心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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『大工の手から鑿を奪え』今昔

2012年08月01日 | 日記・エッセイ・コラム
100回目記念記事。前回【消防隊員が4名も亡くなる事故の続編。

通し柱の断面欠損。↓まだまだこれが現場の現実。

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12cm角柱に、同一レベルで4方差し。これだけの断面欠損、折損で安全なはずがない。


この断面欠損を指示してきたのは設計士でした。


施工者は設計図通りに作るのが現在の建築制度。なので施工者が設計者の指示した木組みを変更する事は設計図通りに作っていない事になってしまい、制度には大変な矛盾をかかえた側面があります。(何しろ発注者の機嫌を損ねると次の仕事を貰えません。)


しかしながら、設計士の図面で ”絶対に危険” と判断した場合(例えば【台持ち継ぎの跳ね出し使用】など)、私は自らの職責で提案して、変更の許可を貰ってきたのですが、この画像の件は抗えませんでした。


ちなみに、前回記事で紹介した【最も欠損量の少ない簡易木組み】の画像をもう一度

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伝統構法にしろ木組みにしろ、木造で最も大切なのはバランス。


どうも、木造建築業界人の多くは、【凸オス木】ばかりに関心が行ってしまうようです。
なぜ【凹メス木】の断面欠損に関心が行かないのか?


それはオス木が担っている荷重を理解出来ていないから。荷重処理で少しでも大きく掛かり代を取りたい為に、メス木を大量断面欠損させる。それに、金物が無かった頃の竿ほぞのイメージもあるのかも知れない。


太い大黒柱でこそ出来る木組みを、12cm角柱でも採用してしまう危険性。


大工の手から鑿を奪え』とは永沢毅一・田辺平学の両氏。
新聞記事文庫 災害及び災害予防(7-041):神戸新聞1927.3.15(昭和2) より。


設計士と大工に木組みの凸凹の教育が必要』とは、私の8年間のべ320棟もの構造材の墨付けと刻みで得た率直な感想。


大量生産型コマーシャリズムプランナーやデザイナー設計士ではなく、墨付けと刻みの出来ない大量生産型大工ではない、真の設計士と真の大工(伝統大工)が必要です。未来の為に。


地震や火災で犠牲者を出さない為には、情報の公開と教育、何より当事者の向上心と学習がとても大切です。

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