あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

大観と日本美術院  ・横山大観記念館  

2008-04-12 11:30:55 | 日本美術
大観は水戸藩士の長男として生まれ、
現芸大の一期生。
岡倉天心について、日本美術院を創立する。
朦朧体に取り組む。
菱田春草と世界を外遊。
天心亡き後に活力を失っていた日本美術院を再興する。
「生々流転」を発表。
昭和12年第一回文化勲章受章。
昭和33年に死去、谷中に葬られる。

という簡単な略歴からは、あまり彼自身に迫ることはできないが、
師と仰いでいた天心亡き後の活躍ぶりがめざましく、
文化勲章を受ける誉れ以降は、巨匠としての道が燦然と輝いていたようだ。
でも、実は酒好きのギョロメのおちゃめな好々爺だったのかも知れない。

さて、記念館にはいると、
しっとり日本家屋の正しい香。
驚くほど広い邸宅ではなく、
五浦ゆかりの洞窟の名前を付けた「鉦鼓洞」という客間は、
日本庭園を清々しく眺めながらゆったりとした時を
訪れた客人に与えてくれたことだろう。
炉が切ってあり、自在もまだ現役でぶら下がっていた。
縁側にすり寄って、ハラハラと舞い落ちる大島桜の花びらが
回遊する水辺に落ちて、花筏になるさまを眺めていた。

すぐそばで大観が筆を取り、
今まさに一幅の絵を描くその動画で見るような気分だった。

日本庭園とまで大げさではなく、
昔、少し余裕のあるお宅にあったような、
燦然と輝く華やかさはないけれど、じつに落ち着く、
画業を続けるアトリエとしては、絶好の場所となったことが偲ばれた。

内庭を囲んだ廊下を奥に進むと部屋が二つ並び、
そこに掛けられた絵に驚く。(アップ画像)
「祇園夜桜」冨田渓仙 大将10年

京都円山公園のしだれ夜桜を余白なく暗闇をおどろおどろしく表現した
この絵を大観はいたく気に入り、
日本美術院のアメリカ巡回展に出品されたこの作を求めて、
自宅の床の間でしばしば鑑賞したとか。
国立新美術館で見た、
大観の大作屏風、松明の灯が大きく揺らめく
大倉集古館にある「夜桜」を彷彿とさせられる。

後に渓仙と親しく交流し、
京都の三条大橋を渓仙が、江戸の日本橋を大観が描く合作もした。

ぎしぎしと鳴る階段をあがる。そこも画室。
晩年になって、一階の画室に移ったのだそうだ。
見下ろす景色もきっと大観の心の癒しとなった事だろう。
大観米寿のお祝いとして、
日本美術館同人著名人の寄せ書き圧巻絵巻。
「八十八大龍王絵巻」 昭和30年

こんなお祝いがもらえるのは、流石としかいいようがない。
ほか、還暦、喜寿のお祝い画帳や、色紙が並んでいた。
なかでも今年なぜか私の眼に
大島桜の白い花びらとしなやかな葉が共に居る風情が気に入って、
心惹かれているのだが、
その様子を切り取った
「夜桜」 速水御舟の色紙がことに素敵に見えた。

隠れ里のような、懐かしさもある、
そして、大観の画業生活が滲んだ、
この大観記念館。

ほんのひととき、素敵な花見をした気分となった。

反対側の上野不忍池界隈は沢山の人でごった返し、
花数ほどの人達の喧噪が煙っていた。

軒下の深い、苔の緑が優しい、
太陽の光をゆったり木々が受け止めた後の
ある程度湿気を含んだ空気感が
やけに懐かしい気持ちにさせてくれた。

この企画展は、6月22日まで。
上野散歩にぜひお立ち寄りしてみて下さい。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ただ今、お片づけ隊、入隊中 | トップ | おもしろブログ発見! »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (nageire)
2008-04-12 12:22:04
大観って自分はどうも苦手なんです。
どこがって言うわけでもないのですが・・・・
まだまだ、出会うには早いのかもしれません。
とか言いながら、記念館にはちゃんと行った
事もあるのですけれどね。
返信する
Unknown (遊行七恵)
2008-04-12 21:58:28
こんばんは
日本画修行の頃(むろん観る方ですが)、よく出かけました。上野からここに来て、そこから弥生に出たり。朝倉でもここでもそうですが、くつろげるんですよね。
わたしはあんまりボーッとする時間がないバタバタ星人なんですが、追想すると今もイイ気持ちになります。
だからか、池之端から根津谷中本郷界隈が大好きです。
返信する
nageire さま (あべまつ)
2008-04-12 23:23:56
こんばんは。
今年大観展でようやく全体像を見た気がします。
巨匠はそれだけで敷居を高く感じてしまいますが、
この記念館は日本家屋と画業とその周りの環境を感じるのにとても良いところだと思いました。
大観は、時代と共にもの凄いパワーが炸裂した瞬間があったようで、そういう人がいたことが嬉しくさせてくれます。
返信する
遊行 さま (あべまつ)
2008-04-12 23:38:15
こんばんは。
上野池之端界隈は、芸大の関係者の住居、お墓がすぐ近くで、人肌臭い生活感があるから、ほっとしますね。支えてきた人達も少なからずいたせいか?
なぜか人なつこい人が沢山住んでいる気がします。
バタバタVSボ~ット星人は、つい独り身の錯覚に陥り、ふらつき、黄昏時に晩ご飯の用意にあたふたしながら帰路につくのです。

>池之端から根津谷中本郷界隈が大好きです。
まったく同感です!!
返信する
谷中・千駄木経由 (三日月湖)
2008-05-06 21:45:02
5月3日、東京国立博物館の常設展を見ながら、雨のあがるのを待ち、谷中、千駄木経由で大観記念館へ。
雨上がりの新緑に包まれた日本家屋が、都会の喧騒から隔絶したタイムマシーンのようでした。 美術館の展覧会とはちがった雰囲気の中で、近代日本画を堪能できて、とてもリラックスできました。

トラックバックがうまくいかない場合もあるので、当日の記事のURLをいれておきます。
返信する
三日月湖 さま (あべまつ)
2008-05-06 22:37:04
こんばんは。
先ほど、三日月湖さんのところお邪魔してきました。
素敵な記事でした。
大観のアトリエ訪問という感じで、展覧会の会場とは違って、創作の現場というより、生活の息づかいが感じられました。日本家屋は郷愁も感じられます。

トラックバック無事していただき、ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。