岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

サワフタギとは妙な名前、人とつながりの深い樹木 /「巨木の森」への道を歩く(6)

2010-07-01 05:02:46 | Weblog
 (今日の写真は、ハイノキ科ハイノキ属の落葉低木の「サワフタギ(沢蓋木)」の花だ。これは北海道、本州、四国、九州に分布する樹木である。
 「強い芳香」がすると図鑑にはあるし、中には10m離れていても、「サワフタギ」の咲いている場所が分かるとまで書いているものもある。)

◇◇ サワフタギとは妙な名前の、そして、人とつながりの深い樹木だ ◇◇

 私はまだ、その「芳香」とやらに「出会って」いない。これを撮影したのは2週間ほど前であるが、この時もその「いい香り」を嗅ぐことは出来なかった。
 「嗅ぐこと」の出来なかった理由は、「花の数」によるものではないかと考えている。
辺り一面敷き詰めるようにこの「花」で埋まっていればきっと「芳香」は漂ったのであろう。だが、そのような場所は、私が知る限りでは「岩木山」にはない。
 樹高は4m前後と言われているが、私が出会ったものの多くは1m程度であった。葉にはつやがなく、濃い緑色で縁には細い鋸歯があるのが特徴だ。
 花は5月から6月にかけて咲き、円錐花序に白い5弁の花を沢山つける。一旦、目につくとあすこにも、ここにもというように「目立つ」のだが、葉や他の木の葉陰に隠れて見えないこともある。近くによって見ると「雄しべ」が糸状になって、羽毛のように長く伸びるているのがよく分かる。
 この白い小さな花が秋になると藍色の小さなまん丸い実になるのだ。この実がまた綺麗なのだ。「藍色」と書いたが、それは概括的な色彩表現に過ぎない。大きさは「ムラサキシキブ」の実と大体同じだ。「」の実は紫系の赤みを帯びているが、こちらは、光沢のある「ライトブルー」が基調だ。まさに、「鮮やかなルリ色」となり輝く。それはそれは、美しいのである。
 「サワフタギ」の別名は、この果実の色具合から「ルリミノウシコロシ(瑠璃実の牛殺し)」である。その謂われは「実が瑠璃色で、牛の鼻輪を作るくらい木が硬く、その棒で頭を殴打すると死ぬ」ということである。可愛い花と実なのに「牛殺し」とはまた、酷い名前だ。
 もう1つの別名は、「ニシゴリ(錦織木)」である。これは読んで字のごとく、美しい「錦織の木」という意味である。
 「サワフタギ(沢蓋木)」と言う名前の由来は「沢に覆い被さるように生え茂ること」によるのだが、その名を負うものは、細くて狭い山の渓流を上から覆うように生える。また、「湯段」のミズバショウ沼周辺の湿原に小群落を形成したり、岳登山道の日当たりのいい明るいミズナラ林の湿った林床にもわずかではあるが生えている。
 「ハイノキ科」とはあまり聞き慣れない樹木だが、「灰の木」のことだ。草木染には、繊維と色素を結びつけ、色を定着、発色させる「媒染」という工程がある。この科の木灰は媒染剤として使われるのである。
 「媒染」には、アルミ媒染の「ミョウバン(明礬)」や鉄媒染の「オハグロ(お歯黒液)」、灰汁媒染の「アク(灰汁)」などの媒染剤を使用する。草木染は、媒染剤に含まれる金属の成分によって、同じ染料で染めても色が変わるのだそうだ。
 「ツバキ」や「サワフタギ」などの枝や葉を燃やした「灰」には、アルミ成分が多く含まれていて、古くから紫根染や茜染をする時に、灰汁媒染の媒染剤として使われてきたと言われている。)

◇◇「巨木の森」から岳登山道までの道を歩く、「キソチドリ」が咲き始めていていた…(6) ◇◇

(承前)…それは、正しくは「ラン科ツレサギソウ属」の「キソチドリ(木曽千鳥)」であった。「うす暗い樹林下、苔むすような林床の湿地」という生育場所から推しても、直ぐに名前が出てもいいはずなのだが、やはり「花が咲いていない」とその判別は難しいのである。
 しかも、「うす暗い樹林下、苔むすような林床の湿地」という場所に生えるものは、これだけではないのだ。いわゆる「トンボソウ」と呼ばれるものもこのような場所に主に生えるのである。
 かなり、沢の水音がはっきりと聞こえるようになっていた。すでに、小さな沢は1本渡っていた。「湯段沢」の本流は近い。しかも、なだらかな流れに近い滝、いわゆる「なめたき(滑滝)」のある本流が近いのである。
 足場は急な岩場になった。岩の表面は濡れている。滑る。転倒や滑落が怖い。手がかりや足がかりを指摘しながら、それに従って降りることを指示する。
 そのような緊張した時だというのに、だれかが「頭上」を指して、「この花は何ですか」と訊くのだ。訊かれたら答えるしかない。「それはリョウブです。まだ蕾ですよ」。
 今度は、ほぼ全員が「あれ何ですか」と対岸の樹木を指して言う。沢沿いでなければ見ることが出来ない樹木だ。
 これまで、何回か「平沢」や「毒蛇沢」沿いに観察歩行をしているが、まだこの「サワグルミ(沢胡桃)」には出会っていなかったようだ。
 ようやく、その「滑滝」の前に全員が降り立った。足下を流れる水は澄んでいた。滝の音は優しく私たちを包んだ。何という穏やかな流れだろう。荒々しく垂下する勇壮な滝を「雄滝」とすれば、ここの滝は「雌滝」だ。
 私は傍らの岩に腰を降ろして、そのままそこにいたいという衝動に駆られた。だが、「あっ、これはヤグルマソウ」とか「ズダヤクシュ」を指して「これは何ですか」というみんなの声は、私のわがままを許してはくれない。
 その優しい滝をバックにして、記念の集合写真を撮った。みんなもその場所がすごく気に入ったようだ。
 道脇の枝につけておいた赤布を回収しながら、先に進む。今度はジグザグ道の登りになった。(明日に続く)

字数の関係で、6月18日付東奥日報紙 「弥生跡地」観察会同行取材記事掲載(10) は明日掲載する。

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