京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

時間についての考察 IX 精度の高い原子時計が時空の解析に利用されている

2019年04月12日 | 時間学

 

 

  物理的時間の経過は絶対的なものではなく、観測者の座標系に依存している。そのため、時計の動きは、相対速度、加速度、重力ポテンシャルに影響される。例えば山頂に設置された時計は、山頂の重力ポテンシャルが平地よりも強いため、平地に設置された時計よりも早く進む。これを実証するには、我々が日常使うような時計は精度が荒く全然ダメなので、周波数の高い原子時計を使う必要がある。次世代の原子時計 (イッテルビウム光格子時計)は、光周波数での特定の原子遷移の測定に基づいている。このような原子時計は、感度が高いため重力波の検出、一般相対性理論の検証、および暗黒物質の探索に利用できる。ジオポテンシャルを測るプローブとして利用できる可能性も指摘されていた (McGrewら、2018)。

   さらに最近になって、このような原子時計がローレンツ対称性を検証するために実験に利用された(Sanner ら、2019)。アインシュタインの相対性理論の現代的な検証でもあるが、ローレンツ対称性の破れの測定が、非並行的に並べた原子時計の周波数の精密比較において行われた。そしてSannerらは、二つの単一イオン光時計が10-18のレベルで一致することを確認した。ローレンツ対称性の検証のためには10-21レベルでの精度が要求されると結論づけている。

  非並行的に並べらえた原子時計AとBが計測した時間をA(t)とB(t)とする。ローレンツ対称性が破れた場合はA(t) ≠  B(t)である(ただSannerらの論文はまだそれを証明していない)。この間、実験者の時間は等質なもので、AやBの装置を設定したりデーターを解析する時間に差はないはずなので、A(t) ≠ B(t)は人の関与(心理的過程を含めた)なしに生じた純粋に物理的な現象である。物の変化や転生に関する物理的なパラメーターを時間と規定すると、時間は比較できる実存と言える。

参考文献

W. F. McGrew, X. Zhang, R. J. Fasano, S. A. Schäffer, K. Beloy, D. Nicolodi, R. C. Brown, N. Hinkley, G. Milani, M. Schioppo, T. H. Yoon & A. D. Ludlow  (2018) Atomic clock performance enabling geodesy below the centimetre level.  Nature 564, 87–90. 

 Christian Sanner, Nils Huntemann, Richard Lange, Christian Tamm, Ekkehard Peik, Marianna S. Safronova & Sergey G. Porsev (2019) Optical clock comparison for Lorentz symmetry testing. Nature 567, 204–208.

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