心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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広場の造形

2006年06月05日 | 日記・エッセイ・コラム

タイトル名は建築・都市計画関係の専門書から。カミロ・ジッテ(著)/大石敏雄(訳)/鹿島出版会(刊)SD選書175、オリジナルは《Der Städtebau nach seinen künstlerischen Grundsätzen》 by Camillo Sitte。

今から約22年程前、当時文化学院建築科の学生だった私が出会った本の中の一冊です。建築を専門的に学習し始めると、おそらくほぼ全ての人が直面するだろうと私自身感じているものの一つに、都市計画があります。まぁ、身近にいうと『街並み』ですね。

問答無用でヨーロッパに行って、街並みを御覧なさい!広場を御覧なさい!画像は皇帝ナポレオンが『世界一美しい広場』と賞賛したらしい、ヴェネツィアのサン・マルコ広場。ここは”公”(おおやけ)の空間。この塔に上って見た風景が前回ブログの写真です。

このところ、街並み関係を私はしたためているのですが、それは、一個の建築(もちろん、一戸の木造分譲住宅もそうなのです)の集積が街並みになるからです。現在の日本の街並みの景観は、おそらく、そう外国の街並みを見た方ではない私でさえも、はっきり申し上げて『醜悪』だと言い切れます。

『広場の造形』訳者の大石敏雄氏による、この本の『再版に寄せて』から。

【…それだけ現実がみじめで救いがたい段階に達していたからであろう。明治時代以来の歴史的必然とはいえ、建築と都市環境ほど和魂洋才のみじめな結果を最大限に示した分野はめずらしい。日本の都市の醜悪さは全国いたるところで、そのことを証明している。建築と都市環境について私たちは基準とするに足りるものをほとんどもっていないのである。…

…そしてヨーロッパの都市は何よりもつねに美しくあろうとした。明治時代以後日本の都市はつねに効率的であろうとした。そして、ついでに美しくあろうとした。ただそれは大部分誤解と錯覚の上に立って行われたのである。しかも、そのことが自覚できないほど私たちの感受性は荒廃しているのであろう。…】

美しい景観を創るためには、醜い景観を見た方が早いかな?こういうサイトがあります。

美しい景観を創る会】の、【悪い景観100景】。

このようなものを見ると、やっぱり日本は島国なのだなぁ、と。『人の振り見て我が身を直せ(人のふり見て我がふり直せ)』とはいいますけれども、他人や他国、他文化の良いものから良識のある刺激を受けて、現代日本の街並みをみんなで美しいものに直していきましょうよ。たとえ、それがアパートや分譲住宅であったとしても。

それとも、こんなに生きにくく、醜くなってしまった日本から『逃げるが勝ち』で、さっさと海外移住した方が幸せになれるかな?自殺者は年3万人以上、出生率は毎年下がり続け、平成17年は1・25ですものねぇ…

でも、だからこそ私は提案したいのです。華美な設備に重点予算配分するような平均寿命26年住宅を建てるのではなくて、伝統構法による真壁構造100年の耐久性を持つ住まいを。それは豪邸ではないのです。基本構造のことなのです。それは夫婦自分達だけのものではなくて、最も愛する子供達、孫達への、こころからの贈りものにもなるのですから。