あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

9月のアート鑑賞記録(2015) 

2015-11-05 21:49:13 | アート鑑賞記録

 大変ご無沙汰してしまいました。
 なかなかパソコンに向かう時間がありませんでしたが、
 ようやく、9月の振り返りをしようと思います。
 鑑賞した記憶が怪しくなってしまいましたが、
 備忘録程度とご容赦下さい。

 *院展 東京都立美術館
  山口裕子さんが出品されたとのことで、 
  ほとんど他の作品はスルーし、山口さんの作品を拝見してきました。
  少し色目がダークになったように思いましたが、
  対象の動物、ペンギンさんが思索の夢を見ているようで、ステキでした。
  いつも、命への賛歌を感じます。

 *うらめしや~、冥土のみやげ展 藝術大学美術館
  後期に登場する伊藤晴雨のおどろおどろしい
  鬼女「怪談乳房榎図」を見に行きました。
  迫真迫る緊張感は他の幽霊図がぼやけてしまうほどの存在感を放っていました。
  蚊帳がつられた会場にはいつのまにやら
  しめ縄が張り巡らされ、霊界との結界に除霊をしているように見えました。
  お化けの女性を描くことが流行ったという時代、
  女性の般若の姿を恐れていたのは、伊右衛門ばかりではなかったはずです。
  現代の恐怖はどんな姿のお化けでしょうか。
  「焔」の六条御息所の怨霊は鎮まることができたでしょうか。
  全生庵のコレクションを初めて実見でき、大変喜びました。

 *東京国立博物館 常設
  本館での特集、「春日権現験記絵模本」
  「後水尾院と江戸初期のやまと絵」「能面」
  などをたのしむことができました。
  ブログ記事にしてありますので、画像などご参考にどうぞ。

 *9月文楽公演 国立劇場小劇場
  面売り、鎌倉三代記、伊勢音頭恋寝刃
  面売りは、大道芸の軽やかな案山子と面売りの娘の掛け合う楽しいお芝居。
  鎌倉三代記は、大坂の陣を題材にしたもの、敵味方のなかでの恋心が
  純粋でけなげです。
  伊勢音頭恋寝刃は伊勢の遊郭で切った貼ったの残忍な場面が特徴です。
  万野の意地悪ぶりと、振り回される貢が哀れ。
  文楽初体験の友は大喜び。
  ご縁ある方のお手配で、バックステージツアーに参加できたことも
  人形を持つ体験もさせてもらえ、嬉しいこと尽くしでした。

 *スサノヲの到来ーいのち、いかり、いのり 松濤美術館
  木彫がご専門の彫刻家佐々木誠さんより
  この「スサノヲの到来」展のご案内を頂いていましたが、
  去年の暮れあたりから立て込んだ事情が重なってなかなか鑑賞に出かける機会を
  見いだせなく、申し訳なくも残念に思っていました。
  せめて、川村美術館に伺いたかったものです。
  遠く、道立函館美術館巡回を終えて、最終の展示会場の松濤美術館に
  ようやく、やっと、行ってきました。
  まずは展示されているものから溢れる日本古来の原始パワーに圧倒されました。
  縄文から古事記の世界、、民俗学、考古学、そして
  スサノヲの変遷と現代作家による解釈にわたり、
  どうやって感想を述べたら良いのか、途方に暮れてしまいました。
  あらぶれるスサノヲの魂はいつの世も生きている人々の
  祈りによって鎮魂されてきたのでしょう。
  寡黙な「八挙須(やつかひげ)」(佐々木誠作)の静かな姿は
  内面にふつふつと沸き上がる人々のいのち、いかり、いのりをしまい込んで
  激情となって燃えたぎっていても、瞑目し享受し、
  そのエネルギーを塞いで飲み込んでしまっているかのようでした。
  静寂でひどく熱いことにたじろいでしまいます。
  この展覧の企画に喝采を贈りたいと思います。


 
  その後、銀座の奥野ビルにある、ギャラリーさわらびを訪問し、
  佐々木誠さんの作品を拝見し、スサノヲの熱を拡散しなければなりませんでした。
  激情、気がつかないうちに見失っていませんか。
    




 *湯島天満宮宝物館 「利休を超えた織部とは?」
  今春、受験生の保護者という立場から解放されましたので、
  まずは愚息の大学進学のお礼参りをしました。
  湯島天満宮の境内に宝物館があり、そこで織部の展示があると、
  Twitter情報を得ていたので、なんとか、会期中に行って見たいと思っていました。
  決して広くはない会場には、驚きの名品の展示に
  ドキドキしながら二周めぐって見て回りました。
  会場では図版の販売も有り、ついつい求めてしまいました。
  利休の雲水のようなストイックな姿に陶酔を感じつつも
  荒ぶれるひょうげ者の方がが愉快で爽快な気持ちにさせてもらえます。
  信長、織部、秀吉、秀忠、近衛信伊、利休、宗易、伊達政宗の筆が並び、
  戦国武将たちが命がけで茶の湯の一座にいたことを改めて知らされます。
  茶器も数多く、出品され、それぞれの個性の強さに
  新しい時代の風が吹いたこと、それ故の短命を辿ったのだろうと
  はかなさともののあはれのつわものどもが夢を垣間見たのでした。
  茶器の頂点が生まれた時代、武将が天下を目指したことと
  呼応して狂気が乱舞しているようです。 













 *躍動と回帰 出光美術館
  湯島天神での織部展のあとに、
  出光美術館での「躍動と回帰」をみてきました。
  安土桃山時代の特別な時代を現代人も惹きつけられ、
  TVでも信長をどれだけ見てきたことでしょう。
  武将たちの茶の湯の熱狂は茶器の姿も振り切れた異端を
  好んだのかも知れません。
  唐物の極上の天下一、東山御物から、侘び寂びの極み、長次郎の茶碗
  利休亡き後、その振りが真反対に動いたかのような、
  歌舞伎ぶり、ひょうげもの。
  そして南蛮という渡来文化の珍しさ。
  そのエネルギーの熱温はいまもなお人々を魅了し続け、
  飛び跳ね、そしてぐるりとまわって、心躍ることを今の人々さえ
  動かし続けているのです。
  美濃はほんとうに面白い作陶をするところだと感心します。
  その向こうに、静かな長谷川等伯の香りが低く垂れ込めていたようでした。

 *牙彫美術館
  久しぶりに両親の住む伊豆高原に愚息と行ってきました。
  そこに、新しく、牙彫刻専門の美術館が生まれていました。
  ともかくその呆れるほどの彫りにあんぐりするしかなかったのでした。
  日本の作品も数点ありますが、ほとんどが中国の作品だそうです。













 *月映 東京ステーションギャラリー
  田中恭吉、藤森静雄、恩地幸四郎、その三人の若き友情物語。
  美しくも儚い、命の欠片を版画に乗せてキラキラ輝かせていた
  「月映」という雑誌。
  たった2年の間、田中恭吉が結核の病を背負いながらも
  藤森静雄、恩地幸四郎が手をさしのべ、
  静かな画面から、嗚咽の諦めが光となって哀しい美しさを放つ
  どうしようもない魅力にうずまってきました。
  恭吉のちいさな、真面目な文字が気力の続く限り、こつこつと
  綴ったのかと感じられた筆跡に大変ひかれました。
  図録も美しく、はるかな精神の浄化にうっとりするのでした。
  木版画に精神世界を淡々と刻み、その時間だけは生きていた
  証となったのでしょう。
  ざわざわした心を鎮めてくれる、煉瓦の壁にもフィットした
  素晴らしい展示でした。




 *蔵王権現と修験の秘宝 三井記念美術館
  三井記念美術館内が蔵王権現に埋め尽くされていました。
  片手片足を挙げ、怒りの形相でこちらを威嚇してきます。
  今も、修験者は山伏の姿となって、「懺悔懺悔六根清浄」を唱えながら
  厳しい山岳で修行するのです。
  今回は奈良の吉野金峯山から、藤原道長の経文を収めた経筒(国宝)が展示され、
  役行者縁のもの、別名投入堂といわれる、三佛寺からも
  安置されている蔵王権現像などがどうやって運び込まれたのか、
  断崖絶壁の厳しい場所からの展示に驚嘆しました。
  普段なかなか現場に行かれないところからの出品で、
  これだけの数の蔵王権現像をずらり実見できることはまれなことだと思いました。
  様々な事から断ち切る、剣印をしゅっとしながら、
  自身を戒めたくもなりました。

 *ボルドー展 国立西洋美術館
  会期末迫る頃、久しぶりの西洋美術館に行ってきました。
  ボルドー、ワインの産地、海洋貿易で盛んだったところ、位な程度の認識でしたが、
  ボルドーという土地に焦点を当てた展覧会。
  ドラクロワの大作、「ライオン狩り」が目玉作品ではあったけれど、
  工芸品なども沢山展示され、
  ブレタン、ルドンの版画や、印刷関連のものも興味深く
  楽しく鑑賞することができました。
  同時期に新館の版画素描展示室で
  「没後50年 ル・コルビュジエ 女性と海 大成建設コレクションより」
  という小企画展が展示されていて、
  建築家コルビュジエの画家としての側面に触れることができる
  西美、ならではの企画でした。




 *ブルガリ展 東京国立博物館表慶館
  時々、表慶館は超セレブのブランドハウス別館に変わります。
  今回はあの、イタリアのジュエリーブランド、ブルガリが表慶館を
  一流ブランドハウスに変えてしまいました。
  その見事な違和感のなさに驚嘆しました。
  まるで接点のないジュエリーの世界。
  エリザベス・テイラーコレクションをはじめ、
  宝石の輝きを存分に光り輝かせた130年の歴史を
  ザクザク魅せてくれました。 

 *東京国立博物館 東洋館
  「博物館でアジアの旅」はブログ記事にしました。
  東洋館はやはり時々行きたくなるところで、
  驚きの特集をこともなげに披露してくれます。

 *歌舞伎座 双蝶々曲輪日記、紅葉狩、競伊勢物語
  突然、時間ができたので、秀山会、行ってこようと、思い立ち、
  歌舞伎座昼の部に行ってきました。
  当日でも2等席あたり何とかなる場合があるのです。
  それにしても最近のジュニア世代のご活躍、嬉しい限りです。
  双蝶々曲輪日記、二組の男女で盗人扱いに振り回されるお芝居を
  華やかに、芝雀と錦之助、梅玉と魁春が実直な二人を演じました。
  紅葉狩、これは染五郎の一人芝居で可憐なお姫様から
  鬼女に変身して荒ぶれるのでした。
  染さまはこういう変身モノ、お好きでしょうね~
  競伊勢物語 このお芝居は復活ものだそうで、
  播磨屋の正義と親の絆、男女の情け、それらが綾となって
  東蔵さんとの掛け合いも素晴らしく、じ~んとするものでした。
  染五郎、菊之助の二人の可憐な夫婦姿も痛々しく麗しいのでした。

  そして、三津五郎さまも、彼方へと。



 もう9月のことは2ヶ月も前のこと、すっかり記憶の外にいってしまっているようです。
 思えば、色んな所に行かれたのでした。

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