日本と韓国の間に歴史問題が生まれた理由
昨年10月、韓国大法院が判決で日本企業に賠償を求めた元徴用工問題についても、論証している。韓国史に詳しい弁護士の金基珠(キムキス)氏が言う。
「徴用工と言っても、1944年9月からの徴用以前は自発的な就労で、給与も会社員よりも高かった。しかし判事たちは日本の朝鮮支配は非合法的で賃金も払わず奴隷のように酷使したにちがいないと、徴用工を一括りに捉えてしまった。その結果、大法院の判事たちが原告たちの主張が事実かどうかを検証しないまま、判決を下してしまった。李先生たちは、判事を含め、多くの韓国人に根付いている、歴史の集団的記憶を問題視しているのです」
慰安婦についても、李氏は制度の変遷を、歴史資料にもとづいて解説している。
「その上で、日本と韓国の間に歴史問題がこれだけ生み出されてしまった背景には、2つの理由があるとしています。
1つは誤った教育が長年なされており、韓国人の精神文化の根底に、資料に基づく客観的な議論が許されないこと。
そしてもう1つは、日本をひたすら悪だとみなす種族(部族)主義があるためだと分析した」(在韓ジャーナリスト)
ただ、李氏らは日本の植民地統治のすべてを肯定しているわけではない。日本支配は朝鮮に差別や抑圧・不平等をもたらしたとも語っている。
賛成派と否定派、それぞれの声
本書の発売後すぐ、国内で大論争が巻き起こった。
否定派の代表格は、前法相の曺氏だ。彼は法相候補に指名される直前の8月5日、自身のフェイスブックにこう書き込んだ。
「日本政府の主張をオウムのように繰り返す」。「この人たちにこんな吐き気がする本を出す自由があるなら、市民にはこの人たちを親日派と呼ぶ自由がある」。
また大手新聞は『反日種族主義』に対する専門家の反論を掲載し、市民団体がシンポジウムで批判した。「『反日種族主義』の著者を法律で処罰すべき」と語る東国大学のファン・テヨン教授らは『日帝種族主義』を刊行。さらには李氏らの事務所の前で、本を引きちぎるパフォーマンスも行われた。
一方で、賛成派も多い。
「李氏のYouTubeの歴史講義は、その多くが10万再生以上を記録し、沢山のコメントが寄せられています。3割は否定的な意見ですが、7割が『驚いた』『知らなかった』と肯定的に捉えています。『祖父から聞いた話と同じだ。教科書と祖父の話は違っていて、おかしいと思っていた』という意見もありました」(ジャーナリスト・崔碩栄(チエソギヨン)氏)
野党である自由韓国党の沈在哲(シムジエチヨル)議員も「知らなかったことを悟らせてくれて感謝する」と発言している。
高校までは「日本は悪いことをしてきた」と習ってきた
現地の書店で本を手に取った人に話を聞いてみた。
「こういった本を待ち望んでいた」という人もいれば、「酷いことが書いてあると聞いたので、手にとってみた」という声も。
ある大学生はこう話す。
「高校までは『日本は悪いことをしてきた』と習ってきたが、この本はまったく違って興味深いです。すべてに同意できるわけではないが、通説と違うからと言って、拒絶する理由はない」
著者の李氏は、この一連の現象をどう見ているのか。
「正直、ここまで売れるとは思っていませんでした。自分たちが学校で習ったり、社会で言われていた歴史認識と、事実は違うのだと突きつけられたことが大きかったのでしょう。また、文政権で行われてきた反日政策を、このまま続けてもいいのだろうかという危機意識が、国民の間で高まってきたことも一因だと考えています」
光化門広場で反文政権のデモに参加していた60代男性もこう熱弁していた。
「国防や経済もそうだが、対日政策に大きな問題がある。国防で必要なはずのGSOMIAをなぜ破棄するのか理解に苦しみます。日本製品不買運動で経済にも影響があるのです。自分の父は元徴用工で、飛行場を作らされたと聞いていましたが、日本とは未来志向で協力しなければならないでしょう」
文大統領にも変化の兆しが
李氏は、文大統領は歴代大統領の中でも、特別に反日意識が強いと指摘する。
「李明博・朴槿恵両大統領も誤った歴史認識に基づいた反日政策をしましたが、日本と協力すべきところは協力していた。文大統領の師である盧武鉉大統領も『親日反民族行為者名簿』を作るなど反日政策を行った人物ですが、まだ政治的に柔軟性があった。しかし、文大統領は強い反日思想を持ち、その姿勢が一貫しているのです」ただ、最近は文大統領にも変化の兆しがあるという。
「彼が思っていた以上に、経済、外交など様々な分野で韓日は緊密に結びついているのです。そのため、GSOMIA破棄に代表されるように、反日政策が自らを苦しめている。ASEAN関連会議で文大統領が安倍晋3首相に対話を持ちかけたのは、彼がいまジレンマに陥っている証拠でしょう。ただ彼が“反日種族主義”の考えを捨てない限り、その葛藤から抜け出すことはできません」(同前)
11月9日、文政権は発足から2年半の折り返し地点を迎えた。文大統領は反日という軛(くびき)から逃れ、レームダックを避けることができるのか。真価が問われる。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年11月21日号)
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