岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

「天気予報」や「気象情報」は参考にするもの

2007-05-07 06:52:57 | Weblog
 (承前)
「天気予報」や「気象情報」は参考にするものであって、当てにするものではない。
 翌日の30日は朝から雪である。しかし気圧は少しずつ上昇している。
お昼の気象情報で面白いことに気づいた。寒気が低気圧と一緒に移動したのだ。しかも、日本の上空には今日、明日中寒気は入り込んで来ないのだ。等圧線は太平洋側では南北に走っているが、日本海側は北から西へと開いている。
「これはいいぞ。明日31日は午前中半ばから午後にかけては晴れるぞ。」と踏んだ。ところが、テレビ、ラジオで言う情報には「晴れ」の一言一句もなかった。
 年末年始登山というものの、その大半が年末登山だった。私も一家の主人たる以上お正月ぐらいは家にいなければなるまいとの思いが、年末年始登山の山行日を決めさせていた。年末は明日1日しかないのだ。明日、登山決行だ。「自分の天気予報」を信じる。これで何か自分の一歩を踏み出した気分になるから楽しい。
 何でもそうだが、山もまた然り、自分で「さいころ」を投げないかぎりは進めない。やっと惨めな自分から解放された。
 「決行する!」という言葉は、期待あり、不安あり、戦(おのの)きあり、まさに自分が自分を生きていることを実感させる。

 31日の朝。弘前では雪は降っていなかった。曇天である。自宅からタクシーで来て、スカイライン入り口の直線道路に沿って、6時過ぎに出発した。
 相変わらずの曇り空ではあるがここも雪は降っていない。
 7時近くになってようやく明るさが出てきた。圧雪の上に15cmほど昨晩降った雪がのっている。スキーのシールが効いて、軽快に高度と距離を稼いでいく。
 8時40分、スカイラインターミナルを出発。三つ目のリフト鉄塔のところで、スキーを外し輪かんに換えた。雪が固くてシ-ルが効かない。このガラガラ状のアイスバーンを滑降するのは危険だ。しかも単独行だ。
 視界は30mから40mだ。少しずつ雲が下方から薄くなってきている。時々登ってきたトレースやさらに下の山麓風景が目に入る。
 リフト終点に着く。15分の休みを取る。行動を始めてからほとんど口にものを入れていない。とにかく腹にいっぱい詰めることにする。

 頭上の雲間から青い空がのぞく。晴れの予兆か。視界が利き始める。ザックのサイドポケットに差し込んでいた「送り」(帰りの標識として使う赤い布付きの細竹)を握り絞めて出発だ。一歩一歩動くごとに視界がはっきりしてきた。
 これはいい調子だ。自分の予報に自信を持つが、単独行だ、慎重に行こう。
 薄い雲が西から東に流れる中、山頂はぼんやりとだがその姿を見せている。これはもう「晴れ」といえる状態だ。「送り」は必要ないかと思いながらも結局、山頂まで十本を立てた。雲は時々湧くものの、ホワイトアウトにはならなかった。        
 10時10分、山頂に到着。神社奥宮に、大学合格祈願奉書を納めなければいけない。今年大学入試センターテストを受ける生徒たちは十分な手応えを見せてくれていた。テストを前に今、彼等は苦しい。私も苦しい思いをしてここまで登ってきた。
 「神頼み」、これは許されることだろう。今日の登山には、大切な生徒たちの「合格祈願」を真摯にとり行なうことにも意味があったのだ。 
 東南に向く奥宮前面は吹き溜りにすっかり取り込まれ、大きく太い雪庇になっていた。東側から奥宮の「鏡」を目掛けて、ピッケルで穴を開けにかかった。30分も頑張ったがソフトボールに画鋲を刺したようなもので駄目だった。
 今度は横からだ。右側に回ってピッケルを刺し込むと、簡単にすうと入っていく。中が空洞なのだ。10数分後、奥宮の庇(ひさし)が見えた。腹ばいになって潜り込み、奉書を鏡があるとおぼしいところに置いた。這い出して、その前に立ち恭(うやうや)しく、「生徒たちの希望をかなえて下さい。」と言って合掌した。        
 風が弱く、晴れに近い薄曇り。いい天気になった大晦日の岩木山山頂。天気がいいとあらぬ余裕まで生まれるものらしい。頂上をあとにしたのは11時5分であった。送りの赤布を回収しながらの下降は結構時間がかかるし疲れるものだ。最後の10本目を回収して、リフト終点へと登りを急ぐ。
 送りの竹をまとめザックにつけながら山頂を見る。もはや完全に晴れだ。濃い青に純白の頂き。涙が出そうになる。
 スキーのデポ地点まで急ごう。12時35分のバスには乗りたい。デポ地点に11時45分に着く。輪かんを外し、すべてをパッキングし、スキーに履き換える。そして、ほぼ正午に下降を始めた。
 雪質上々、雪上車が圧雪したゲレンデは変化はないが速い。だから単純に楽で爽快だ。15分後、私はスカイライン入り口にいた。尻上りによくなった天気と同じように、私の心も晴ればれである。自分の下した予報が、見事に当たったのだからなおさら気持ちがいい。帰宅時間は午後1時10分。弘前は全くの快晴、気温も上昇して7℃、いい天気だ。
 一昨日の惨めな思いはきれいに消えていた。

 このような体験をしていたにも拘わらず、この5~6日に関しては「気象庁が発表した情報」を信じてしまい、それに従って山行を中止したのである。
 5日は完璧に晴れだった。6日は午後遅くから雨が降り出したが、登山口に15時に帰着するように行動すれば雨にあたることもなく「登山」は可能だったのだ。
 Jさんには何だか申し訳ないことをしてしまった気分だし、自力作善ならず、判断を他人任せにした自分がすごく恥ずかしく、惨めな気持ちでいっぱいである。

最新の画像もっと見る