ
状態になる。
レフェリーが引き離した瞬間、強打の間合いが出来た。
前に突っ込む小林にマルカノがタメの効いたアッパーを掬い上げる!

重心が浮いて、足の力が抜けるようにダウンする王者!
形勢逆転の一発だが、直前にも狙っていたパンチだ。
ラッキーでは済まされない。

第10R。
前のラウンドは終了ゴングに救われた王者だったが、ダメージは残っている。
頭を くっ付けて反撃しようとするが、挑戦者も勝負を賭けた。

開始10秒過ぎ、打ち合いからの左フック・右ストレートで倒れかけ、
ロープに引っ掛かる小林。

ここぞと攻める挑戦者の追撃。力強く、手数も出る。ゲスト解説の大場政夫が
「あぁっ」と悲鳴にも似た叫び声を上げる(他人の勝負には淡白かと思ったが、
兄貴分の小林は別だったようだ)。

右フックで前に倒れる小林。
平衡感覚を失ったかのように右へ傾いで再度キャンバスへ。
もうストップの状態だが、吉田勇作レフェリーは例によって止めない。
この後 計4度目のダウンがあるが、それでもカウントを数えている最中に
王者陣営からタオルを投入された。

小林は6度守った王座に別れを告げた。
物が投げられる中、勝利を喜びつつグッタリと疲れた表情を見せるマルカノ。

私にはラッキーな勝利とは見えなかった。
序盤から最後まで繰り出されたジャブ、要所で有効だった右フック、タメの
効いたアッパー。

当時の記者には、プロポーションの悪さ(頭デカイんだ!)や、泥臭く見える
左右フックの振り、攻められた時の不恰好な頭の動きなどで、お粗末な新王者に
見えたかも知れない。

しかし
2流、3流王者を見なれた今の目でビデオ観戦すると、マルカノの身体能力の
良さが目に付くのだ。
決してオソマツの一言で片付けられる選手ではないと思う。

そして(もちろん全て見ている訳ではありませんが)小林さんの試合の中でも、
この試合は負け試合でありながら最高にスリリングで面白い試合の一つだった
のでは無いかと思う次第です