
2012年『エリザベート』ルドルフの強さが次第に崩れていく様を描き、最終的には希望が残るような演技にしたい-古川雄大さん
(2012年『オモシィ・マグ』創刊号より)
「-井上さんは今公演のベースとなる、デヴィッド・ルヴォー演出のウィーン・ヴァージョンをご覧になっているそうですね。
2009年にウィーンで観ています。ルヴォー版のルドルフは、最初から心身ともに病んでいる感じで、酒場に行ってはお酒を飲み、娼婦たちと遊んだりと、自分の人生を憂いている印象を強く受けました。一方で革新的な新聞に反体制を謳った記事を書いたり、時代の大きな変わり目に、世の中をもっと良くしたいと思って行動する。でも結局失敗して、窮地に追い込まれてしまう。そういう意味では、アウトローに近いイメージもありますね。全体的にルヴォーさんは僕たちが日本初演でやったアプローチとはまったく違う方法で作品を成立させていて、観ていてすごく説得力がありました。
-12年前に『エリザベート』のルドルフ役でデビューされた井上さんは、今回の公演中に、この作品で描かれるルドルフと同じ33歳になられるとか?
不思議な縁を感じますよね。あらためてルドルフと向き合うと、『エリザベート』の頃や前回の『ルドルフ』の時よりも、結構、退廃的でダメな部分を持った人だというのが分かってきて。そのダメさ、人間としての弱さに、今はむしろ魅力を感じるんですよ。生まれながらに皇太子として、自分が果たすべき役目は理解しつつ、一個人としての満たされない想いと戦った。結局、何もなし得なかったけれど、彼は自分なりに人生をまっとうしたし、やりたいことを貫いたと僕は思うんです。
-運命や時代に翻弄されるという意味では、5月に『負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED』で演じられたパレスチナ人のテロリスト・マフムードもそうでしたね。久々にストレートプレイをやられて、いかがでしたか?
得るものがたくさんありました。ただパレスチナ・イスラエル問題という題材の難しさもあるのか、正直、幕が開いてからも自分では手応えがあまり感じられなくて、劇評で「抑制が利いた熱演」と書かれているのを見た時、抑制というからには、たんに自分がやりたいように演じている風には見えていないのだと思って、少しほっとしました。
-マフムードを演じたことで、ご自身の中で変化はありましたか。
すごくありますね。”抑制”というのも、その一つかなと思います。これまで僕は、自分の感情がどう動くかを、役を演じるための重要な価値基準にしていたんですね。だから役を自分に置き換えて考えることが多かったのですが、マフムードを演じて、それだけでは通用しないと気づいた。パレスチナ人のテロリストの心情というのは、状況があまりにも複雑なだけに、自分一人で想像したところで追いつかないんです。同時に、いろいろな役を演じる中で、感情をさらけ出すのも素敵だけど、それぞれの作品、役が必要とするものも伝えることができて初めて、お客様の前に出せる表現になるのだと思い始めた。今は、自分の感情にもう一つフィルターを通すというか、表現を届けるためのハードルをきちんとクリアしたものをお見せしたいという気持ちがあります。
-感じることが、ますます面白くなったと
そうですね。あとはさすがに、少し大人になったのかな・・・自分で言うのもどうかと思いますけど。
-「いろいろな役」と言えば、映画『宇宙兄弟』の真壁ケンジ役は、まさにピッタリでしたね。
よくそう言われるんですよ。うれしい反面『普段のままだね』と言われたりすると、僕の苦労は伝わらないんだなと。まあ、伝わらない方がいいんですけど、映画の撮影は結構大変でしたね。舞台と映画では、声の出し方からしてまったく違うので。でも番宣などで、主人公の兄弟を演じた小栗旬君や岡田将生君と話すと、みんなそれぞれに苦労したと言うんです。それはきっと森義隆監督も同じで、僕と同世代で大きな映画を初めて撮るにあたっては、ものすごいプレッシャーの中で戦っていらしたんだなと。小栗君だってそう。ミュージカルの世界にいると帝劇の主演とか、一人でプレッシャーと戦っているような気がしたりするけれど、違う場所にはもっと大きなプレッシャーを感じている人がいる。自分はまだまだ甘いなと思えるので、違う世界に行くのは大事だし、必要なんですね。
-最後に、あらためてルドルフという役の魅力とは?
ルヴォーの言葉を借りれば、すべての役の要素をルドルフは持っているんですよね。僕も『ハムレット』と『ロミオとジュリエット』を足して2で割ったような役だなと感じます。背負っているものがあまりに大きくて、常に悩みの中にいるし、少年のように純粋でまっすぐなところもある。同時にこの作品の中にも「こんな世の中にしたい、みんなで立ち上がろう」と自分の想いを伝える歌があるように、素晴らしいリーダーとしての一面もある。そして、その根底には愛して欲しいという、満たされない思いがずっと貫かれている。本当にいろいろな顔を持っているのがルドルフの面白さですね。今回は演出に脚本、歌詞もすべて変わるので、再演ではなく新作だと思っています。必死に生きた人間の姿、その結果のようなものを演じてみたいですね。
『ルドルフ・ザ・ラスト・キス』
2012年7月5日~29日帝国劇場
原作:フレデリック・モートン著「A Nervous Splendor」
「ルドルフ・ザ・ラスト・キス」(集英社文庫刊)
音楽:フランク・ワイルドホーン
脚本・歌詞:ジャック・マーフィ
追加歌詞:ナン・ナイトン
脚色:フランク・ワイルドホーン&フィービー・ホワン
原案:フランク・ワイルドホーン&スティーブン・キューデン
演出:デヴィッド・ルヴォー
出演:井上芳雄 和音美桜 一路真輝 村井國夫他」