あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

2010年 ベストテン展覧会 

2010-12-30 00:28:49 | 美術展
 10位 麻生三郎 国立近代美術館
     会場に集められた麻生三郎の作品群に
     ガツンとやられてしまった。
     画面の奥深くから滲み浮き上がってくる生々しさに
     必然一つ一つの作品を見る時間が極端に長くなり、
     その絵の前から離れることができない。
     焦土のなかから魂が蘇ってくきて、
     息をし始めているのだった。
     衝撃的な「ひとり」は愛し合う二人が抱き合っている。
     大きな絵の中で、二人であるからこそ、
     孤独と向き合っているということを
     まざまざと感じさせられた。
     今生きている私たちと向こうの人たちと
     どう会話していいか、途方に暮れるのだった。


  9位 絵画の庭 国立国際美術館
     息子の春休みに、初めて大阪の地で
     国際美術館に入り、この展覧を鑑賞した。
     現代の日本作家たちの魅力がぎゅっと詰まっていた。
     その中の作品たちとまた東京で再会できたことも
     今後の美術界での活躍も頼もしいと思った展覧。
     

  8位 陰影礼賛 国立新美術館
     大体このタイトルがお気に入りだった。
     国立美術館が所蔵する作品を
     「陰影礼賛」という陰の切り口で
     集められた企画に大いなる魅力を感じた。
     日本のシュールリスト達はもっと光が当たって
     ほしいものだと思った。
     どこか湿潤で、幻想の中にも物語が潜んでいそうだ。
     写真家の野性的な黒々とした画面、
     版画の木の質感、エッチングの線の細かさ、
     油のどろんとした表現
     岩絵の具の色からにじむ陰、
     その対局にデュシャンの自転車や帽子掛けなどが空中に
     浮かんでそれがリアルな陰を生んでいたし、
     陰を書き込んだ、高松次郎の影絵は
     大阪の国際美術館から
     巨体のカーブ作品が運ばれてきての再会。
     陰,影が生まれ育って展示されていた
     現場、のような企画が興味深かった。


  7位 上村松園 国立近代美術館
     ブログにも取り上げ、松園の凛とした人生と、
     描かれる女性の気高さに虜になった。
     ただ絵がうまいだけではそれも画壇の中に
     女性が活躍し続けられる訳がないのであって、
     それを思うにつれ、
     厳しい、深い、執念の滲んだ緊張が生まれ、
     絵全体に品格が生まれたのだ。
     心棒の太さ強さに裏付けられた美にただただ驚嘆した。     

  
  6位 蔦屋重三郎 サントリー美術館
     浮世絵界版元の名プロデューサー。
     蔦重。
     この時代の魅力が満載だった。
     いろんな見せ物、芝居、狂歌、
     本、浮世絵、仲間達がおもしろおかしく
     いいものを作り、時代を彩ってきた。
     名プロデューサーがいてこその
     もっと面白く、楽しくが渦巻きとなって
     盛り上がったのだ。
     吉原の栄華の裏に蔦重あり。
     実に面白かった。    



  5位 MASKS 仮の面 千葉市立美術館
     マスク、仮面を集めた興味深い展覧だった。
     そのあふれる情熱の表情から
     実際生きてきた人々の願いが
     凝縮されていた。
     人は人の顔、面をみて暮らしている。
     願いを込めるとき、その面をつけて、
     神々へ近づいた。
     思いは仮面をつらぬいて
     神の心へと通じただろう。
     重厚な、情熱の昇華がその会場に凝縮されて
     圧倒された。
     そして、死者への分身としてまた蘇って
     大切に残されてきた。
     まるで、死者への弔いにきたような気がしたのだった。


  4位 柳宗悦没後50年記念 朝鮮陶磁 日本民藝館
     民藝館をつくった柳宗悦の没後50年記念。
     まだ50年しかたっていないのか。
     それにしても
     収集されたものの愛らしいことといったら
     どうしようもなく、ただ溺愛があふれた。
     やきものが好きで東洋陶磁美術館が最高の
     やきもの美術館だとするならば、
     ここは最愛のコレクションの場所だ。
     用の美は生活の美である。
     日々の生活、営みを大切に愛すべきもの達と
     暮らすことこそが美である。
     それを学んだ、民藝。
     無骨と野暮のせめぎ合いは、
     実にスリリングだ。
     それは使う人の目による。
     そんなことをぐさりとやられた。
     ともかくは、文句なく好きなものだらけの
     幸せな空間だった。


  3位 デューラー 国立西洋美術館
     この人の超絶技巧にノックアウトだった。
     ご本人の美男子(イケメン)振りも
     見逃せない。
     ひたすら超絶技巧に跪き、頭を垂れ、
     目を凝らし、
     へとへとになる。
     線があんな魔法の線となるなんて。
     一本の線が生々しく命を得て
     動き出す魔界を堪能した。
     目眩を起こす、そんな線に驚嘆。
     参りました、のデューラー。


  2位 マン・レイ 国立新美術館
     私は彼を写真家だと思っていた。
     しかし、それは彼のほんの一面であって、
     実はいろんなことをした人と教わった。
     造形も絵も、映像も、もちろん写真も。
     なかでも映像はのちのシュール映画
     「アンダルシアの犬」を思うほど。
     レンズ越しにいろんな画面に「面白い」を
     発見し続けた。
     つまり、彼はなにかにつけ美、面白いもの、
     それを発見するアーティストだったのだと。
     彼の最後の奥さん、エリザベスの一人残された
     アトリエでのレポート映画も実に
     シュールで興味深かった。
     彼女の眼鏡はどうしたものかと。
     そしてまんまと楽しい発見に引き込まれ
     純粋に楽しい、おもしろいの世界に
     振り回されたのだった。


  1位 等伯 東京国立博物館
     長谷川等伯というもの。
     彼の人生を追いかけつつ、会場を巡った。
     耽美な表現は狩野派に脅威をもたらした。
     そういう意味で、VS狩野派を思いながらみると
     気味がいい。
     後ろ盾に利休達茶人がいたことも。
     それにしても、
     美を表すことの空恐ろしさ。
     能があの世の芝居として為政者にもてはやされた
     時があったが、
     2次元でその世界を描いてしまった、
     松林図。
     実存する世界がいつからあの世に
     変化したのかわからないような
     境界線のなさが最大の魅力だろう。
     幽玄というのはその入り口にたたないと
     見えないと思う。
     本当に実存した絵師として
     無視できない巨星をみた気がした。     


ここにあげた以外の印象に残った展覧については
また次回、書き残しておきたい。

以上、駆け足のベストテンでした。
様々色んなところで楽しい時間が過ぎていきました。
今年一年、あべまつをご贔屓くださいまして
厚く感謝申し上げます。

あと2日の2010年ですが、
よいお年をお迎えください。

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10 コメント

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Unknown (とら)
2010-12-30 13:46:08
第10位から逆順に発表するのは良いですね。
そして第1位の発表はファンファーレとともに・・・
わたしも同じ「長谷川等伯」でした。
返信する
とら さま (あべまつ)
2010-12-30 21:49:51
こんばんは。
バタバタと年の瀬を迎えてしまいました。
画面をもう少し丁寧に作れたらいいのですが、
今回はこの程度でご勘弁願っています。
とらさまも等伯1位でしたか。
いまからランキング拝見にあがりま~す。
返信する
Unknown (遊行七恵)
2010-12-30 23:41:43
こんばんは
麻生三郎の記事がかけなかった、とつぶやいておられたので10位に入ってるのを見て「ううむ」でした。心にピンとくるのに限ってかけなかったせつなさ、それが伝わってきます。
でもそれに却ってそそられて、わたしは京都でみてきます。
返信する
Unknown (テツ)
2010-12-31 18:09:18
年末ぎりぎりこんばんは。
等伯は古典をあまり観に行かない私にも
大きな手ごたえがありました。

「仮の面」は仮面たちに込められた思念に作用され
深い感慨を誘われる好企画でしたね。
返信する
Unknown (せいな)
2010-12-31 22:57:29
美術関係でもそうでない関係でも本当に沢山お世話になりました。
本当にありがとうございました。
来年はぜひあべまつさんと歌舞伎鑑賞をと願っています。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
返信する
遊行 さま (あべまつ)
2011-01-01 14:25:35
あけまして、おめでとうございます。

今年も遊行さんの足跡を沢山拾いにいきたいと思っています。
麻生三郎は、ちょっと苦しかったです。
でも通り過ぎるわけにはいかない、
何かがごろんとしてました。
京都の感想を楽しみにします。

今年も楽しい時間を沢山見つけましょう~
返信する
テツ さま (あべまつ)
2011-01-01 14:30:31
あけましておめでとうございます。

コメントをありがとうございます。
等伯はつい、贔屓にしてしまって、
あの画面のジリジリする空気に参る訳です。
面、このジャンルにとても興味がわきま。
人形(ひとがた)の存在に真実が込められている
そんな気がしました。
今年もまた、よろしくお願い致します。

返信する
せいな さま (あべまつ)
2011-01-01 14:33:11
あけましておめでとうございます。

昨年はひょんなことでお目にかかれ、
楽しい時間が持てました。
今年も、パワフルなせいなさん親子に
元気をいただきます。(じゅるじゅる~)

歌舞伎座が出来上がるまで、
しばし、あちこちに出かけざるを得ませんが、
よろしくお願いいたします。
返信する
同感!・・ (ちょろり)
2011-01-01 22:59:59
等伯!・・1位ですか。
私の数少ない美術鑑賞の中で、
どうしても本物を見たかった作家。
目からウロコの発見でした。
国宝の意味を知ったのでした。

いろいろ見たかったけど、
見れなかった美しい物の数々・・
これからも、こちらを楽しみにしてます~♪
返信する
ちょろり さま (あべまつ)
2011-01-01 23:36:50
あけましておめでとうございます。

等伯はやっぱり半端なくかっこ良かったでした。
時代を駆け抜け、生き抜いた絵師という感じでした。

ちょろりさんの作品も楽しみにしております~
東京エリアの活動があったら、
ぜひにも伺いますよ~
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