あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

屏風の世界 ・出光美術館

2010-07-10 23:06:56 | 日本美術
出光美術館はその特徴をしっかり使い込む。
会場の広さ、得意ジャンル、見せ方、動線を考えた企画、展開。
それらに毎回裏切られることなく満足させてもらっている。

プロの仕事、を感じる。

早速場内を見ていこう。

Ⅰ"日本式屏風"の誕生

 山水屏風残闕 二幅 
 元屏風だったものを軸装に仕立てたもの。
 さんすい、ではなく、せんずいというそうだ。
 室内に自然の景色を取り込んだ。

 日月四季花鳥図屏風
 出光の看板を背負う、人気の屏風。
 日月は金属板を貼り付けて重厚感を表す。
 ミステリアスな世界が広がる。

 四季花木図屏風 伝土佐光信
 これはとても丁寧な作で、紙蝶番の中まで
 絵が書き込まれていて驚いた。
 
 四季花鳥図屏風 能阿弥
 水墨の渋い作だが、鳥たちが元気に描かれている。
 屏風を囲む金工芸装飾がまた美しい。

 四季花鳥図屏風 伝雪舟等楊
 水墨にうっすらと彩色。
 硬い表情で、狩野派の元祖的な表現。

 一段下がる大きな展示ケースには
 西湖図屏風 狩野元信
 中国が憧れの土地だったとき、
 さぞ人々の夢を集めたことだろう。
 正統派の水墨画調。

Ⅱ物語絵の名場面

 天神縁起尊意参内図屏風
 駿牛図の牛を思い出す、立派な牛が牛車を引くが、
 牛の形相がただならない気配。
 僧 尊意の法力で渡れるはずもない賀茂川が
 ザザザと開き川面が波立つ。
 法力というのか、牛の力とでもいうのか、
 ありえない現象に見た人の心を捉えただろう。
 迫力の一場面だった。

 業平東下り図屏風 伝俵屋宗雪
 屏風の大部分を雪を頂いた富士山。
 屏風という大画面に富士さんが現れるスケールの大きさに
 人々の賞賛が聞こえてきそうだ。
 裾野には京都への思いを断ち切れずに馬を進める業平。
 
 宇治橋芝舟図屏風 
 柳水車図系の美しい画面。
 宇治川の急流に芝を積んだ小舟が漂流する。
 人影のない静かな景色に一層物語が深まる。

 そこに、異彩放つ怪しい景色が飛び込む。
 蟻通・貨狄造船図屏風(ありどおし・かてき) 伝岩佐又兵衛
 伝とは冠されていても又兵衛の世界全開の怪しさ。
 龍、鳳凰、などが大騒ぎしている。
 金雲の代わりのように松の木が怪しく広がっている。
 どんな物語だったのかわからないが、
 物語図の大家の又兵衛ならではの画面だった。

 その横にまたきらびやかな三十六歌仙図屏風
 これもまた 伝岩佐又兵衛
 なんと、又兵衛の傑作目白押しではないか!
 歌仙達の丁寧かつ細やかな表現。
 色使いもみっちりと描き上げている。
 斎宮は御簾に隠れているが、小町はしっかり登場。
 
 小さなケースには
 伝の外れた岩佐又兵衛の三十六歌仙
 「人麿」「赤人」2作
 物語コーナーの半分は又兵衛となっているとは驚きだ。
 
 物語といえば源氏物語を外すわけにはいかない。
 源氏物語図屏風 岩佐勝友
 左隻の展示だったが、物語は後半の帖。
 土佐派のような丁寧な描きっぷりだった。

 源氏物語澪標図屏風 裏面 住吉弘定
 屏風裏は松林の海辺で松の木に葦手で
 ひさしくなりぬ すみよしの
 が隠されていた。

 工芸品に源氏物語に関わる硯箱が出ている。
 美麗。

Ⅲ風俗画の熱気と景観図の大空間
 
 南蛮図屏風
 泰西の人々物品の物珍しさは
 信長達の心を鷲掴みにしただろう。
 日本に大きな影響をもたらした貿易港の現場。

 江戸名所図屏風
 これは実に楽しい。浅草から品川あたりまで
 ギュウギュウに人々がわんわん犇めいている。
 悪所辺りが一番楽しい。

 曽我物語図屏風
 五郎十郎の物語。

 山水図屏風 与謝蕪村
 綿菓子のような山並みが霊界の山のように
 そそり立つ。

 十二ヶ月離合山水図屏風 池大雅
 毎月の景色が十二ヶ月集まってまた一つになっている。 
 大画面の趣向がまさに屏風の世界。

 所々に中国や南蛮渡来の工芸品が展示されて
 その屏風と共にお茶会や、祝宴があっただろうことを
 想像するのも楽しい。

サントリー美術館で開かれたビオンボ展が屏風展の大きなものだったが、
こうして収蔵品だけのもので充実の企画展が開かれることも
出光ならではの企画だと思った。

又兵衛の作品も魅力の一つとなった。

開かれ、畳まれ、人々のセレモニーや、
祝宴、日常を飾ってきた調度は
その大きさと表現に見る人達の心をときめかせてきたことだろう。
いかにも日本の工芸調度の粋を見た気がした。

25日まで。ぜひぜひ日比谷で避暑を。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (いしい)
2010-07-11 16:42:14
お久しぶりです。
私も出光美術館で「屏風の世界」を見てきましたよ。岩佐又兵衛がとてもおもしろかったな。「三十六歌仙図」など、こんな描き方もできるんだなとあらためて又兵衛のすごさを感じました。「江戸名所図」もおもしろいですね。見ていて飽きません。「業平東下り図屏風」の富士山も印象的でした。先日、国立博物館で見た横山大観の「雲中富士図屏風」を思い出しながら見ていました。
昨日は三井記念美術館で「奈良の古寺と仏像~会津八一のうたにのせて~」を見てきました。
会津八一はやっぱりいいですね。今でも学生の頃に買った「鹿鳴集」をもって奈良によく行きます。
そうそう、私も国立博物館の年間パスポートを購入しましたよ。これからも、博物館をたっぷり楽しみたいと思います。
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Unknown (すぴか)
2010-07-11 17:36:26
こんばんは。
お久しぶりです。この展覧会よかったですね。
いつもの事ながら、こちらを拝見していると、その場面がきちんと伝わってきます。
私も見てきたのにいい加減な記事書いて、肝心なことすっ飛ばしています。そばで早く寝なさい身体に悪いとか、、折角一人になってから書こうと思っているのに。
あ、すみません愚痴ったりして。
岩佐又兵衛がたくさんあって、とても素敵でした。
南蛮図・江戸名所図も見ていて飽きないですね。
屏風絵というものの自在さを、うまく伝えてくれた展覧会で、いろいろ並べ方の想像までしてしまいました。
返信する
Unknown (一村雨)
2010-07-12 05:39:22
やはり屏風は、寝転がってじっくりと眺めるものだなぁと感じてしまいました。
腕枕をしながら、あの大画面を眺めることができたら幸せでしょうね。
又兵衛ファンにはたまらない展覧会でした。
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いしい さま (あべまつ)
2010-07-12 22:34:46
こんばんは。
お久しぶりです。
出光はほとんど見るようにしていますが、
ハズレに遭遇しませんね。
そのくらい信頼している美術館です。
屏風の世界も実に楽しく、大スクリーンに趣向が凝らされて、日本人って奴は・・・とニヤニヤしてまいりました。
このあと、私も三井に行って、奈良のみ仏様たちを見てきました。会津八一のコレクションを早稲田大学が持っていて、これもまた秀逸です。東博のパスポートは実にお値打ちです。
中国文明も極上でしたよ~!
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すぴか さま (あべまつ)
2010-07-12 22:42:44
こんばんは。
こちらこそ、ご無沙汰しておりました。
出光の広さが丁度良くて、疲れない程度に楽しめます。屏風という調度品が生活の場所で主の美学と共に暮らしていたことにちょっと羨ましく感じました。
私は一人の時間に集中しないと記事がかけないので、遅い記事アップ、なおかつ書けない展覧会が山のように消えていっています・・・笑
又兵衛の絵は見る人の心をざわざわさせる天才ですね。また次回も楽しみです。
返信する
一村雨 さま (あべまつ)
2010-07-12 22:46:27
こんばんは。
本当に屏風を観ることは気力体力眼力勝負ですね。大広間で、畳の上でゴロンとしながら
屏風鑑賞、やってみたいものです。
又兵衛の作品があれだけ出ているとは驚きました。
実は、一村雨さんのブログコメントにワードが引っかかって、うまく投稿できなかったのでした・・・
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