今朝は、午前4時少し回った頃に雨の音で目覚めました。
体内時計が、朝ゴフル時間になっているようです。
笹本稜平氏の本格的長編山岳小説、「還えるべき場所」を深い感動と共
に読みました。世の中には、直木賞などに縁がなくても、力のあるすばら
しい作家がいるものだと意を強くした次第です。
物語は、主人公の翔平が恋人の聖美とK2の頂上直下の最難関、屹立す
るヘッドウオールを登攀中、頭上のセラック(氷塔)が崩壊し、その反動で
二人とも宙吊りとなる。この危機的状況を脱するため、最愛のパートナー
は、自らロープを切断して墜死し、翔平を助ける。
それからの四年間、翔平は生きる屍と化して無為な日を送る。彼女は何
故、俺を助けるために自らロープを切断したのか? 解けない疑問と、生
きがいを失った翔平のもとに、昔の山仲間が訪れる。K2ブロードピークへ
の公募登山のスタフとして、参加しないかとの誘いだった。
この公募登山の参加者の中に、ベンチャーのオーナー社長が居た。
彼は、心臓疾患をかかえる身であったが、自ら同社の製品であるペース
メーカーを装着して参加する。製品の宣伝を兼ねていたが、次第に山そ
のものに魅せられて行く。
その彼が語る、山の魅力と人生訓がとても教訓的だ。曰く、
・ 役得でも人は動くが、魂の力で動く人間が一番強い。
・ 夢を見る力を失った人生は地獄だ。夢はこの世界の不条理を忘れさ
せてくれる。夢はこの世界が生きるに値するものだと信じさせてくれる。
そうやって自分を騙しおおせて死んでいけたら、それで本望だと思う。
・ 8,000メートルの高所登山という苛烈な行為は、人の心を丸裸にする。
友情や人間愛といった綺麗ごとだけでは語りつくせない、人間の本性
があらわになる。
・ わたしが求めている魂の糧とは、「いきることによってしか表現でき
ないなにか」そのものだ。それは無償の生という土壌からしか生まれ
ない、この世で最も美しい花かもしれない。
・ 自然は人間の敵ではない。征服すべき対象でもない。我々にできる
のは、その内懐で謙虚に遊ばせてもらうことだけだ。好き好んで空気
の薄い場所へ出かけていって、苦しいから酸素を吸わせてくれという
のは虫がよすぎるんじゃないだろうか。
等々、日頃おぼろげながら認識している事柄に対して、明確な言葉で
語っており、本書の最大の魅力となっています。一読をお勧めします。