保育園児だった頃の、ちょっとビターなエピソードをひとつ。
私の通っていた保育園には、年配の女性の方が、清掃に来ていました。
保育園の職員ではなかったようで、清掃会社の派遣の人だったのかもしれません。
その方がどういうわけか私を特別に可愛がってくれて、「他の子には内緒だよ」といっては、ビーズの指輪や、ゴムひもを通した腕輪をくれました。
今でこそ、アクリルビーズでもガラスかと思うような透明度の高いものがありますが、その頃は、もらった腕輪は赤と緑のビーズで出来ていましたが、どちらも飴玉みたいに半透明でした。
それにバリ(型の外にはみ出した部分)もあり、子どもの目から見ても、いかにも“おもちゃ”というものでした。
けれど、やっぱり可愛いものだし、なにより、その小母さんがプレゼントしてくれた気持ちが嬉しかったのです。
ところがある日、私が保育園の庭で遊んでいると、保母さんたちがすぐ近くで話をしていて、私を見ながらこう言ったのです。
「あの掃除婦さん、この子を可愛がってるね」
「この子も懐いてるみたいじゃない?」
「子どもだから、物くれる人が好きなのよ」
“物くれる人が好きなのよ”という言葉は、私の胸に突き刺さりました。
けれど、保母さんたちに全く悪気はないのです。それに、私が言われたことと同じくらいショックだったのは、私がすぐ目の前にいるのに、まるでいないかのように、言葉がわからないかのように話していたことです。
私はその言葉が忘れられず、“私は大人になっても、ぜったいこんなことは言わない。たとえ相手がちいさな子どもであっても、そこにいない人のように話したりしない”と思ったものです。
ところが、実際大人になったら、自分も何度か、してしまったのです。
子どものいる友達と、子ども連れでお茶などしている時、友達も自分の子が聞いていないかのように話すし、当の子ども自身も、けっこう知らん顔しているのですね。
もしかしてこれがふつうの大人と子供のマナーで、私がおかしいのかな、と思ったほどです。
それでも、せめてその子を傷つけるような事は、目の前はもちろん、陰でも言わないようにしよう、と思っているのですが……。出来ているのかな。
結局私も、ずいぶん遠くに来てしまったということなのでしょうか。