あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

不滅のシンボル 鳳凰と獅子展 ・サントリー美術館

2011-07-21 22:52:18 | 美術展
サントリー美開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」
のパート2として
「不滅のシンボル 鳳凰と獅子」

サントリー美術館50周年記念の第二弾となる。
記念事業とはいえサントリーの底力満載の展覧会だった。

ここの展覧は会期が小刻みで、
お目当ての作品を見るには
サイトの展示作品リストを見ることが大事なことになるが、
この展覧会はいつ行っても満足度の高い展覧で、
1、2、3の連作を見に行くようだった。
会期ごとに一つ一つが独立しても十分な見応え。

今回の私の主たる目的は
かの伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」を目の前にみたい、
ということだった。
静岡県美の所蔵品で、若冲をお気に入りとしているからには
一度はその実物を目の前にしなければ
どうにも落ち着かない重要な作品だと思っていた。
念願がようやく叶う、そのチャンスが到来したのだ。
プライスコレクションの升目画きの屏風と、
どのくらいの温度差があるのだろうか。
専門の方々の様々な評も目にしてきたし、
実際プライス氏所蔵の屏風はちょっとぬるい感じを
持っている。

また、この展覧の前に震災直後も開催中止をしなかった
英断の世田谷美術館での「白洲正子展」で、
日本の神々と遭遇してきたが、
その日本オリジナルな自然信仰に
繋がる霊獣というシンボル。
日光東照宮はその霊獣の宝庫だが、
霊獣の中の鳳凰と獅子というセレクト。
この企画力にも十分そそられるものがあった。

そんな思いを胸に3度通った展覧。
一つ一つを取り上げず、印象に残ったものを
会期をまたいで感想を残そうと思う。

入り口には凛とした狛犬がお出迎え。
この展示の聖域との結界を示す。

サントリーの屏風はいつも定評があり、
感じ入ることが多いものが展示されるが、
季節柄、夏の祇園祭の屏風が賑々しくハレを招く。
山車の先頭は山鉾。
祇園を様々な人々がぎゅうぎゅうに描き込まれて
お祭りの熱気が伝わる。
一度お守りにちまきを求めたいものだ。

鏡などに描かれた原型としての鳳凰と獅子たちの形を確認。
守護獣、霊獣たちの誕生には
古代中国から優れた天子が現れる前触れの空想上の鳥とされていたのが
日本にも伝わったとされている、とのこと。
以来その神々しい姿はあまり変わらないまま
天子さまを守る高尚な鳥の品格を崩さずに継承されてきた。

また、鳳凰は梧桐に住むといわれている為に
桐とともに描かれることが定着する。
会期をまたがって桐鳳凰図屏風が探幽、常信、栄信と展示。
凛とした空気の中にも親子の鳳凰など微笑ましい。
慶事のおめでたい贈り物として作られたのだろう。

国宝は3点出品。
「金銅獅子唐草文鉢」
「文殊渡海図」
「金銅透彫舎利塔」
品格があって、どれもが神々しい存在感あるもの。

獅子の変化も興味深い。
あ・うんの対となった獅子はいつのまにか
狛犬になったり、
獅子頭になってお祭りのヒーローになったり、
お寺の入り口の柱飾りに使われて
邪気を払ってくれたりする、守りのシンボルとなる。

そしていよいよ若冲登場。
彼の描く鳳凰は同じケースの中でも異彩を放ち、
独特な気配でまわりを寄せ付けない。
豪華で色の何とも鮮やかで、
鳳凰の目線はあくまでも格式があり、
孤高の存在感。
対象としたものを余りにも凝視し過ぎ、
若冲の世界を託された鳳凰はもはや
霊獣から離れ神様になってしまっているかのよう。
「旭日鳳凰図」
一緒に並んだ鳳凰もそれぞれ興味深い表情で、
中国や朝鮮半島からその姿が伝えられてきたことを
実感できた。珍しいと思ったのは
大正時代の結城素明の双幅の「鳳凰の図」
色鮮やかな新しい色使いの透明感ある鳳凰図だった。

工芸品にも獅子や、鳳凰をかたどったり、
中に描かれたものがすっきりとしたデザインで
作られている。

その奥にちらちら異彩を放つ屏風が目の端から飛び込んでくる。

若冲の「樹花鳥獣図屏風」静岡県立美術館所蔵
やはり、目の前で本物を見ることの凄さを実感した。
若冲度が高い。
濃厚。
動物たちへの愛情溢れる表情が嬉しかった。
升目も実に丁寧。
色の使い方が飛んでいる。
手抜きが感じられない。
やっぱり若冲はただものではない。
実に前衛的。圧倒的。抜けている。
驚いた。

その後、その場所には狩野山楽の「唐獅子図屏風」
無記名ではあっても「唐獅子・白沢図屏風」

最後に狩野永徳、常信の「唐獅子図屏風」

若冲の屏風が残像となってその後の屏風も
それはそれで立派なのだが、
今回の目玉は彼を抜きには語れない。

階段をおりると
能の世界が広がる。
能面と石橋(しゃっきょう)で使われる紅白の牡丹が目に鮮やかに展示。
唐獅子牡丹のセットの様々な表現の絵が並ぶ。
中でも、彭城百川の「天台岳中石橋図」旧慈門院襖絵
この襖絵の獅子の頭には牡丹の鮮やかな花を頂いて
獅子のユニークな顔とは不釣り合いながらも
石橋の物語としての意匠でかわいらしく描かれている。
浮世絵師から広重、国芳、豊国らからも出展。

堂々たる平櫛田中の「鏡獅子」
袖口を伸ばした腕からぎゅっと握り込んだ手が印象的。

水墨画からも鳳凰と獅子たちが登場する。
今にも飛び出しそうな虎の大きなふすま絵を描いた
盧雪が獅子を描いた。
これもまた楽しい。
江戸の絵師たちの錚々たるすご技。
岩佐又兵衛、英一蝶、狩野常信、狩野養川院惟信、

蘭学を学んだ形跡からも。
沈南蘋の不思議な面相の獅子図。
ヨンストン著「動物図譜」
あぁ、いよいよ洋画からの影響を多いに受ける時がやってきた
そう感じる。

そして近代へ。
獅子を描いた近代画家といえば、
竹内栖鳳、前田青邨。
気迫溢れる獅子の息使い。獅子はすっかりライオン化している。
初めて見た
「獅子」榊原紫峰
鬼気迫るライオン雌雄二匹の真ん中にとらえられたネズミは
もはや気を失っているが、
百獣の王、ライオンがネズミ?とちょっと笑える。
しかし、その迫力はネズミどころではない緊張感ギリギリしてくる。

最後には大判の布団地がパネルのようになって展示。
嫁入り布団には目出度い意匠の獅子と鳳凰で
慶事を祝ったのだろう。
重厚な京薩摩の「金彩色絵双鳳文飾壷」が頂上に獅子が座る。
七宝の「菊花形置時計」
見事な工芸品によって締めくくられた。

こうして様々な場面で、延々と受け継がれ、
時代の変遷とともに
いつも日本人の生活のどこかに存在してきた
鳳凰と獅子の姿を十分に堪能できる
興味深く、やはり見ていてワクワクする楽しい展覧であった。

会期は後もう少し、24日、日曜日まで。
まだの方はぜひとも、お勧めしたい展覧です。

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