たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

宙組『神々の土地』_上田作品はあつい

2017年09月28日 18時56分17秒 | 宝塚
 先ほど集中して書類を作成し疲れてしまったので気分転換も兼ねて、一昨日の余韻が続いている宙組公演『神々の土地』のことを。

プログラムより、作・演出、上田久美子先生のことば。
「数年前に、”最後のロシア大公女”というタイトルの古本を買った。ロシア帝国最後の皇帝ニコライ二世の従姉妹マーリヤが、革命に翻弄された自らの半生を綴った自叙伝だ。

 マーリヤが数多の危険をくぐり抜けて二度と帰らぬ祖国を後にする最終章まで読んだとき、あああこんな壮絶な人生があるのかと、胸が震えた。ユーラシア大陸の大半を占める帝国を背負って生きる皇族たちの、目も眩むような富と栄光に包まれながらそれが破滅と表裏一体になっていることを生まれもって知っているような過酷かつ華麗な生き方はロマンチックで、とても想像をかき立てるものがあった。

 マーリヤはラスプーチン暗殺の首謀者の一人とされるドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ大公の実姉らしい。

 彼女の本の口絵には弟ドミトリーの肖像写真が載っていて、これが驚きのイケメンである。(略)なんというか、絵に描いたような王子ぶりにはちょっと笑ってしまうが、その人生をよく知ると、彼がただの華やかで放蕩なプリンスではなく、姉に共通する人間性と、ノブレス・オブリージュとでも言うべき高潔な精神を宿していたらしいことがわかってきた。国を憂い、過酷な運命に身を投じた貴公子、朝夏にぴったりだろうと思った。

 この憂国の青年を主人公に据えた今回の物語では、何を成し遂げるかではなく、どう生きるかが問題だ。成功や幸福よりも、己に恥じぬよう気高く生きることを描きたい。トップスターの人生にも通じるような、困難かつ華麗な人生を描きたい。そして皇族も農民も、全ての登場人物たちが舞台で生きた記憶のような作品にしたくて、ロシアの母なる大地に思いを馳せて脚本を書いた。

 宝塚の表層も刻一刻と変化してゆく。様々な力がロシアの地表の景色を変化させていったように。けれどもその地中の巌はいつまでも変わらない。宝塚がいつまでも、そこで懸命に生きた生徒たちのものであり続けますように。」

 全文ではありませんが引用してみました。『星逢一夜』、『金色の砂漠』についで、人間の葛藤と苦悩を描く上田先生の腕はお見事としたいいようがありません。上田作品には、弱くて愚かで危うさを秘めた人間へのあつくあたたかいまなざしがあり、人間の魂と魂がぶつかり合った時に発せられる熱量が観客の心を揺さぶり、しばらく頭から離れなくなります。『神々の土地』のラストシーン、どこかアジアの土地にたどり着いたドミトリーが、帰らぬ祖国への想いを馳せて歌いながら銀橋を歩いてはけていくところで終わりかと思いきや、幕が上がって舞台には皇族、貴族、活動家、民衆・・・登場人物たちがそろって歌うところでエンディング。みんなが心に残る演出はさすがたと思います。

 「第9場、アレクサンドル宮殿。ドミトリーとオリガの婚約披露パーテイ。マリラ(ニコライ二世の母)はドミトリーにしばし停戦だと握手を求める。オリガに促されてアレクサンドラも手を出そうとするが、ラスプーチンが現れてドミトリーの心の中には別の女性がいると言い放つ。ニコライがドミトリーに本心を尋ねた時、ペトログラード駅でイリナを狙った爆破事件があつたと将校らが駆け込んでくる。制止を振り切って駅へ向かおうとするドミトリー。そこヘイリナが現れる。ドミトリーは呆然としているイリナを抱きじめる…。」


 この場面、ドミトリーの心の中にはオルガではない、別の女性がいるとラスプーチンが言い放つと、オルガのことを愛しているか、オルガには愛してくれる人と結婚してほしいとドミトリーに問いかけるニコライ二世、ドミトリー本心を教えて、わたしを愛しているといって!と瞳が語るオルガ、ニコライ二世とオリガの前でイリナを愛しているとは言えず俯くドミトリー、それぞれの表情をカメラが鮮やかに映し出してくれて見事なカメラワークでした。カメラマンさん、グッドジョブ。中継カメラの腕も素晴らしかったライブビューイングでした。

 まだ書きたいことは尽きませんが今日はここらへんで。まだ書けていない作品があるのでぼちぼちとまた後日・・・。今日もオタクにしかわからない話を失礼しました。