岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

もう少し「クマ」のことに…草花に対しても

2007-05-30 05:25:39 | Weblog
     ・もう少し「クマ」のことに…草花に対しても
 
 ところで、ある年の11月1日から2日にかけてのことである。例年になく早い降雪があり、岩木山山麓の樹林帯にも10数センチほどの積雪を見た。
 その日、私は「ある登山道のぶな林の中で、積雪の上にクマの足跡」を見つけた。なんとなく空しく淋しかったそれまでのクマに対する思いが、充足されていくような気分になった。
 その年の春に、同じ岩木山で「駆除の名目」でクマが撃たれ、それを撃ったハンタ-が、逆にクマの本能的「最期の一撃」で殺されるという痛ましい事件が起きていた。これはハンタ-、熊どちらにしても悲しいことであった。
 射ち殺されたクマは大きかった。岩木山の主ではないだろうかとも思えた。これでひょっとすると、この岩木山にはクマはいなくなるかもしれないとも考えた。
 事実、それ以来この日まで、私はクマとその生存に関わる確実な情報に出会っていなかった。
 しかし、目の前にある足跡は、正真正銘、「クマ」のものだった。よかった。いたぞ、まだ岩木山にはクマがいるのだ。本当によかった。
 嬉しくなってきて、気持ちは大いに弾んだ。その日の行動は、いつにも増して軽快であった。
 私はこの事実を、写真には撮ったが一切公表しなかった。
前述した「その年の春の事件」があったので「岩木山で写したクマの足跡」写真にはそれなりにニュース性があり、新聞社に持っていけば「記事」として掲載されることは確実だと思ったが、止めた。
 なぜか、それを公表しようものなら、いくらぼかしても場所が特定されてしまうだろう。その後大雪で「足跡」が消されてしまえばいいのだが、そうでない場合は「クマ撃ち」ハンターたちが足跡を辿る。足跡は、雪が降り積もるか消えない限りは残るのである。
 たとえ、降雪直後に冬眠したとしても、その穴も発見がたやすく、クマは確実に捕らえられるであろう。
…などと考えたからである。春には「釣り人がクマを見た」という事実が「駆除行為」の原初的な契機であった。それが人を「クマ」の危険から守るため、安全のためという名目となり、クマは撃ち殺された。

 もし、私が「足跡」写真を公表したら「場所は多くの登山者が利用する登山道である。11月とはいえ、数は少ないが登山者が確実にいる。山頂まで行かず、途中まで登るという散策型の登山者も、この時季はまだいるのである。さらには、ナメコなどを採取する人もいる。」などと言い出して、「登山者やナメコ採りの安全確保のためにも、クマの駆除は必要である。」ということになりかねなかっただろう。
 実に何ということはない。自分たちに都合のいい「我田引水」的な、つまり津軽弁でいう「てめたさみず」である。そんなことを懸念して、私は後日、書いた文章でも場所を「ある登山道のぶな林」とだけして、はっきりさせなかったのである。
 雪降りの早い冬は、雪解けの早い春と同じように、まさにクマにとって受難の日々が続くのである。

 このような考え方や姿勢は、植物に対しても同じである。

「高山植物を盗掘や不法採取しないで欲しい。」と書くことに私は躇(とまど)いを持つ。なぜかというと、
 …盗掘や不法採取という事実を伝えるには具体性が必要である。それを欠くと説得力がなくなるから、出来るだけ厳密に日時や場所、それに花の種類などを詳細に書かねばならなくなる。
 そうすることは、盗掘や不法採取の予備軍に、まず「そこに行けばその花はあるのだ。」という「場所」と「花種」等の情報を与えることになる。そして、次に彼らの「すでに何者かが採取した、遅れてはならぬ。是非私も欲しい。」という欲望を煽(あお)ることにつながるのではないかという懸念を持つからだ。         

 ある年の5月5日に岩木山赤倉尾根の厳鬼稜線で、ミチノクコザクラの開花を確認した。その前年は6月半ばに同じ場所で確認していたから、例年より1ケ月半近く早いのである。
 それに「驚き、何かの異変、またはその予兆」ではないのかという戦(おのの)きから、河北新報に写真と一文を送ったが、場所はおおまかに「赤倉尾根」とだけにした。
 次の年は同じ月の22日に厳鬼山の肩付近で開花を確認し、さらに近くのダケカンバ林内でヒメイチゲの群落に出会った。その写真と一文は東奥日報社に送ったが、場所はただ単に「岩木山の風衝地(ふうしょうち)」(注)とした。
 詳しく書くと自己流「観賞家」のみならず「盗掘野郎」が我も我もとやって来るような気がしたからである。
 
 今年の早い春の訪れは確実に早い夏を連れて来る。大沢の残雪は7月を待たないで消えてしまうかも知れない。この早い季節は、花の開花を早めるだろう。
 このように早いペースで季節が推移する年には、驚くことに「ミヤマキンバイ」などは秋にも花をつけるのだ。
 素人の私が勝手に想像し、ミヤマキンバイを擬人化して言えば、「5月の上旬という余りの早春に花をつけたので、5ヶ月後の秋を次の年の春と勘違いしてしまったものらしい。」となる。
 今年は、その早さに比例して登山客も多くなり、その人数分ミチノクコザクラなどの不法採取による被害が増えるだろう。
注: 風衝地 高山の四季をとおして非常に風の強い場所

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