京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

生物多様性と人の健康

2021年05月11日 | 環境と健康

ロブ・ダン著『家は生態系』(今西康子訳)白揚社 2021

 都市部では生物多様性は「不潔」という雰囲気でとらえらえているが、実は人の健康維持に寄与していると、この著者は主張する。

本書によると、家庭には、その特殊な環境に対応する意外な生物がいる。例えば給湯器にはテルムス・スコトダクタスと呼ばれる好熱性細菌が住み着いている。テルムス属の細菌は高温の間欠泉や温泉にいる特殊な細菌である(おそらく冷蔵庫にも極地に生息する低温性の細菌や微生物が住み込んでいるはずである)。また、バスルームのシャワーヘッドには抗酸菌(マイコバクテリュウム・NMT)がバイオフィルムを形成しており、そこで水道に含まれる栄養をトラップしている。そのバイオフィルムには原生微生物が棲みこみで一種の隔離フィールドとなっている。水道水だから無菌というのは間違いで、ここに生息する非結核性抗酸菌には感染症(とくに免疫不全の人、肺疾患のある人)を引き起こすものがいるので、注意が必要である。

 現代病といわれる喘息、アレルギー、アトピー、炎症性腸疾患は、地理的な特色があり、皮肉な事に「清潔」な地域でインフラがととのった場所で多い。その原因は、ある種の病原菌に暴露する事でなく、そもそも暴露せずにいる事が原因だとしている。生態学者のイルツカ・ハンスキはその原因を生物多様性の欠如とした。著者によると自宅の裏庭の植物の種類が多いと、皮膚細菌の多様性が増加しアレルギーのリスクが低いそうである。そのときキーになる微生物は、ガンマプロテオバクテリアであるとしている。

 他に興味深い話しとして新生児感染症の話しで黄色ブドウ状球菌(スタフィロコッカス・アウレウス)に善玉菌(善玉看護士の鼻孔にいる)と悪玉菌(悪玉看護士の鼻孔にいる)の2種がいるという下りである。バクテリアが皮膚に定着するのに消費型競争と干渉形競争があるという話しは興味深い。さらにパン職人の掌にはそれぞれ固有の微生物相(ラクトバチラス属、サッカロマイセス属)をもっており、そのパターンにしたがって作るパンの風味が違っているというものである。ほんまかいな?

これらの話しが、すべて信頼される学説なのかどうかは、それぞれ検証が必要だが、アレアレといいながらも楽しく読める一冊ではある。

 

 

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ミツバチの飛行速度はヒトに... | トップ | キンバイ(金蠅) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

環境と健康」カテゴリの最新記事