あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

1月のアート鑑賞記録

2015-02-07 16:29:58 | 美術展

 年明け早々、様々なことが舞い込んできて落ち着かない日々を過ごしていますが、
 年初に見てきたもの、とりあえずメモ代わりに残しておきます。
 
 草月の私の先生が赤坂でいけばな展示を約一月年末年始に展示していました。
 そのお陰で早朝からのお手伝いがあり、
 仕事から解放された後、意外にも彼方此方立ち寄ることができました。


 *岡部嶺男 火に生き 土に生き 展 菊池寛実記念智美術館




  
  こちらへは本当に久しぶりとなりました。
  陶磁器、工芸の若手展覧も時々されていますが
  今回は加藤唐九郎の長男、岡部嶺男の作陶展に
  器の店を持っている友人と行ってきました。
  この展覧の後にサントリー美で仁阿弥道八をみて
  陶芸家の多彩な技術、技巧に驚くのですが、
  こちらの岡部氏も淡々と幅の広い作品にチャレンジし、
  かつ、現代への道筋もつけられているように思いました。
  端正な中国陶器から織部、志野、黄瀬戸、窯変米色などの
  伝統的スタイルから、青織部縄文塊の激しいものまで。
  土の塊から生み出す闘いから何を目指していたのだろうか、
  どんな風に自身のやきものが存在して欲しいと願ったのか、
  静寂な会場の暗闇から浮かび上がるぼうっとした存在と陰が
  土をこね、窯にくべられ、生まれてきたやきものを
  一段と深い重圧をのせているようにこちらに迫ってきました。
  
 *仁阿弥道八展  サントリー美術館



  やきもの好きで様々な陶磁器を見てきましたが、
  この、仁阿弥道八の作品はいつもちょっとだけの展示参加で
  じつは全貌を知らないままでした。
  乾山系統で色絵の鮮やかな楽しい作、というイメージを抱いていましたが、
  数少ない展示作品からは、好きかどうかを判断できかねていました。
  その道八に焦点を当てた展覧がサントリー美術館で3月1日まで開催中です。
  メンバーの内覧日にゆっくり拝見してきました。
  実に多彩な陶磁器を写し、模索し、研究し、道八の色を付けていく、
  天才陶工といわれる由縁を実感できる絶好のチャンスだと感じました。
  乾山もまた様々な陶磁器を写し,研究し、自分の作品を作り出してきました。
  その乾山を本歌とすれば、道八独特のユーモアテイストとリアリティを
  加味しているようです。
  サントリー美術館が道八の真面目な模索から茶目っ気ある楽しいやきものまで
  一望できる道八色に染まった貴重な展覧だと思います。
  見ているこちら側の顔がずっと穏やかに、にこやかになれる展覧でした。
  勿論、大好きな陶工になったことはいうまでもありません。
  作家自身が楽しんで、面白く工夫を重ねることが作品に投影され
  自由になるための努力さえも面白がっていたように感じました。
  もう一度愉快な気持ちになるために道八に会いに行きたくなっています。
  サントリー美のサイトはこちら

 *フェルディナント・ホドラー展 国立西洋美術館
 

  昨年、内覧会に当選した好機をえて初めてのホドラーを鑑賞しました。
  その時のこんな画家、見たことがなかったこともあって、
  ホドラーの独特な表現と色使いが深く印象に残っていました。
  年初、展覧の会期末に再度行ってきました。
  ホドラーは(1853ー1983)スイスを代表する画家で生涯を通して
  スイスに留まり活動してきました。
  貧しい家に生まれ次々と肉親との別れを経験する中で
  死生観、憂鬱を表現しますが、のちに躍動感ある「パラレリズム」(平行主義)または
  「リズム」に注目した表現を得意とするようになります。
  代表作、「感情&ⅠⅠⅠ」「恍惚とした女」またレマン湖、ユングフラウ山などの
  風景画のそれぞれが印象派とは違った色使いと構図に魅せられました。
  同時に国立新美術館で開催された「チューリッヒ美術館展」でも
  ホドラーと対面することができました。
  その時既に親しみが生まれていて、展示されていることを喜びました。
  図録を手に入れてはいるものの、積ん読状態なので、
  ゆっくりその人の画家生涯をめくってみたいと思っています。
  初期の風景画や、スイスの紙幣に使われた木を切る、草を刈る人も
  大変魅力的な作品でした。
  エゴン・シーレの色調を思い出したり、印象派の風景画を感じたり、
  西洋画家の中で注目したい作家のひとりとなりました。 

 *西美常設展 国立西洋美術館

  ホドラー展を再訪した後、常設に回りました。
  常設では版画の展示があり、それが楽しみでもあります。
  小企画展「ネーテルランドの寓意版画」
  緻密な銅版画の超絶技巧に目がつぶれそうでした。
  そして、常設の館内をぐるっとまわると
  それ自体が西洋画の大きな歴史の川となっているのでした。 

 *トーハクに初詣 東京国立博物館




  
  これはブログ記事に早速アップしましたが、(こちら)
  東博は私のワンダーランド。
  今年もできるだけ通いたいところです!

 *高松次郎展 国立近代美術館




  近美の展覧では私の思いもよらない作家と、作品を魅せてくれます。
  今回の高松次郎展では、彼の生きていた時代の「芸術そのものの存在を
  疑ってかかる」芸術という仕組みを裏から底からひっくり返して考えてみる、 
  そんな時代だったのかも知れません。
  見えているものと、映っているもの、頭蓋骨に反映されているもの、
  それを疑って素直に見つめていると・・・・・
  その回路が見えてくるような楽しさがありました。
  数学に弱い私には記号と分解、構築が苦手ですが、
  その難問を前にして技術を駆使して色々やってみた、高松次郎の
  作戦会議は俯瞰する場所から見ていても謎めいているようで
  実はとても素直なコケティッシュな暖かみのあるシニカルな
  斜めの椅子だったりします。
  陰を作っている実存はほんものなのか? 
  解説は難しい言葉でしたが、それに振り回されることの
  自虐的楽しさもあったのでした。
  サイトはこちら

 *近美常設展 国立近代美術館

  ギャラリー4で「奈良原一高 王国」が開催されています。
  3月1日まで。
  これは意表を突かされ、胸に迫るものがじんわりと押し寄せてきて、
  言葉にならないような重たい、強い印象が残りました。
  奈良原一高、その人の名前を写真家としてなんとなく知ってはいたものの、
  レンズ越しにこれを写したいと思う、怖さを感じました。
  北海道の修道院、和歌山の女性刑務所、
  そのセレクトと対比、人として生があることは
  いったいなんなのかと、モノクロ写真で黒々と
  考えることを押しつけられます。
  社会と隔絶された営みの別世界を野次馬で覗いていいのだろうかという
  後ろめたさも生まれてきました。
  そこにある風景と人の営みがあると云うことと、
  この世の理解できない世界が目の前に現れて
  途方に暮れるのでした。
  3月1日まで開催中。サイトはこちら

 *第9回shiseido art egg 川内理香子展 資生堂ギャラリー



  こちらはブログ記事にしましたので、ご参照下さい。
  こちら

  銀座の真ん中で、資生堂の芸術に対する
  スマートな支援が滲む嬉しいお気に入りのスペースです。

 *ART POINT New Year Selection 2015
  あおひーさん出展



  ブログ記事はこちらです。
  あおひーさんの今後どんな変化が生まれてくるのか、
  楽しみで、新作を待っています。

 *雪と月と花展 三井記念美術館

  毎年、旧友と新年会を日本橋でした後に三井記念美術館に行く、
  なんとなく、恒例となっています。
  年初のおめでたい展覧に今年一年を無事に過ごせるようにと
  祈願するような、初詣のような心持ちでした。
  展覧に合わせて応挙の国宝作品「雪松図」屏風が新春を言祝ぎます。
  沈南蘋が五幅、お気に入りの茶籠などが現れて喜びました。
  応挙と三井家との関わりの深さを改めて感じました。
  今年もまた、三井記念美術館に通うこととなります。
  次回は繊細なデコレーションのデミタスカップが会場を
  可憐に変化させてくれるはずです。


 *琳派名品展 岡田美術館所蔵 日本橋三越7Fギャラリー

  2015年、今年は光悦が家康から鷹峯を拝領し光悦村を作った年を記念し、
  琳派400年というビッグイベントが盛り沢山開催されるようです。
  その最初の琳派展が日本橋三越で開催されました。
  箱根に誕生した岡田美術館の至極の琳派作品、初見のものばかりで
  目を見張りました。まだまだ琳派メンバーの隠された名品がどこかに
  あるのではないかとドキドキしました。
  まぁ、なんといっても見ているとテンション上がります。
  なんとか繰り出せて本当に良かったのでした。
  箱根の山へはもう少し自由時間がとれるようになってから。
 
 *菅野由美子展 ギャルリー東京ユマニテ
 








  京橋のユマニテ、キャリアのあるギャラリーでセレクトにも安定の
  心地よさと、新鮮さが魅力ですし、そこを切り盛りするKさんの
  お話と、運良くは作家さんのお話が伺えることも魅力のひとつです。
  陶磁器好きの私にとって気になる画像がご案内メールで届きました。
  菅野由美子さん。
  ちょうど在廊されていた菅野さんからお話を伺うことができました。
  やはり、陶磁器好き、骨董好き、ガラスも好き、ということが
  画面からも十分に伝わります。
  でも、なにか不思議な空間で、果たしてその実体があるのか、
  架空なのか、画面の暗闇がリアルを否定しているような
  ミステリアスな騙し絵的な魅力がありました。
  3,11で壊れてしまったものもそれを記憶するものとして登場させたり
  好きな急須だけの作品があったり、とても親近感のあるチョイスでした。
  油絵なのに、どこかフレスコ絵的な感覚、
  今後登場するのはどんなやきものなのか、
  菅野さんコレクションの増殖もまたたのしみとなりました。


 さてさて、新しい一年が始まりました。
 思いがけず、忙しい1月でしたが、寸暇を見つけて展覧に行くことができて
 良かったと思いました。
 この2月がまた色々懸案事項山積で、どうなります事やら。
 ブログ更新が思うように進まないこととなりそうですが、
 みなさまにはどうぞ体調管理など怠りませんようにと願います。
 立春を迎えましたので、時々春めいた光や花が目につくこととなるでしょう。
 健やかな春の訪れを心待ちにしたいと思っています。

 お正月の草月の花も画像ご紹介します。
 場所は赤坂、ホテルニューオータニ、キャピトルホテル、などです。
 これから花の展覧会がラッシュのシーズンです。
 あちこちで花のエネルギーをもらってお元気になりますように。














 

コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 第9回shiseido art egg 川内... | トップ | 春遠からじ »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ken)
2015-02-11 00:41:32
こんばんは。立春を過ぎての寒さを余寒というらしいですが、この寒さは極寒です。1月のアート鑑賞記録拝見しました。1年の最初の月からあべまつさまのパワー全開といった感がいたします。東博は別にして、今年も美の世界を闊歩する御姿が何となく目に浮かびます。仁阿弥道八は面白そうですね。ポスターにあるようにまさに天才陶工です。未生流の生け花の写真も有難うございました。私はあべのハルカスで開催中の「高野山の名宝」展のチケットをいただいたので運慶の八大童子にお会いしに行こうかと思っております。あべまつさまもこの寒さでお風邪など召されませぬように。くれぐれもご自愛ください。
返信する
流派を間違えました。 (ken)
2015-02-11 01:20:31
あべまつさま。まことに申し訳ございませんでした。草月流のとするところを、未生流としてしまいました。本当にごめんなさい。深くお詫びいたします。
返信する
ken さま (あべまつ  )
2015-02-12 22:46:55
こんばんは。
お返事遅延、お許しを。
いつも丁寧にご覧頂いたうえにコメントも頂けること、大変嬉しく思っています。
なかなかアート鑑賞の時間が作れず、焦れていますが、目の前の事の優先順位を間違えないように春の到来を心待ちにしているところです。
いけばなの流派は沢山あり、200を越えているそうです。最近はお稽古をする人口が減ってきているそうですが、何年たっても学ぶことだらけで奥が深いと実感しますが、楽しいので止められません~!間違いのことお気になさらずに。私も誤字脱字よくやっています。
高野山の名宝展、とても見応えがありました。あべのハルカスの展覧はどんな展示なのか、興味津々です。眺望も素晴らしいのでしょうね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。