あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

名物刀剣 ー宝物の日本刀 ・根津美術館

2011-09-02 12:07:12 | 日本美術
有り難いことに根津美術館の「名物刀剣 宝物の日本刀」の展覧内覧に
参加してきました。機会を頂けたことに感謝です。

刀はともかく女人禁制の場所だとばっかり思っていました。
血なまぐさい戦いの証として、武将の名を刻み
代々恭しく受け継がれてきたもの、
そういう印象で、戦場(いくさば)で無念に散った
命への思いなど女性にはつらいものを見るようです。

以前、皇室の名宝展でも美しい刀の刃先にぐっときたことがありました。
鉄の何という輝き。
油断のない輝き。
緊張の曲線。
背中がぞっとするほどの完成度。
その刃先をしまう、拵えの工芸品度の素晴らしさ。

私の刀に対する思いはそんな程度。

今回の内覧に先立ち、
企画運営の記者会見でその印象はころっと裏返ってしまいました。

名刀のレクチャーをして下さったのは、
佐野美術館の渡邉妙子館長。
ものごしは優しいのですが、説明がとてもシャープで隙がなくて
専門知識皆無な私にも理解できるような説明でした。
いきなり、皆さんは刀をどういう役割と思っていますか?
との質問。
飾るもの、お守り、武器、どちらだったのか。
実は刀は持つ人のお守り、だったということの確認から。
これは、かなりガツンときました。
武器は弓、だったとのこと。
刀は身を守るもの、
悪霊を祓うもの。

うわ、そうだったのか。

そして日本刀の簡単な流れを。
 *名刀は武士の発生した平安の頃に生まれる。
  武功に対し拝領する、家宝として受け継ぐ。
 *名刀の収集は信長、秀吉など。信長の眼で集められた物は
  ほとんどが国宝、重文となっている。
 *大阪城落城や、明暦の大火など、名刀の悲劇、消失もあった。
 *八代将軍吉宗による「享保名物帳」の編纂により、
  名物刀剣の評価が決まった。
 *今回の展示品の解説。
 *刀の曲線は平安期からでこれが純正日本刀の誕生。
  この線を延長しても円にならない曲線である。
 *名刀は持ち主が変わりその人の趣味で拵えを作ってきた。
 *日本刀の三作 京都 粟田口 藤四郎吉光
         相州 鎌倉  正宗
         越中 松倉  江義弘
 *鉄の地金が青く澄む、刃が冴えると言われる。
  青い鉄、それが日本刀の美しさ。 

要約はあべまつです。取り逃がした重要ポイントもあるとは思いますが、
ご勘弁を。

女性館長からのレクチャーで思いがけず力を頂き、
その姿にかっこよさをひしひし感じつつ
展示室に入った。
いきなりの刀一色の壮絶な世界。

そもそも女性もその世界に立ち入っていいのかと
西田根津美副館長さんにぽろり伺えば、
あら、女性だって刀をお守りとして身につけていたし、
誕生のときは親からお守りとして刀を頂くのよ。とのこと。
佐野美の館長さん、渡邉さんは女性ながら刀の研究者であるとのこと。
刀を磨くときのポンポンする粉は研ぎ石の粉だそう。
そんなお話をフランクにして下さったお陰で、
刀への道しるべを尊敬する女性お二人から頂戴した訳で、
ますます刀への魅力度が増したことになったのです。
なお、レクチャーの質問コーナーで
この企画のきっかけは?に対して
このご時世、刀の管理、継承に世代代わりの影があるそうで、
個人宅での管理がかなわなくなり、
やむを得ず美術館博物館が管理することが増えて
また、刀の魅力をぜひとも次世代の方々に伝えたい、とのことがあったそうです。
何事も継承することの大切さと、
その魅力を教え伝えることの重要さを感じるお話でした。

さて、展示室に入りましょう。

さすがに刀一色になった展示室は
異様な静けさと輝きに満ちています。
今回は照明にも特段な拘りを持って
独自の開発をされたとか。
白い絹に乗らず、アクリルの透明な台にのせられていることも注目です。


刀の一つ一つへの感想はともかく、
あの展示室が刀の刃色で銀に青く輝く様をぜひ見て欲しいと願います。









また、琳派の血族、本阿弥家の存在も忘れられません。
本阿弥光徳に秀吉から下賜された、
「本」という一文字の印が展示されています。
蒔絵箱の姿も麗しく、大切に保管されてきたことが伺えます。

お茶碗には「楽」
刀には「本」
あの安土桃山のころの名物狩りの熱狂は
今も見る人の心を躍らせます。

お公家さんたちが歌の編纂に熱狂したことに対抗でもしていたんでしょうか。

2階の展示室は一転、御伽草子絵巻もの、



お茶のコーナーは重陽の節句のしつらいで秋草、菊がテーマ。





緊張した心と眼を癒してくれます。

と、そこに雷鳴轟き、驚いて根津の名庭園をのぞくと
雨が滝のように庇から流れ落ちています。

きっと、信長のたたりよ、といいつつ、
展示室から異様な輝きが一層不気味に輝いて見えたのでした。

女性もこの機会に是非、涼を感じるガラスとともに
夏の名宝「刀」をご堪能頂きたいものと願った次第です。

会期は25日まで。
次回はまた大変。「春日の風景」として
春日權現絵巻が登場です。

また、根津美のWeb アプリが無料で登場しました。
iPhone、スマホ所有の方はぜひにも。
でも、本物をみること、一番大事です。

雷鳴轟き、滝のような雨のなか、ぎらり光る名刀の展示は
ずっと記憶に残ることでしょう。

渡邉妙子先生のますますのご活躍を願ったのでした。
最後に根津美の滝雨の庇の画像をのせます。



*追記 この展覧の為の図録がまた重量感たっぷりの情報満載な刀の魅力を
 全身でしかもクールな編集となっています。
 なれない単語が並んだりして難しいのですが、
 説得力ぎゅっとつまっています。

 これで古事記を引っ張りだして三種の神器の由来など
 辿るのも面白いことです。
 また、記事に際し、ご助言頂いたりもしてありがたいことでした。

今まで、刀を遠ざけていたことが惜しいことです。
これからは刃の光、無視はできなくなったのでした。

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2 コメント

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Unknown (すぴか)
2011-09-03 00:35:25
これは、これはすばらしい記事で、感激です。

刀を見るのは好きなのですが、それだけ、ただ美しいと心を奪われるだけでした。

やっと涼しくなりそうなので、是非見に行こうと思っています。ありがとうございました。
返信する
すぴか さま (あべまつ)
2011-09-03 10:12:51
おはようございます。
早速のコメントありがとうございます。

本当にぞっとする美しさを感じました。
ギリギリの首の皮一枚のところを脅かされているようでもあり。笑!

ぜひ、あの空間を体験なさってみて下さい。
返信する

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