あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

楽茶碗と新春の「雪松図」・三井記念美術館

2014-01-27 16:08:41 | 日本美術
 ブログ更新ができないまま、もう、お正月末となってしまいました。
 慌てて見てきたもの記事にします。
 


 三井記念での新年展覧は厳かできりっとした緊張感があって
 新年の清々しさと身の引き締まる思いがします。

 旧友たちと連れだって新年会でのほろ酔いを隠し、
 静々と拝見してきました。

 新年、その新しい一年を迎えることの晴れがましい感覚は
 年々緩やかになってきました。
 家長が晴れ着を着て一年の始まりを家族の前で仕切るシーンも
 今となれば体験しない人達も増えてきたのではないでしょうか。

 幸い私はまだ日本家屋の床の間のある家で育ったので、
 いつもはリビングでの食事も
 新年だけは日本間で始まりました。

 お屠蘇とお節、お雑煮を食べてからは家族一同で近くのお寺まで
 初詣でに出掛けました。
 着物を着せてもらって簪を付けるのが楽しみでした。

 そんなお正月を思い出しました。

 展示室1はいつも重厚なお茶道具のお披露目です。
 なかでも長次郎作の「黒楽口寄香炉」に惹かれました。
 端正な黒楽ですっくりした円柱形で無駄のない長次郎らしい香炉でした。
 あんな小品も手捏ねで作陶したのでしょうか。

 如庵には蓬莱山画がかかり、お茶碗は御所丸。
 棗は黒塗大棗がてらてらと光っていました。
 茶杓は松花堂昭乗の作、銘翁
 渋いながらも新年を言祝ぐお道具立てとなっていました。

 展示室4では
 新年恒例の応挙の「雪松図屏風」が展示されました。
 右隻の方が有名ではありますが、
 左右そろってこそ、応挙のバランス感覚の素晴らしさを感じられます。
 右隻は太く逞しい直線的な松ですが、
 左隻はまるっとした曲線でまるで雌雄対極の呼応に
 改めて構図の素晴らしさに気がつくのでした。
 凍てつく寒さの中にも晴れ晴れとしたおめでたさも伝わります。
 背景に金を蒔いたことが効果的で墨色と地色の白の間を取り持って
 はんなり華やかさが生まれているのでした。


 他、おめでたい作品や、南蛮屏風、聚楽第屏風も
 新年の室内をおめでたく飾ったことでしょう。

 この展示のもう一つの目玉が楽茶碗。
 長次郎に始まった楽茶碗、楽家の代々のお茶碗がずらり並びました。
 当代の吉左右衞門さんの現代アートなお茶碗も。
 長次郎の銘碗、「俊寛」と三代道入、ノンコウの「鵺」が
 それぞれ特別一碗だけの展示でした。

 細長い展示に初代からずっと継承されてきた楽家の茶碗。
 これらの銘碗たちが下界へ降りてきて
 代々のお茶碗をみんなで飲み比べてみる、
 そんなことができやしないかと妄想します。
 お茶碗は両手に頂いて初めてその重さや、手触りや、口取りや色艶などに触れて
 そのものと相対することが出来るのでしょうけれど、
 もはや、それは危険で、無謀で、望むことが出来ないことが残念です。
 個人的には長次郎の禅僧のような黒茶碗はしびれますが、
 四代一入の下地の朱が見える黒茶碗を贔屓にしています。

 数年前三井で開催された「楽茶碗」展覧に圧倒されたことを思い出しました。
 前回の桃山の茶陶もおおいに惹かれました。
 他館でも昨年秋から茶碗の展覧が続きましたが、
 桃山時代の茶道はなにか、宗教にも似て、
 戦乱の只中の武将たちの荒ぶる心をさらに激情化させ、逆に沈静し、内省する為の
 聖堂となっていたようなそんな気もするのでした。
 その武将たちの憧れを一手に引き受けた利休の存在は
 カリスマめいていて、その美への拘りは日常ではなく、
 命懸けの危険をはらんだ一世一代の修羅場だったのではと恐れをなすのです。

 平安の世に誰が命懸けで茶会を開きましょうか。
 日常のほんのひとときを今を確かめる、
 慰安の茶会を見る事しか出来そうにありません。
 むしろ、その方が親しみが湧いてきますが、
 ちょっと怖いもの見たさに命懸けの茶会を一度で良いので
 観客で見たいと思います。

 楽家の代々のお茶碗と共に
 三井家の紀州御庭焼として、徳川の殿様たちや、三井家のご当主たちによる
 お茶碗も展示されました。
 
 新春の初釜はどんなお道具たちで開かれたのか、
 茶会記などにもきっと華やかな心遣いが記録されているのでしょう。

 はなびら餅でお抹茶を一服頂戴したい気持ちになりました。

 どうか、今年一年、無事に暮らせますように。

 次回は恒例の三井家のお雛様たちが待ってくれています。
 この展覧は25日で終了しています。 

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