あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

よみがえる浮世絵ーうるわしき大正新版画展 ・江戸東京博物館 その1

2009-10-31 23:52:23 | 美術展
今年もよく浮世絵を見てきたが、
この展覧会はまず初めてみるものばかりで、
ただただ驚きの連続だった。

ともかく、この時代のものはほとんど見たことがなかったし、
江戸、明治からの激変した時代の中で
浮世絵の技術を残しつつ、新しい表現を
果敢に挑戦してきた、幻の軌跡の展覧会なのだった。
残った作品の奇跡と、この機会に巡り合えたことを心から感謝したい。

展覧の中で一角を占めるのは
アメリカのロバート・ムラー氏のコレクション。
1932年川瀬巴水の「清洲橋」を求めたところから始まった。
大戦前の40年には来日も果たし、
新版画の版元、版画家たちと交流し、
明治錦絵も含めた4千点以上の世界最大級の
日本近代版画コレクションといえる。
そのコレクションから30点、初公開。
(チラシより要約)

新版画といわれるのは、江戸時代から続いた浮世絵技法を使った
大正から昭和初期にかけて興隆した木版画で、
消えかけていた木版画を復興し、
新たな芸術へ生まれ変わるために
版元、版画家、彫師、摺師たちが結集して
様々な画題の2千点を超える新版画を作り出した。
(チラシより要約)

会場に入って、
すぐに木版画に捧げたたくましい戦いを
目の前にして、ぎゅ~っと引き込まれてしまった。

今までの浮世絵の2次元スーパーフラットな
現実離れした浮世の夢の世界から
すぐそばで見える、肉体の体温や肌質、
それらを支える繊細な線使い。
風景には風と空気と気温と景色のやわらかな曲線に
輝く光が、色が生まれた。

西洋画絵画の習得が必定となり、
世界の絵画を見る機会も増え、学ぶ人も増えてくれば、
真新しいものが好きな日本人が
放っておくはずがない。

フェノロサによって新しい日本画の制作を求められてきた時代、
日本画にも立体の奥行と西洋の色調が求められ、
新しい試みが続けられていたように、
浮世絵版画の世界にもその影響が及んだことだろう。
そこへ、浮世絵商の渡邊庄三郎が
その存亡をかけての戦いに挑んだ、その軌跡をたどる、
そういった意味もある展覧会。
すべてが貴重に思えた。

第1章 新版画の誕生

    ここで、新版画誕生の後ろ盾になった
    浮世絵商、渡邊庄三郎、
    彼が新版画運動の旗手を務める。
    彼がいなかったら、橋口五葉、伊東深水
    山村耕花、名取春仙、川瀬巴水、らが生き生きと
    その画業を全うできなかっただろう。
    また、日本の浮世絵にあこがれて学びにきた海外の作家も
    その学びの確かさを見せてくれる。
    なかでも
    フラッツ・カペラリ
    このオーストリア人を渡邊は絵師に迎えて
    新版画を始めた。
    以来、外国人による浮世絵木版画も
    実に日本的な画面を見せてくれるのだった。
    表情と静寂をよく学んだと思った。 
    五葉の粘着質な執着あふれる絵は見る者に
    陶酔とため息を与える。    

第2章 大正新版画と浮世絵

    新版画の研究とともに、過去の浮世絵の複製などから  
    本来の技術の習得も確実に手に入れていた。
    渡邊庄三郎の眼は日本本来のものと近代欧米の絵画から
    学ぶものと新時代への木版画の存在を
    着実に高めていったように見えた。 

第3章 新版画とモダニズム

    時代は移り、昭和にかかる。
    洋服がまだ市民権を得られていなかったけれど、
    洋風、それが新しい風。
    モードの最先端を木版画で示してきた。
    外国の絵師たちも頑張る。
    エリザベス・キース、ポール・ジャクレー、
    ノエル・ヌエット達。
    山村耕花も役者絵から離れたモダンな新しい表現。
      
第4章 日米の懸け橋 ロバート・ムラー
     -新版画コレクションの形成

    ロバート・ムラー氏訪日の楽しげなる写真も展示。
    当時の都内の様子が伝わる。
    戦争前の一番幸せだった頃。
    そして、夫妻の収集は熱を上げていく。
    画面が端正で奇麗なのがお好きなようだ。
 
第5章 新版画の制作

    以前、東博で、版画の特別企画で
    川瀬巴水の「増上寺の雪」が展示されていたが、
    それと同じもの。
    すりを重ねていくと変化する画面の展示。
    版木も展示。
    今回は伊東深水の力作に感心した。
    何度も試作して、新たな工夫を凝らす。
    同じ画題の違う色使い、バレンの使い方なども試行する。
    その真面目なまっすぐな気持ちに心打たれた。

長くなったので、お気に入りの版画はまた次回に
あげたいと思う。
実に好きなものだらけで、困ってしまった。
時代の変化ともに、木版画の世界を確立するために
廃れてはならないという信念と前向きな戦いに
すっかり見入ってしまい、場内を出るともう、
へとへとになってしまった。
作品数もたっぷりあるし、
魅力的な作品ばかりなので、
会期末までにもう一度滑り込みたいと思っている。

未見の方はぜひ、お勧めしたい。
8日までです。

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2 コメント

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Unknown (いしい)
2009-11-01 22:52:58
ご無沙汰しています。
江戸東京博物館で川瀬巴水を見ることができたのですね。気がつくのが遅かった。残念。川瀬巴水の光の表現が私は大好きです。「清洲橋」の川面に映る光の表現など、版画でどうやったらできるのか不思議です。今回の展覧会に入っていたかどうか分かりませんが「東京二十景 新大橋」も私のお気に入りです。浮世絵商、渡邊庄三郎という人の存在を私は知りませんでした。なかなか興味深い展覧会だったのですね。
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いしい さま (あべまつ)
2009-11-02 22:17:50
こんばんは。

ご無沙汰でした。お元気でしたか?
今の江戸博の新版画展は8日までの開催です、滑り込みできますから、ぜひ。
巴水ファンでしたら、いいものがみられると思います。「清洲橋」展示されてましたし、「増上寺の雪」は摺りの重なっていく様子が展示されてました。
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