あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

やまと絵の譜 ・出光美術館

2009-06-10 17:01:46 | 日本美術
やまと絵が誕生した平安から、
浮世絵に流れる江戸の美意識の系譜。

そこにはすっきりと一本の美意識が貫かれているから、
ゆったり「やまと絵」の世界に埋没できる。

総数36点の他に、やきもの、鏡、漆芸、などが
散らばって質の高い空気に花を添えていた。

第一章 「うつつ」をうつすー「やまと絵」と浮世絵

版画の浮世絵があるわけではなく、
そこにいたる前の菱川師宣の美人図など。
菱川師宣から、懐月堂安度、度辰らの美人図。
美人図の軸装はだいたいが綺麗な布を使ってくれるので、
それを見るのも一興。
師宣の美人図では、源氏の取り合わせが面白い。
美人さんは赤い着物に墨描の御所車の帯をしめ、
足元には秋草が可憐に咲く。
六条の御息所を彷彿する要素が散りばめてある、心憎き工夫。

英一蝶の作、3点。
「四季日待図巻」
みんな楽しく悠長に日が昇るのを待つ、の図巻。
酒に酔ってはお天道様が昇ってくるころは、撃沈だろうに。
遊女達が踊っている様は一蝶らしい雰囲気。

「凧揚げ図」 柱の巾くらいの小品だが縦に長く、小粋。
更紗の布で軸装してあるのがおしゃれ。
現代に入ってから軸装設え直したのか?いい感じ。

「桜花紅葉図」2本の軸でワンセット。
抱一とか、其一とかが好んで描いたような
春と秋のしなやかな図。
枝からぶら下がる短冊が燕と鶺鴒を巻き込んでいる。

又兵衛の作、3点。

「野々宮図」
光源氏が六条御息所に未練の挨拶。
描かれた光源氏の回りには、オーラが見える。
友人は又兵衛の描く目から強烈な視線を感じると言っていた。
確かに目は細く小さいのに、画面から送る視線は見る人を釘付けにする。
墨絵のようで白黒なのだが、うっすらと紅が差してある。

「在原業平図」
光源氏のスタイルに似ている。
けれど、こちらは色付き、着物柄も丁寧な上がり。
これからどこに出かける気でいるのか。
ただ、たそがれているのか。

「職人尽図巻」
七福神達のおでまし。
布袋さまや、大黒さま・・・
つかまった鯛の上目目線。
ご慈悲だから勘弁してやっておくれと。

「江戸名所図屏風」
右から左へ2000人あまりの登場人物。
誰がカウントしたのか?
浅草隅田川あたりから、上野、江戸城、日本橋、品川と様々な
人々の暮らしぶりがにぎやかに大江戸東海道物語のよう。
湯屋を発見するまで友人と二人屏風に向かって
にらめっこ。芝居小屋も、並ぶ店先も面白い。
屏風の前でしばし江戸徘徊を楽しんだ。
平成の江戸人間でも、だいたいどこかわかるのが嬉しい。

「扇面法華経冊子断簡」
この様子から、源氏物語絵巻が生まれたのだろうか。
一番古い展示品。

「月次風俗図扇面」
色鮮やかに人々の暮らしが描かれていた。

第二章 「物語」をうつすー「やまと絵」絵巻の諸相
 
絵巻は14点。

「絵因果経」こんなやわらかな絵で仏門を教えてくれたら、
私もちゃんと門徒になれるだろうか。

「長谷寺縁起絵巻」
絵が、とても絵本チックでかわいい。
風神雷神の頑張る姿。
後に観音様が現れて、めでたし。
こういう絵を描く絵本作家がいる。
絵はがきを買うのを忘れてしまったのが心残り。

「北野天神縁起絵巻」
女が誰かの着物を奪ったという話。
仏の道に助けられ、疑いも晴れたという顛末らしい。
車争図のような牛車が暴れる場面も。
牛車が暴れる図は、けっこうもてはやされたのかもしれない。
馬は武士のもの、牛はお公家さんのもの、そう見るのも面白い。
  
「福富草紙絵巻」
放屁をお披露目するところ、殿の面前で粗相してしまい、
結果お仕置きを受け、叩かれ血だらけになったかわいそうな図。

「木曽物語絵巻」
義仲の戦い。ついに敵にやられて馬も一緒にお陀仏。
画面がきれいで丁寧だと思ったら、伝・住吉如慶だった。

「白描中殿御会図」
線描だけの墨絵。源氏物語の白描も有名だ。
殿上人の似絵なのだが、好みの殿方は見あたらず。
頬がみな赤く染まっている。

「大江千里観音図」
オオエセンリと何故読まないのかと友は騒ぐ。
チサトなのだった。

「雪月花図」
描かれている人物だけがきれいな色使い。
女性の髪の毛の黒々長く豊か。土佐派復活を願った冷泉為恭。

「異形賀茂祭図巻」
鳥獣戯画の仲間達のお祭り道中。
あれは何者かわからないヤツも。

「神於寺縁起絵巻断簡」
有り難い説法を虎次郎ファミリーがみんなで聞く、の図。
集まる縞虎は人よりも小さく、猫化していて、
ちゃんと有り難く聞いているさまはとってもお利口なのだ。

第三章 「自然」をうつすー「やまと絵」屏風とその展開

「四季花木図屏風」
松竹梅と紫陽花、甘草、萩、紅葉、桔梗などが散らばって、
水文も美しい、琳派の源を感じた。

「日月四季花鳥図屏風」
出光といえば、この屏風。
そんなイメージがある。
のどかな、幻想的な不思議なきらめきがある。

源氏物語から、
「須磨・明石図屏風」
「源氏物語 賢木・澪標図屏風」
源氏が明石を離れる時か、向こうの舟から、よよと泣く明石の君。
賢木からは、そっと六条御息所に榊を差し出す源氏。

源氏物語を知らないと、こういうときに困るのだと
しみじみ。
なんとなくうろ覚えでもこの場面が思い起こせるようになったのは、
大進歩なのだった。

工芸では、漆器の素敵なもの、
やきもののでは、古九谷の垂涎もの。
古伊万里の長皿など、よい!ものがピンポイントに。

最後に次回の「中国の陶俑」の宣伝にかわいらしいお家が出現。
ぜひいらしてね。と女性が家の中から手を振る。

ぎゅっと好きなものが集まっていて、
実に楽しめた展覧会だった。
朝夕庵のしつらいも 籠尽くしで夏仕立て。

出光ならではの企画展。ぜひぜひお勧めします。

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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (遊行七恵)
2009-06-13 21:09:21
こんばんは
>女が誰かの着物を奪ったという話。
平安時代に肌を晒すということは、それだけで物狂いなわけなんで、あれは天神のタタリの強さ・怖さを象徴してもいるようです。

>オオエセンリ
♪じゅうにんとーいろ~ そう歌わなくちゃいけなくなりますね☆
返信する
遊行 さま (あべまつ)
2009-06-13 22:08:12
こんばんは。

>平安時代に肌を晒すということは、それだけで物狂いなわけなんで、あれは天神のタタリの強さ・怖さを象徴してもいるようです。

ほほう、なるほど、そうでしたか。
物語のキイ、教えて頂き、ありがとうございます。物狂い、って、なんか惹かれます。

>オオエセンリ
まったく友の口を押さえたくなりました。
おいおい~と、受けましたが。笑
返信する
Unknown (すぴか)
2009-06-22 17:40:16
こんばんは。
あべまつさんのを読んでいたら
こんなにあったのかと感心しました。
緩急自在の展覧で、たのしかった
ですね。美人画から大きな屏風まで、
それにゆかいな絵図巻、やまと絵って
幅が広いし、奈良時代からの日本
の流れ、時間のたつの忘れてました。
返信する
Unknown (三日月湖)
2009-06-22 20:43:54
浮世絵、絵巻、屏風と分類して見せた、出光の企画の巧さに拍手ですね。
「うつつ」をうつす では、又兵衛が「人の心のうつろい」、風俗図や名所図が「人の世のうつろい」
「物語」をうつす では、木曽物語のような軍記ものなら栄枯盛衰「人の世のうつろい」、縁起なら「人と神との交流のうつろい」、源氏や伊勢など、和歌を下地にした物語なら「人の心のうつろい」
「自然」をうつす では、「四季のうつろい」
「うつろい」を視覚化したのが、やまと絵
この「心のうつろい」「季節のうつろい」を大和言葉で表現すれば、和歌
と感じましたが、いかがでしょうか?

> 源氏物語を知らないと、
大江千里も、百人一首の「月見れば」しか知らなかったです。
今回、入口と出口に源氏、どちらも野々宮ということで、気になってもう一回戻りますよね、これって意図的だったりして?
返信する
すぴか さま (あべまつ)
2009-06-22 21:11:11
こんばんは。

やまと絵のゆるやかな雰囲気は、権力になびかなかったから、なのかな?と思ったり。
安心しきって楽しめました。
日本人の底流にずっとある何かがあるのでしょうね。企画の充実を感じました。
返信する
三日月湖 さま (あべまつ)
2009-06-22 21:25:35
こんばんは。

面白い考察、感心しました!
確かに、うつす、うつろいの奥には和歌がありますね!
和歌が感じられるかどうか、それが日本の文芸美術の重要なポイントでしょう。

源氏も百人一首も伊勢も基本型となって、
そこをふまえた上での物語絵巻、見立て、本歌取り、一々納得です。
あの会場の天上には、六条の亡霊がいたかもしれません~~~
本当にぐるぐる野々宮参り、でした。
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素晴らしい~ (ogawama)
2009-07-03 22:38:36
章立てもセンスが良くて、隅々まで充実した展覧会でした。
今までやまと絵って面白みがないと思っていたのですが、大間違い!
元々質の高い作品が多いのでしょうが、選択して対比させる企画者の腕前に、感心しました。
出品されていた作家がすべて好きになりました。
返信する
ogawama さま (あべまつ)
2009-07-03 23:25:08
こんばんは。

楽しんでこられてよかったですね。
ギリギリ息を呑むようなものはないけれど、
そこはかとなく、ゆるやかで、牧歌的。
それがやまと絵ってところでしょうか。

>出品されていた作家がすべて好きになりました。

それは素晴らしく、凄いことでしたね。
いい企画をしてくれると、しみじみ良いもの見た充実感が溢れてきますね。
返信する
Unknown (Tak)
2009-07-14 18:34:20
こんばんは。

出光美術館さん
毎度毎度レベルの高い
展覧会を自主企画で
しっかりと開催されますね~

ほんと立派です。
根津美術館や山種美術館さんも楽しみです。
返信する
Tak さま (あべまつ)
2009-07-14 23:02:15
こんばんは。

後もう一回みたいと思っていたら、
もう、会期末。
焦ります。

出光の充実はしっかりした学究と、前向きな
展示企画に支えられていると思います。
これが美術館の根幹ですね。
寄せ集めにならないバリッとした出光魂。

次回も勿論、根津、山種も楽しみです!!
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