父の土地は、県道から30メートルほど私道で入った畑の中にある。
北側も東側も畑であったが、先日、その両方とも土地の所有者が売却したようだ。
平穏な日々が一変した。
土地の境界線が、登記簿とは違っているとの指摘が有り、
父の土地が登記簿上の境界線をはみ出してブロックを積んだ居ることが分かった。
北側の土地を買った人から、はみ出している部分の土地を
買い取ってほしいとの相談があり、父もそうするとつもりだった。
だが、その話の内容に、私たちは唖然とした。
路線バスも廃止された過疎の田舎の町である。
地価の相場も大体わかっていたので、買い取り価格もこれくらいだろうとの
腹積もりもあったが、
提示された価格は、思っていた価格の4倍だった。
ネットで地価を知らべたり、地元の人に聞いたりしたが、
どう調べてみても、提示された金額はあまりにも高すぎる。
92歳の老人と、都会から帰って来た何も分からない娘だと
軽く見られたのだろうか。
最初はこの金額で、買い取ることも検討したが、
小さな三角や長細いバラバラの土地を、全部繋ぎ合わせても
8坪に足らない土地に、登記などの費用を加えると100万以上かかる。
兄弟で相談して、ブロックを登記上の境界線まで下げる事にした。
もう何十年も昔の事
この土地を母が進められて買った当時は、
そんなにきちんとしていなかったのだろうか。
その後買い足した土地も、境界線があやふやなままだったのだろうか。
あの頃の、田舎の人のおおらかさや、“お隣さんだから”の精神が、
今頃になって仇となるとは、お墓の中の母も思ってもいなかっただろう。
“子供たちに、せめてこの土地だけでも残してやりたい”と言う父の言葉は
ありがたいが、そんな年寄りを食い物にする事件はよく聞く。
田舎だから、田舎の人だから大丈夫!
そんな言葉は、今は通用しない時代になったのか。
今朝、母のお墓の掃除に行き、母の前で手を合わせた。
あなたの年老いた夫と、あなたの子供たちと、
あなたが買ったあの土地と、
あなたが建てたあの家を、どうか守ってください。
早朝の風は肌寒く、母の墓石も、心なしか冷たかった。