岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

ミチノクコザクラ、無惨!

2007-06-06 04:56:58 | Weblog
   ※ミチノクコザクラ、無惨!
山野草ブ-ムとかで、写真に撮(と)る以外に高山植物を盗(と)って、自分の庭で育てることが流行(はや)っている。盗掘して、自分の庭で育てるのである。大半は育たないはずである。殺してしまうのが落ちだろう。

 もちろん、これは違法な行為である。踏みつけ行為などを含めて文化財保護法、森林法、自然公園法では「採取」は厳しく禁じられている。
 ところで、盗掘や採取は「個人が自分の庭で育てる」という目的以外に「売買」が目的でされていることもある。
 盗掘・採取・売買を生業(なりわい)としている者すらいるのだ。「盗掘・採取・売買」が生業として成り立つためには、それらを買い取る「山野草店」が存在している必要がある。
 そういうわけで、巷(ちまた)の山野草店には、彼らが持ち込んだ高山植物が並ぶのである。これは「盗品」だと知りながら、それを買い取り、「売りさばく」という不法な商売と一般的社会常識のモラルからすれば、基本的には同じことだ。
 規制のない「資本主義」は人々を「悪行」へと走らせる。しかし、この主義を代表する国会議員(規制のための法律をつくることが生業)の先生方は「自分たちの首をしめるような」法律(規制)は作ろうとはしない。

 だからだろう。「採取していけない」と法的に禁じていながら、「売買」してはいけないという法規制は、実に中途半端で不明確なのである。
 販売禁止は数年前に「種の保存法」として制定されたが、その対象がキタダケソウ、ハナシノブ、アツモリソウ、ホテイアツモリソウ、レブンアツモリソウの僅かに5種類に過ぎないのだ。
 岩木山の特産種「ミチノクコザクラ」は販売禁止の対象にはなっていない。だから、「種の保存法」に規定された「販売禁止」の効力が発揮されないのと等しい状況が、今も続いているのである。
 とにかく盗掘は、全国の高山植物が生えている地域の9割に達していると言われている。盗掘・採取は写真を撮ることによる踏みつけよりも数等悪いが、自分のことしか考えないという点では根は同じだ。

 高山の花は、「あなただけの花」ではない。高山植物は国民一人一人が共有する財産である。まさに氷河時代からその場所にひっそりと生き続けてきた生きた化石なのである。
限られた地域に、孤立化しながら独自の進化をとげてきたものを固有種と言う。
「ミチノクコザクラ」も固有種である。それ故に貴重であるが、生物学的にその命はこの上なく脆(もろ)いのである。脆いものには手厚い保護が当然必要である。
 
 大沢上部の雪渓の切れる辺りの鳥海斜面には、いつのまにか、はっきりとした道が出来てしまった。その斜面は大沢付近で一番早くミチノクコザクラが開花する場所なのである。百沢から辛い登りを続け、あえぎながら雪渓を登り切る。ほっとして目をあげるとそこには、安寿姫のかんざしと呼ばれる、濃いピンク色のミチノクコザクラが一面に咲いている。
 それはまさに登山して来た者を優しく迎える風情なのだ。思わず惹(ひ)かれて、その雪が消えたばかりの斜面に入る。その心情はよく解る。しかし、つつましい歓迎にはつつましい態度で応えるべきだ。もみくちゃにする必要はない。遠くから眺めることで、彼らの歓迎を受けようではないか。
 そばに寄るあなたの足下には、次に芽を出すミチノクコザクラが、ほかの草ぐさの芽がそっと頭を、顔を出している。あなたの歩みはそれらを踏みつけていく。
「あそこに咲いている」という話はすぐに伝わる。スカイラインを利用してきた者たちも「そこ」へと行く。その数は百沢から登って来る者の数ではあるまい。

 一人一人に道を造る意志はなくても、自(おの)ずから道は出来てしまい、火山灰地の表土は剥がれいつかは土石流の発端になるはずだ。そこを大勢の客が歩く。そして植物は殺され、地肌が露出して、そこには無意味な「道」が出来てしまった。残念ながら、もとに戻ることはもはやないだろう。
 時期を少し遅らせると、「登山道からすぐの、入る必要のない」大沢上部の両岸や種蒔苗代周辺で咲き出して、「登山道でも」会えるのに、それが待てないのである。
 また、時季を同じくしても、侵入せずに十分美しさを愛(め)でて堪能出来る場所が近いところにあるのである。
 しかし、人は「人の後ろに付き従うという易(やす)きにつく性(さが)には弱い」ものらしい。侵入しないでミチノクコザクラを愛でる場所を探して、見つけようとはなかなかしない。
 だから、私はこの無意味な「道」の侵入口に、「ミチノクコザクラはもう少し上の近いところにもあります。」という、その場の風情と景観を壊してしまいそうに「無粋」な立て札を設置しなければいけない、などと考えてしまうのである。

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