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●映画『BOX 袴田事件 命とは』で熊本典道さん役…《「法廷では裁判官自身も裁かれている」。自分で自分を裁こうとした日々…》

2021年01月14日 00時00分43秒 | Weblog

(2020年12月13日[日])
西日本新聞のコラム【春秋/袴田事件の元裁判官・熊本典道さん死去】(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/670907/)。

 《▼2010年公開の映画「BOX 袴田事件 命とは」で熊本さん役は言う。「法廷では裁判官自身も裁かれている」。自分で自分を裁こうとした日々を想像する》。

   『●『美談の男』読了
   『●袴田事件: いい加減に誤まりを認めるべき
   『●作られた袴田冤罪事件、理不尽極まる漸くの初の証拠開示
   『●袴田事件、48年間のそれぞれの苦難……
      袴田巌さんと秀子さん、そして、熊本典道さん
   『●袴田事件: 静岡地裁は「疑わしきは被告人の利益に」を
   『●袴田事件、そして死刑執行後の『飯塚事件』再審:
                   司法の良心を示せるか?
   『●袴田事件・釈放!: 「捜査機関が重要な証拠を捏造した疑い」
               「拘置の続行は耐え難いほど正義に反する」

   『●映画「ザ・ハリケーン」と袴田事件:「冤罪事件を「絶対に忘れるな」」
    《ルビン・カーターさんが二十日亡くなった。七十六歳…
     デンゼル・ワシントン主演の映画「ザ・ハリケーン」のモデル
     といえば、思い出すだろうか▼一九六六年六月、
     米ニュージャージー州のバーで三人が殺された。現場近くを車で
     走っていたカーターさんが逮捕された。無実を訴えたが、
     有罪の評決が下り、八五年に釈放されるまで十九年間服役した。
     冤罪事件の背景には人種差別もあった袴田事件も同じ年同じ六月
     だった。同じ元ボクサー。獄中にあった袴田巌さん(78)は
     境遇の似たカーターさんが釈放された時、手紙を書いたという。
     「万歳万歳と叫びたい」。カーターさんの返事は
     「決してあきらめてはならない」だった》

   『●袴田事件…検察=《狼は本音を明かす。
      「おまえがどんな言い訳をしても食べないわけにはいかないのだ」》
    《狼は本音を明かす。「おまえがどんな言い訳をしても食べないわけには
     いかないのだ」▼袴田さんの無実を信じる人にとってはどうあっても狼に
     許されぬイソップ寓話(ぐうわ)の羊を思い出すかもしれない…
     検察と裁判所を納得させる羊の反論の旅はなおも続くのか
     ▼事件から五十二年長すぎる旅である

   『●《袴田巌さんは、いまも、死刑囚のまま》だ…
       政権や検察に忖度した東京高裁、そして、絶望的な最「低」裁
    「NTVの【NNNドキュメント’18我、生還す -神となった死刑囚・
     袴田巖の52年-】…《今年6月、東京高裁が再審開始を取り消した
     「袴田事件」。前代未聞の釈放から4年半、袴田巖さんは死刑囚のまま
     姉と二人故郷浜松で暮らす》」
    「三権分立からほど遠く、法治国家として公正に法に照らした
     「司法判断」ができず、アベ様ら政権に忖度した「政治判断」乱発な、
     ニッポン国の最「低」裁に何を期待できようか…。
     《巌さんは、いまも、死刑囚のまま》だ」

   『●冤罪は晴れず…「自白を偏重する捜査の危うさ…
       証拠開示の在り方…検察が常に抗告する姿勢の問題」
   『●袴田秀子さん《ボクシングに対する偏見…
      チンピラだっていうイメージ…その印象以外に何の証拠もなかった》
   『●山口正紀さん《冤罪…だれより責任の重いのが、無実の訴えに
           耳を貸さず、でっち上げを追認した裁判官だろう》
    「週刊朝日の記事【袴田事件で「捜査機関が証拠を”捏造”」 
     弁護団が新証拠の補充書を最高裁に提出 】」
    《静岡地裁の再審開始決定を取り消した東京高裁決定から、
     1年余りが経過した。死刑が確定した元プロボクサーの
     袴田巌さん(83)は最高裁に特別抗告中だが、弁護団はこのほど
     “新証拠”を提出した》

   『●《死刑を忠実に実行している》のはニッポンだけ…
       飯塚事件でも、《十三人の死刑執行》でも揺るがず…
   『●(ジョー・オダネルさん)「焼き場に立つ少年」は
     《鼻には詰め物…出血しやすい状態…なんらかの形で被爆した可能性》
    「関連して…青木理さん。ローマ法王来日に関して、もう一つの
     注目点は「死刑制度」。明日のミサに袴田巌さんを呼ばれている
     らしい。事実上の廃止も含めて国連加盟国の7割…死刑廃止が
     世界の潮流。存置派は、先進国でアメリカの一部の州とニッポンのみ。
     昨年も13人のオウム幹部を死刑…。死刑制度を考えるきっかけに」

   『● CD『Free Hakamada』の《ジャケットには、元プロボクサーの
          袴田さんが…名誉チャンピオンベルトを持った写真》
   『●《「袴田事件」で死刑判決を書きながら、後に「無罪の心証だった」
        と明かした元裁判官熊本典道さん》がお亡くなりになりました
    「袴田巌さんと秀子さん、そして、熊本典道さん」

 《いまも、死刑囚のまま》な袴田巌さんと《「袴田事件」で死刑判決を書きながら、後に「無罪の心証だった」と明かした元裁判官熊本典道さん》、そして、袴田秀子さんと。

 免田栄さんについて、清水潔さんの4つのつぶやき:

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https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1335954617075519489

清水 潔@NOSUKE0607

確定死刑囚から一転し無罪となった免田栄さん。83年の釈放直後から何度か取材をさせてもらった。免田さんは逮捕時に木の伐採の仕事をしていた。その現場に2人で行ってみたことがある。すると彼が伐採した後に植林された杉が天に向かって延びていた。それは獄中にいた34年の間に育った大木だ。(続)

午後11:29 2020年12月7日
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https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1335954909091360769

清水 潔@NOSUKE0607

その木を見上げた免田さんは深いため息をついた。自身の失われた人生を見るような表情で。私は何回もカメラのシャッターを切った。34年の獄中生活で、その間いつ死刑が執行されるかわからないという恐怖。結果から見れば、それは国家の手による殺人行為になるところだったのだ。(続)

午後11:30 2020年12月7日
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https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1335955382737354752

清水 潔@NOSUKE0607

一方、死刑が確定したのになぜ34年もの長い間それを執行しなかったのか? それは検事が死刑執行起案書を書かなかったからだろう。無実を訴え、何度も再審請求を続ける人、証拠は脆弱。それを知っていた検事たちは執行が恐ろしかったのではないか。そんな免田さんを当局はそのまま放置したのだ。(続)

午後11:32 2020年12月7日
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https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1335956580056006656

清水 潔@NOSUKE0607

免田さんは、釈放されてから亡くなるまで37年間生きた。34年の拘置所生活より少しだけ長く娑婆で生きることができた。それは氏にとってせめてもの救いになっただろうか。国家による殺人を自力でひっくり返し、天寿を全うした免田さんの冥福を祈りたいと思う。

午後11:37 2020年12月7日
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 西日本新聞の記事【免田栄さん死去、95歳 死刑囚で初の再審無罪】(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/670852/)によると、《1948年に熊本県人吉市で一家4人が殺傷された「免田事件」で死刑が確定し、死刑囚として初めて再審無罪となった免田栄(めんだ・さかえ)さんが5日午前、老衰のため福岡県大牟田市の高齢者施設で死去した。95歳。熊本県免田町(現あさぎり町)出身》…免田さんは、2020年12月5日にお亡くなりになったそうだ。
 《それを知っていた検事たちは執行が恐ろしかったのではないか。そんな免田さんを当局はそのまま放置したのだ》《免田さんは、釈放されてから亡くなるまで37年間生きた。34年の拘置所生活より少しだけ長く娑婆で生きることができた》《国家による殺人を自力でひっくり返し、天寿を全うした免田さん》。
 一方、急ぐ様に死刑にされた飯塚事件久間三千年(くまみちとし)さん。袴田巌さんは《いまも、死刑囚のまま》だ…。

   『●飯塚事件の闇…2008年10月16日足利事件の
       再鑑定で死刑停止されるべきが、10月28日に死刑執行
   『●NNNドキュメント’13: 
      『死刑執行は正しかったのか 飯塚事件 “切りとられた証拠”』
   『●「飯塚事件」「福岡事件」「大崎事件」
       ……に係わる弁護士たちで『九州再審弁護連絡会』発足

   『●山口正紀さん《冤罪…だれより責任の重いのが、無実の訴えに
            耳を貸さず、でっち上げを追認した裁判官だろう》
   『●憲法《37条1項が保障する『公平な裁判所による裁判を受ける権利』が
       侵害され》ている…飯塚事件、大崎事件の裁判に「公正らしさ」は?
   『●《首相の演説にやじを飛ばしただけで、警官に排除される時代…
              こんな「表現の不自由」な社会を誰が望んだ》?

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https://www.nishinippon.co.jp/item/n/670907/

春秋
袴田事件の元裁判官・熊本典道さん死去
2020/12/6 10:40

 元裁判官の熊本典道さんが先月病気で死去した。83歳だった。2007年にメディアに大きく取り上げられた

▼1968年に主任裁判官として書いた「袴田事件」(静岡県、一家4人殺害)の一審死刑判決について「無罪の心証を持ち判決文を準備したが、合議により」と告白した時のことだ。最高裁は評議の秘密をと批判した。世論は「裁判官の良心」と拍手した

▼佐賀県出身、九州大卒。<司法試験トップ合格。判決の翌年に自責の念から退官し、民事の弁護士になって年収1億円の年もあった>が、過去の重さからか<酒におぼれ、家族を失い…>(尾形誠規著「袴田事件を裁いた男」朝日文庫)。自殺も考えた時期を経て告白に至る

▼2010年公開の映画「BOX 袴田事件 命とは」で熊本さん役は言う。「法廷では裁判官自身も裁かれている」。自分で自分を裁こうとした日々を想像する

▼告白後は袴田巌さん(1980年に死刑判決確定)の再審請求を支援してきた。14年に再審開始決定が出され、釈放された袴田さんと18年に面会を果たした。福岡市内で病床にあった元裁判官は、じっと見つめ、「巌…」と声を絞り出した

▼その数カ月後に再審開始決定は高裁で取り消され、今は最高裁に特別抗告中。熊本さんは亡くなる1週間前に袴田さんの姉秀子さんの見舞いを受けている。「しっかりしなきゃ」と言われた。最期まで一緒に闘った
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●死刑制度存置: 袴田事件にどう責任?、そして、飯塚事件の絶望感

2014年05月06日 00時00分31秒 | Weblog


マガジン9』(http://www.magazine9.jp/)に出ていた小石勝朗氏による記事【法浪記第26回 改めて、袴田事件の再審開始決定を受けてなすべきこと】(http://www.magazine9.jp/article/hourouki/12282/)。

   『●袴田事件、そして死刑執行後の『飯塚事件』再審:
                         司法の良心を示せるか?
   『●袴田事件・釈放!: 「捜査機関が重要な証拠を捏造した疑い」
                 「拘置の続行は耐え難いほど正義に反する」
   『●袴田事件、48年間のそれぞれの苦難・・・・・・
               袴田巌さんと秀子さん、そして、熊本典道さん
   『●袴田冤罪事件を機に死刑制度の再考ができない我国
   『●「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」:
              今ごろそれを裁判所に訴えねばならないとは・・・
   『●鎌田慧さんインタビュー: 「一人の人間として勇気をふるった名判決」
   『●映画「ザ・ハリケーン」と袴田事件: 
                        「冤罪事件を「絶対に忘れるな」」

 「袴田さんが即日釈放になるとは、弁護団も予想していなかった。袴田さんが無実であり、再審開始が必ずや認められると信じていた人たちでさえ、そうだった。これまで捜査機関や裁判所に、ことごとく主張を跳ね返されてきただけに、なおさらだった。だから、これが現実の出来事なのかどうか、いまだに実感が湧かないのだと思う。解放を心から喜びたい」。

 裁判で「捜査機関による証拠捏造の疑い」が指摘された袴田事件。警察・検察はまだ悪あがきを続けるようだ。
 「東京高裁の大島隆明判長は弁護団に「検察、弁護団双方の意見を聞きながら、速やかに審理を進める」と答えたという」 大島隆明裁判官は、

   『
●『冤罪File(2009年12月号)』読了(2/2)
    「池添徳明氏「横浜事件再審で免訴 葛飾ビラ配布に無罪 
     大島隆明裁判長ってどんな人?」(pp.112-119)。良識派の珍しい、
     貴重な裁判官という評価。「「疑わしきは被告人の利益に」という
     刑事裁判の基本原則を、忠実に実践しているように見える」
     数少ない裁判官」 

という方。 

 当ブログでも指摘したし、この記事でも指摘されている様に・・・・・・「政府の世論調査(2009年)では85.6%が「場合によっては死刑もやむを得ない」と答えていることは承知のうえで、では袴田さんのような事態が現実に起きていることに対する死刑存置論者の意見を聞きたい」。全く同感だ。

 「それにしても国は、釈放すればあとは姉や弁護団、支援者に任せて知らんふりで良いのか。袴田さんの体調をここまで悪化させた原因は、すべて国家機関や警察にあるのだから、無罪確定前とはいえ可能な限りの支援策を講じるべきだろう。1人の人間の人生をめちゃめちゃにした側の、最低限の対応だと思う」・・・・・・袴田巌さんの「人生をめちゃめちゃにした」警察や検察、裁判官、国家は「最低限の対応」さえ出来ていない。「場合によっては死刑もやむを得ない」とする「85.6%」の人々は、冤罪で死刑にされた久間三千年さん、「飯塚事件」をどう考えているのだろうか? 警察や検察、裁判官、国家の威信にかけて「飯塚事件」をもみ消し冤罪は決して晴れることはないのだろうか・・・・・・、大変に悔しいけれども絶望的じゃないかな・・・・・・。何とかならないものか! 「85.6%」の死刑制度存置派がいるわが国ではますます絶望的か・・・・・・。

 最後に、袴田巌さんについての『BOX袴田事件 命とは』(http://blog.goo.ne.jp/activated-sludge/e/992be37bb74661549a9c7343d2143341http://blog.goo.ne.jp/activated-sludge/e/9f1d0b1a666a16759c240cbeccd37e90) を漸く見た。フィクションとノンフィクションが混ざってはいるが、本当に恐ろしい中身。映画が出来て約4年。高橋伴明監督の大力作。

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http://www.magazine9.jp/article/hourouki/12282/

小石勝朗 「法浪記」第26回 
改めて、袴田事件の再審開始決定を受けてなすべきこと
2014年4月16日up

 目の前にいるのが本当にご本人なのか、にわかには信じられない気持ちだった。死刑判決が確定しながら身柄拘束48年目にして自由の身になった元プロボクサー・袴田巖さん(78歳)が、再審開始決定~即日釈放から18日ぶりに公の場に姿を見せた。4月14日に東京で開かれた日本弁護士連合会(日弁連)主催の報告集会である。

 袴田さんが即日釈放になるとは、弁護団も予想していなかった。袴田さんが無実であり、再審開始が必ずや認められると信じていた人たちでさえ、そうだった。これまで捜査機関や裁判所に、ことごとく主張を跳ね返されてきただけに、なおさらだった。だから、これが現実の出来事なのかどうか、いまだに実感が湧かないのだと思う。解放を心から喜びたい

 袴田さんの様子は後述するとして、この集会には受けとめるべき材料が多かった。

 率直に記すと集会の会場では、マスコミへのPRに過剰なまでに注力する主催者の姿勢と、マスコミの厚顔無恥な取材態度がどうにも胡散臭く感じられて、「誰に向けた集会なの?」とやや白ける部分もあった。ただ、日弁連は、袴田さんが最初の再審請求をした直後の1981年から継続して支援してきただけに、これから取り組むべきことについてもポイントをきちんと押さえていた。

 静岡地方裁判所(村山浩昭裁判長)の再審開始決定の内容については、前回の拙稿を読んでいただくとして、袴田さんの様子に大騒ぎしているだけのマスコミが報じない部分を報告しておきたい。

 最初の関心事は、再審請求の今後の動向だろう。ご存じの通り、検察は静岡地裁の再審開始決定を不服として、東京高等裁判所に即時抗告したからだ。

 袴田さん弁護団の小川秀世事務局長は強気だった。根拠に挙げたのは、再審開始決定が指摘した「捜査機関による証拠捏造の疑い」である。警察が捏造なんてするはずはないという「偏見」を打ち破り、事実と証拠を素直な目で見ることに加えて、捜査機関の行動を全体的に判断することによって導き出された「必然の結果」だからこそ、「決して動かないものになった」と評価した。

 小川弁護士によると、袴田さんの犯行着衣とされてきた「5点の衣類」には、そもそも犯行着衣である証拠は何もなかったそうだ。犯行現場の近くで発見されたことや血が付いていること、損傷があることなどだけで、犯行着衣と断定されてしまった。それが、再審請求審で実施された血痕のDNA鑑定で完全に否定されたわけで、高裁の即時抗告審に向けても「盤石だ」と、やや興奮気味に語っていた。

 一橋大大学院の葛野尋之教授(刑事法)は、やはり検察の即時抗告に批判的な立場から、もう少し冷静に見通しを分析していた。

 葛野教授によると、高裁の審理では少なくとも、5点の衣類に付着した血痕のDNA型が「袴田さんと一致する」という結果が示されない限り、5点の衣類が袴田さんの犯行着衣とした死刑判決の認定には合理的な疑いが残る。しかし現実的には、高裁でDNAの再鑑定をしたとしても、一致するという結果が得られる可能性は限りなく低い。だから、高裁は「再鑑定を実施しても意味がない」と判断するのではないか、と見立てていた。

 袴田さんの弁護団は3月31日、検察の即時抗告に対して「きわめて不当」との声明を出している。地裁の重い判断を無視して、いたずらに再審開始決定の確定を先延ばしさせるうえ、袴田さんに無用の負担を負わせることを理由に挙げ、「国家機関の不正義により作り出してしまった現状を全く顧みようとしていない」と強く批判した。4月10日には東京高裁に、検察の即時抗告を棄却するよう求める意見書を出している。

 袴田さんの年齢や体調を考えた時、一刻も早く再審を開始し、無罪判決を確定させるべきだろう。東京高裁の大島隆明判長は弁護団に「検察、弁護団双方の意見を聞きながら、速やかに審理を進める」と答えたという。訴訟指揮に期待したい。

 もう一つの大きなテーマは、冤罪を生んだ原因を究明し、同じ被害者を絶対に出さないための対策をしっかり取ることだ。前回の拙稿でも触れたが、「袴田さんが釈放されて良かった」で終わりにしてはいけない制度の改革が不可避である。

 集会で葛野教授は、取り調べの全過程の可視化、検察が持つ証拠の全面開示、DNA再鑑定の機会保障を求めていた。西嶋勝彦・弁護団長も、取り調べの全面可視化、証拠の全面開示、冤罪の原因を究明する公的な第三者機関の設置などを冤罪防止策として挙げた。

 袴田さんは逮捕直後、犯行を否認していたがゆえに、猛暑の中、1日平均12時間、日によっては午前2時まで16時間を超える長時間の取り調べを受けた。取調室に持ち込まれた便器で用を足すように指示されたり、暴行されたりもしたらしい。その結果、逮捕から20日目で「嘘の自白」に追い込まれる。こうした経緯を振り返れば、取り調べの可視化は冤罪の防止に欠かせまい

 今回の再審請求審では、静岡地裁の訴訟指揮で検察が持つ約600点の証拠が新たに開示され、再審開始決定の支えになった。例えば、5点の衣類のズボンはタグに記された「B」をもとに、もともと袴田さんがはけた大きなサイズが味噌に漬かって縮んだとされてきたが、実は「B」は色を示しており、ズボンはY体だったことが明らかになった。検察が自分たちに都合の悪い証拠を出さなくても良い仕組みになっているからこそ、袴田さんの冤罪を証明するのにこれほどの時間がかかったと言える。

 また、袴田さんを有罪にした証拠が否定された最大の要因が48年前の血痕のDNA鑑定だったことを振り返れば、どんなに昔の事件であっても後に再鑑定ができるように、試料の保存・適正管理をする仕組みも必要だろう。袴田事件の再審開始決定が出た4日後に、死刑執行後の再審請求が棄却された「飯塚事件」では、試料が使い切られていてDNA再鑑定ができなくなっている

 葛野、西嶋両氏は「死刑制度の再考」にも触れていた。「死刑事件でも捜査や裁判の誤りが現実にある」ことが明らかになってしまったわけだから、誤判が取り返しのつかないことになる死刑のあり方について、改めて議論する機会にするべきだろう。政府の世論調査(2009年)では85.6%が「場合によっては死刑もやむを得ない」と答えていることは承知のうえで、では袴田さんのような事態が現実に起きていることに対する死刑存置論者の意見を聞きたい。

 最後に、袴田さん本人の様子に触れておこう。

 姉の秀子さん(81歳)とともに会場に入って来る時に、客席に向かってVサイン。やや猫背で、飄々と歩いて演壇へ。イスに座ってからも右手でVサインを繰り返し、やがて両手でVを掲げた。穏やかだが、フラッシュの放射を浴びても表情は変わらない。

 秀子さんの挨拶の途中でマイクを握ると、「西郷隆盛」「改革」「完全平和」「権力一本化」といった単語を織り交ぜて語るが、脈絡はない。秀子さんによると、「ピントが狂ったことを言うが、まともな時もある」そうだ。逮捕から48年近くに及ぶ身柄拘束による拘禁反応と認知症の影響である。秀子さんは「何年かかっても、せめて半分くらいは(もとの)自分に戻ってほしい」と願っていた。ぜひそうなってほしい。

 解放されてから袴田さんと面会した支援者が、集会の前に記者会見した。

 一緒に散歩をした日本プロボクシング協会事務局長の新田渉世さんは「ボクシングの会話がかみ合わずに、ちょっと残念でした」と話した。袴田さんは常に持ち歩いている紙袋にちり紙の束を入れていて、いろいろな物をきれいに拭くほか、念入りに手を洗ったり歯磨きをしたりしていたそうだ。病棟の外出届にはしっかりと自分の名前を書いていた。

 長年の支援者で3回面会した寺澤暢紘さんは「今も自分の世界に閉じこもったまま、まだ自由を実感していない」と印象を語り、その原因となった冤罪の問題性を強調した。「のんびりと自分のしたいことができる時間を確保でき、必要な時に支えてくれる人のいる場所で過ごしてほしい」と望む。現在は東京都内の病院にいるが、郷里の静岡県への転院を検討しているようだ。

 袴田さんの弁護団は、当面の生活費や医療費に充てるため「袴田救済ファンド」と名づけた基金を設け、募金を呼びかけている。無罪が確定すれば刑事補償を受けられるが、それまでには時間がかかりそうだからだ。

 それにしても国は、釈放すればあとは姉や弁護団、支援者に任せて知らんふりで良いのか。袴田さんの体調をここまで悪化させた原因は、すべて国家機関や警察にあるのだから、無罪確定前とはいえ可能な限りの支援策を講じるべきだろう。1人の人間の人生をめちゃめちゃにした側の、最低限の対応だと思う。

   (客席に向かってVサインをする袴田巖さん。右隣は姉の秀子さん。)
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●『冤罪File(No.10)』読了

2010年11月20日 00時28分16秒 | Weblog

冤罪File』(冤罪ファイル)(No.10)、11月に読了。2010年6月号。

 「冤罪で苦しむ人たちを支えたい」(pp.2-5)。足利事件の菅家さん。三人の裁判官が謝罪。集う冤罪事件の関係者の皆さん。「布川事件」の桜井昌司・杉山卓男さん、「東電OL殺人事件」、「富山・氷見事件」の柳原浩さん、「仙台・北稜クリニック事件」の守大助さんのご家族、「狭山事件」の石川一雄さん、「免田事件」の免田栄さん、「袴田事件」の袴田巌さんの姉・秀子さん、「名張毒ぶどう酒事件」の奥西勝さんの支援者の皆さん。

 映画『BOX 袴田事件 命とは』の高橋伴明監督インタビュー(pp.8-19)。裁判員制度熊本典道さんの苦しみ。「マスコミが作り上げた冤罪事件も少なくないと思います」。

 裁判員制度は冤罪を見抜けるか? 「・・・絶対に無実の者を罰しないこと。刑事裁判の目的は「無罪の発見」にあるといわれる。/・・・さまざまな原則が定められている。裁判官の「予断排除の原則」、被疑者・被告人の「黙秘権」、有罪の立証があるまで無罪と推定される「無罪推定」、起訴された犯罪事実の存否が不明な場合の「疑わしきは罰せず」・・・」(p.31)。

 三宅勝久さん、「知的障害者は陥れられたのか?/「東金女児殺害事件」に浮かぶでっち上げ疑惑」(pp.33-45)。指紋の不一致や、濡れた手でレジ袋に指紋が残るのかなど、数々の疑問。また、取り調べメモの破棄などの「出したいものだけ出す」検察。

 柳原三佳氏、「「被害者」が「犯罪者」に!? 白バイ冤罪① 最新インタビュー」(pp.46-59)。でっち上げで禁錮1年4カ月の実刑判決を終えた片岡晴彦さん。最初から最後までずっと独居房というイジメ。

 池添徳明氏、「「横浜事件」刑事補償決定で実質無罪/「やっと勝ち取った」遺族の思い交錯」(pp.80-81)。

 三井環[元大阪高検公安部長]さん、「〝悪徳検事〟が検察の実態を完全告発!/情報リークと冤罪のメカニズム」(pp.88-100)。

 粟野仁雄氏、「一体、どういう捜査をしたらこんなことになるのか?/厚生省 村木元局長冤罪事件」(pp.101-109)。

 池添徳明氏、「中川博之裁判長ってどんな人?」(pp.112-119)。多くがヒラメ裁判長の中、「中川さんが無罪判決を書くと目立つというそのことが、実は問題なんです」。「大阪地裁の裁判長は全体的に常識的」。一方、「大阪高裁はひどい裁判官がほとんどで壊滅的」。また、大阪の「検察官の立証活動に最近は荒っぽさが目立つ」。
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●冤罪事件映画化: 袴田事件

2010年04月09日 07時54分49秒 | Weblog

袴田事件映画化の記事が出ていました。こちらもひどい冤罪事件です。「静岡地裁の熊本典道元判事」の件でもクローズアップされました。

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【http://www.zakzak.co.jp/entertainment/

      ent-news/news/20100405/
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【業界インサイド】映画化された袴田事件の意外な支援者  2010.04.05

 足利事件の「再審無罪」で改めて冤罪事件への関心が高まるなか、1966(昭和41)年6月30日未明に起きた静岡県清水市の一家4人殺害事件の「犯人無罪」を主張する映画が完成、5月下旬からユーロスペース(東京・渋谷)などで劇場公開される。
 犯人は元プロボクサーの袴田巌。静岡県警は、殺害された味噌製造会社専務一家に関わりがある従業員の袴田に、当初から目をつけて逮捕、拘留期限切れ寸前、自白に追い込んだ。公判で袴田は無罪を主張するものの地裁判決は死刑。以来、袴田は42年の長きにわたり死刑囚として獄につながれている。
 「BOX袴田事件 命とは」と、題されたこの映画の特異な点は、袴田を裁いた静岡地裁の熊本典道元判事が「無罪」を主張、映画製作に全面協力していることだ。
 「禅ZEN」の高橋伴明監督(60)がメガホンを取り、熊本役は中堅俳優として存在感を増す萩原聖人(38)、袴田役は若手注目株の新井浩文(31)。訴えているのは冤罪だが、物語は熊本の苦悩を描く形で進行する。

 「俺は殺人犯と一緒っちゃ…俺を死刑にしてくれんね」

 映画のなかで熊本はこう慟哭、実際、無罪を確信しつつも合議のなかで1対2で死刑判決が決まり、判決文は熊本が書かねばならなかった。良心の呵責から判決の7カ月後に辞職、精神に変調をきたして妻子とは離別、自殺未遂まで引き起こした。

 「袴田事件は無罪です」

 2007年2月の報道番組で熊本はこう語り、「40年目の裁判官の告白」は衝撃を与えた。
 この元裁判官の告白を、重く受け止め、広く世に知らしめるべきだと考えたのが、企画し、3億円といわれる製作費を出資した忠叡(ちゅうえい)こと後藤忠政元組長だ。武闘派で知られる山口組系の指定暴力団を率いてきたが、堅気となって、昨年4月8日、神奈川県伊勢原市の浄発願寺で得度(出家)、忠叡は法名である。
 大物右翼の故・野村秋介氏との交遊が示すように、もともと政治社会などへの関心が高かったが、除籍を機に社会貢献活動に力を入れるようになり、映画の企画制作はその一環で、取り調べを録画録音する可視化も、冤罪防止のために訴えている。また、後藤組の本拠が静岡県富士宮市であったことも、背中を押した。
 再審請求は認められず、熊本の告白、「袴田巌さんを救う会」などの支援活動も実ってはいないが、死刑囚の身で42年を過ごさせるという過酷な現実が、袴田を拘禁症にし、現在、精神に変調をきたしているという。
 元判事と元暴力団組長--立場も生きてきた背景も違うものの、冤罪への強い怒りで結ばれた。映画は完成、テーマは重いが、正義や権力の“正体”を問い、「命とは何か」を深く考えさせられる内容となっている。
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