第2章から見た私は、ひしひしと名宝ぶりを感じ入ったわけだが、
第1章は日本美術画壇の巨匠、神様、逸材の絵師ばかり。
天子様に献上するお品ですからね。
工芸品の至極の技に眩暈を覚えた頭を切り替えて、
第1章 近世絵画の名品
いざ、突入!
1 「浜松図屏風」海北友松
最初に現れたのは、龍図などダイナミックに水墨画を描く、
海北友松の色も鮮やかな緑を多用した屏風絵。
海北は画面全体の空気感のとらえ方が卓越している絵師と思っている。
しかし、この屏風にはその男らしい雄々しさがどこにもない。
琳派エキスもあるしっとりと静かでたおやかな浜松図。
金地の州浜と蛇行する銀地の波頭は光琳の線を思う。
波頭のところどころ風が吹き、千鳥が画面に動きを作る。
松の重なりも興味深いし、色数も少なく、シンプルな出来。
宮家との関係もあるらしく、水墨画ばかりではなく、
このような屏風絵も描く多様な絵師ということが知れた。
宗達をみたのだろうか。最晩年の作。
とても気に入った。
2 「四季草花図屏風」 狩野永徳
友松の浜松図に驚いた後、またまた驚かされた。
狩野派の天才、安土城の最大貢献者、永徳。
永徳といえば、聚光院の「四季花鳥図襖」
謙信に贈ったという「洛中洛外図屏風」
秀吉の戦いを見守ったという「唐獅子図屏風」
それらから感じる、権力への鼓舞はここにはなく、
風になびく可憐な花々をちりばめた雅な静けさ。
秀吉が関与した八条宮家の創設から、永徳が重用されたのだろう。
次の「源氏物語図屏風」も同様、八条宮家後の桂宮家に伝来。
本当は草花図のような雅な絵が好みだったのではないかと思った。
「はせがわというもの」の存在をちらちら感じる。
3 「源氏物語図屏風」 狩野永徳
永徳の人物画を珍しく見る。
それも、源氏物語。
宮家では「源氏物語」が人気だったことだろう。
これも八条宮家の障壁画だったそうだ。
まさか永徳が源氏を描いていたなんて、びっくりだった。
4 「唐獅子図屏風」
狩野永徳(右隻)狩野常信 (左隻)
永徳といえば、この「唐獅子図屏風」
京都博で開催された永徳展に行かれなかったことが
悔やまれても、ここで見ることができたから、
すっきりした。
2頭の唐獅子が阿吽の呼吸でガツンと存在する。
その横に似たような似てないような
唐獅子が1頭こちらにとびかかってくる。
これは常信の作で、永徳の唐獅子両親たちに
じゃれていくようなおかしみがあった。
永徳の唐獅子は独立していると思い込んでいたが、
実はこの常信作とセットのもので、
一緒の展示はまれ、なのだそうだ。
5 萬国絵図屏風
これも、サントリーの「ビオンボ」展で見ている。
泰西屏風はだれが描いたのかわからないのがミソ。
イエズス会の関係者が日本の屏風に感心して習って描いたのではないかと
思っているけれど、私が単に思っているだけ。
世界地図ができたおかげで、
あちこちの王様たちは地図の色塗りに励んだという話も聞く。
信長は地球儀を見て、日本の領土に愕然としたことだろう。
諸国の人々の様子や、船が世界中の海に浮かんでいるのも
楽しい。
6 旭日鳳凰図 伊藤若冲
いよいよ目玉、主役の登場。
これだけは御本尊扱いで、一枚に大きなケースと
額縁仕立てがされている。
画面いっぱいのあふれるオーラからは
誰の目も止めさせる力がある。
旭日と鳳凰おめでたい題材なのに、
この世のものとは思えない、あやしさが漂う。
実際、波頭の粒粒は爪を立てた手のように
アメーバーもどきに増殖するし、
その形は鶏冠にもなる。
ありえない岩場に2羽の鳳凰。この2頭、仲良しか?
阿吽の呼吸をしている。
びらびら舞い上がる尾の先は唇のような生々しさ。
何かを合唱するのではないだろうか?
奇想の画家真骨頂の登場にいやおうもなく
ハートはワシヅカミ。立てる爪が痛そう。
7 動植綵絵 伊藤若冲
今回の超目玉コーナー。
若冲の独り舞台。
それも30幅だ~んと。
図録も30幅取りまとめての解説。
圧巻。
辻惟雄大先生も展示ケースに張り付いてご覧になっていた。
あれだけ大研究されている人なのに、
まだまだ画面に引き寄せられている様子は
ちょっと感動ものだった。
私も若冲の病的なシツコサ、天才的色使い、画題の面白さ、
やり続ける純粋、描くことに自分に命を吹き込んだような
そんなことを感じつつ張り付いてみた。
クレージーだ、と思った。
つまり、描くということへの純粋さが尋常ではないということ。
俗世の世界のさまざまな営みとは別世界の人、
そういう意味の純粋を感じた。
お抱え絵師たちの施主に対する心遣いや、経済観念もなく、
ひたすら、描いた。その純粋に驚愕する。
それを三の丸所蔵品としてずらり拝めるチャンスは
またとなさそう。
どこかに売られる心配はなしにしてもらいたい。
相国寺に残る釈迦三尊像をいずれ拝見したいと思う。
一つ一つの作品の感想は又の機会に。
8 源氏四季図屏風 円山応挙
若冲の30幅を凝視しへとへとになった後の応挙は
ものすごく正統で、きちんとしている。
これがものたらない。
宮中にぴったりな品の良さが相応しい絵師として
重用されたのだろう。
9 旭日猛虎図 円山応挙
足の突っ張り加減が妙におかしい、かわいらしい
大虎だ。水墨画で、一気に軽やかなトラジロウ、だ。
10牡丹孔雀図 円山応挙
応挙の3作中、これが一番力がみなぎっていた。
筆のこまやかさ、丁寧さはさすが写生の応挙なのだった。
11小栗判官絵巻 岩佐又兵衛
ついに出ました、岩佐又兵衛本物の小栗絵巻。
又兵衛の名がつく絵巻の極彩色豊かな、
毒々しい色使い、エキゾチックな場面表現。
波乱万丈な展開は他に「山中常盤物語絵巻」
「浄瑠璃物語絵巻」によく知れるが、
このオグリもものすごい。
エキセントリックな画面。それを間近に見ることができて、
興奮した。
13唐子睡眠図 長澤蘆雪
なんともかわいらしい赤子の昼寝。
こんななごみ系の絵を描いたのかと
蘆雪にエールを送った。
みんなこんな時があったのだ。
17花鳥十二ヶ月図 酒井抱一
ここでもずらり12幅。
贅沢な展覧だなぁ。
これぞ、抱一。
プライスコレクションのものや、
畠山美術館蔵のもの、ほか、ファインバーグコレクションのもの。
などがあるけれど、
それらの中では作が早い時期のもの、なのだそうだ。
気品ある情緒と、構図の無駄のなさ、
色の的確な使い方、うっとりする美しさの表現、
これらをみんな適度に兼ね備えている。
いつでも機嫌よく安心して見ていられる。
若冲のはこちらが弱っていると
戦えなくなりそう。
二人の対局、としても面白い。
18西瓜図 葛飾北斎
トリを務めたのは、北斎。
この絵を何年か前、雑誌で知った。
2005年の和楽で北斎を特集した。
そこに実は肉筆がすごいという記事に紹介されていた。
解説は小林忠氏。
その紹介の画像がものすごかったので、よく覚えていた。
宮中で行われていた七夕祭り「乞巧奠」きこうでん
の儀式飾りが見立てとなっている。
包丁刃には北斗七星が描かれ、
応需と書かれ、誰かの求めに応じての作ということがわかる。
京都御駐輦中に献上された作。
西瓜の表現、紅白のむかれた皮が無造作に縄に掛けられている。
心憎いばかりの仕上がりに流石北斎と唸るしかなかった。
他にも、呉春、谷文晁、などがあって、確実な実力を見ることができるのだが、
何しろ若冲にやられた後では悲しいかな、かすんでしまった。
去年の対決、その前のプライスコレクション、
東博の特別展は実に重厚かつハイレベル。
いいものをこれでもかと見せつけられ、
へとへとになる極上の展覧会であることに間違いはない。
何回でも通いたくなる展覧会。
その後の第2期は、東京編正倉院展の様相。
これもまた見逃すわけにはいかない。
とりあえず、ここで、いったん締めることにする。
長文おつきあいに感謝。
それだけすごいってことですから。あしからず。
第1章は日本美術画壇の巨匠、神様、逸材の絵師ばかり。
天子様に献上するお品ですからね。
工芸品の至極の技に眩暈を覚えた頭を切り替えて、
第1章 近世絵画の名品
いざ、突入!
1 「浜松図屏風」海北友松
最初に現れたのは、龍図などダイナミックに水墨画を描く、
海北友松の色も鮮やかな緑を多用した屏風絵。
海北は画面全体の空気感のとらえ方が卓越している絵師と思っている。
しかし、この屏風にはその男らしい雄々しさがどこにもない。
琳派エキスもあるしっとりと静かでたおやかな浜松図。
金地の州浜と蛇行する銀地の波頭は光琳の線を思う。
波頭のところどころ風が吹き、千鳥が画面に動きを作る。
松の重なりも興味深いし、色数も少なく、シンプルな出来。
宮家との関係もあるらしく、水墨画ばかりではなく、
このような屏風絵も描く多様な絵師ということが知れた。
宗達をみたのだろうか。最晩年の作。
とても気に入った。
2 「四季草花図屏風」 狩野永徳
友松の浜松図に驚いた後、またまた驚かされた。
狩野派の天才、安土城の最大貢献者、永徳。
永徳といえば、聚光院の「四季花鳥図襖」
謙信に贈ったという「洛中洛外図屏風」
秀吉の戦いを見守ったという「唐獅子図屏風」
それらから感じる、権力への鼓舞はここにはなく、
風になびく可憐な花々をちりばめた雅な静けさ。
秀吉が関与した八条宮家の創設から、永徳が重用されたのだろう。
次の「源氏物語図屏風」も同様、八条宮家後の桂宮家に伝来。
本当は草花図のような雅な絵が好みだったのではないかと思った。
「はせがわというもの」の存在をちらちら感じる。
3 「源氏物語図屏風」 狩野永徳
永徳の人物画を珍しく見る。
それも、源氏物語。
宮家では「源氏物語」が人気だったことだろう。
これも八条宮家の障壁画だったそうだ。
まさか永徳が源氏を描いていたなんて、びっくりだった。
4 「唐獅子図屏風」
狩野永徳(右隻)狩野常信 (左隻)
永徳といえば、この「唐獅子図屏風」
京都博で開催された永徳展に行かれなかったことが
悔やまれても、ここで見ることができたから、
すっきりした。
2頭の唐獅子が阿吽の呼吸でガツンと存在する。
その横に似たような似てないような
唐獅子が1頭こちらにとびかかってくる。
これは常信の作で、永徳の唐獅子両親たちに
じゃれていくようなおかしみがあった。
永徳の唐獅子は独立していると思い込んでいたが、
実はこの常信作とセットのもので、
一緒の展示はまれ、なのだそうだ。
5 萬国絵図屏風
これも、サントリーの「ビオンボ」展で見ている。
泰西屏風はだれが描いたのかわからないのがミソ。
イエズス会の関係者が日本の屏風に感心して習って描いたのではないかと
思っているけれど、私が単に思っているだけ。
世界地図ができたおかげで、
あちこちの王様たちは地図の色塗りに励んだという話も聞く。
信長は地球儀を見て、日本の領土に愕然としたことだろう。
諸国の人々の様子や、船が世界中の海に浮かんでいるのも
楽しい。
6 旭日鳳凰図 伊藤若冲
いよいよ目玉、主役の登場。
これだけは御本尊扱いで、一枚に大きなケースと
額縁仕立てがされている。
画面いっぱいのあふれるオーラからは
誰の目も止めさせる力がある。
旭日と鳳凰おめでたい題材なのに、
この世のものとは思えない、あやしさが漂う。
実際、波頭の粒粒は爪を立てた手のように
アメーバーもどきに増殖するし、
その形は鶏冠にもなる。
ありえない岩場に2羽の鳳凰。この2頭、仲良しか?
阿吽の呼吸をしている。
びらびら舞い上がる尾の先は唇のような生々しさ。
何かを合唱するのではないだろうか?
奇想の画家真骨頂の登場にいやおうもなく
ハートはワシヅカミ。立てる爪が痛そう。
7 動植綵絵 伊藤若冲
今回の超目玉コーナー。
若冲の独り舞台。
それも30幅だ~んと。
図録も30幅取りまとめての解説。
圧巻。
辻惟雄大先生も展示ケースに張り付いてご覧になっていた。
あれだけ大研究されている人なのに、
まだまだ画面に引き寄せられている様子は
ちょっと感動ものだった。
私も若冲の病的なシツコサ、天才的色使い、画題の面白さ、
やり続ける純粋、描くことに自分に命を吹き込んだような
そんなことを感じつつ張り付いてみた。
クレージーだ、と思った。
つまり、描くということへの純粋さが尋常ではないということ。
俗世の世界のさまざまな営みとは別世界の人、
そういう意味の純粋を感じた。
お抱え絵師たちの施主に対する心遣いや、経済観念もなく、
ひたすら、描いた。その純粋に驚愕する。
それを三の丸所蔵品としてずらり拝めるチャンスは
またとなさそう。
どこかに売られる心配はなしにしてもらいたい。
相国寺に残る釈迦三尊像をいずれ拝見したいと思う。
一つ一つの作品の感想は又の機会に。
8 源氏四季図屏風 円山応挙
若冲の30幅を凝視しへとへとになった後の応挙は
ものすごく正統で、きちんとしている。
これがものたらない。
宮中にぴったりな品の良さが相応しい絵師として
重用されたのだろう。
9 旭日猛虎図 円山応挙
足の突っ張り加減が妙におかしい、かわいらしい
大虎だ。水墨画で、一気に軽やかなトラジロウ、だ。
10牡丹孔雀図 円山応挙
応挙の3作中、これが一番力がみなぎっていた。
筆のこまやかさ、丁寧さはさすが写生の応挙なのだった。
11小栗判官絵巻 岩佐又兵衛
ついに出ました、岩佐又兵衛本物の小栗絵巻。
又兵衛の名がつく絵巻の極彩色豊かな、
毒々しい色使い、エキゾチックな場面表現。
波乱万丈な展開は他に「山中常盤物語絵巻」
「浄瑠璃物語絵巻」によく知れるが、
このオグリもものすごい。
エキセントリックな画面。それを間近に見ることができて、
興奮した。
13唐子睡眠図 長澤蘆雪
なんともかわいらしい赤子の昼寝。
こんななごみ系の絵を描いたのかと
蘆雪にエールを送った。
みんなこんな時があったのだ。
17花鳥十二ヶ月図 酒井抱一
ここでもずらり12幅。
贅沢な展覧だなぁ。
これぞ、抱一。
プライスコレクションのものや、
畠山美術館蔵のもの、ほか、ファインバーグコレクションのもの。
などがあるけれど、
それらの中では作が早い時期のもの、なのだそうだ。
気品ある情緒と、構図の無駄のなさ、
色の的確な使い方、うっとりする美しさの表現、
これらをみんな適度に兼ね備えている。
いつでも機嫌よく安心して見ていられる。
若冲のはこちらが弱っていると
戦えなくなりそう。
二人の対局、としても面白い。
18西瓜図 葛飾北斎
トリを務めたのは、北斎。
この絵を何年か前、雑誌で知った。
2005年の和楽で北斎を特集した。
そこに実は肉筆がすごいという記事に紹介されていた。
解説は小林忠氏。
その紹介の画像がものすごかったので、よく覚えていた。
宮中で行われていた七夕祭り「乞巧奠」きこうでん
の儀式飾りが見立てとなっている。
包丁刃には北斗七星が描かれ、
応需と書かれ、誰かの求めに応じての作ということがわかる。
京都御駐輦中に献上された作。
西瓜の表現、紅白のむかれた皮が無造作に縄に掛けられている。
心憎いばかりの仕上がりに流石北斎と唸るしかなかった。
他にも、呉春、谷文晁、などがあって、確実な実力を見ることができるのだが、
何しろ若冲にやられた後では悲しいかな、かすんでしまった。
去年の対決、その前のプライスコレクション、
東博の特別展は実に重厚かつハイレベル。
いいものをこれでもかと見せつけられ、
へとへとになる極上の展覧会であることに間違いはない。
何回でも通いたくなる展覧会。
その後の第2期は、東京編正倉院展の様相。
これもまた見逃すわけにはいかない。
とりあえず、ここで、いったん締めることにする。
長文おつきあいに感謝。
それだけすごいってことですから。あしからず。
美女と野獣(ミイラ)のめでたきお話。
餓鬼阿弥のすごい姿。
怖いもの見たさにガラスに張り付いてみてきました。
物語をちゃんと知らないので、
真面目に読みたいと思っています。
皇室に「萬国絵図屏風」があるって、なんかすごいなぁと思って。お役に立てたようで、うれしいです。
memeさんの記事後ほど拝読に上がります~
ミイラのような餓鬼阿弥と狂女のような
常陸小萩の姿に感激しました。
こちらにも失礼いたします。
自身のブログをアップした後、あべまつ様の記事を拝見し「萬国絵図屏風」はBIOMBO展に出展されていたと知り、早速書き直しました。
ふぅ、助かりました。
台風一過、平成館は不動だったでしょうね。
もうね、クレージー若冲と言いたくなってきました。だから惹かれるのですけれど。
次回は、連休明けて、夕方狙いでしょうか。
あちこち行きたいところだらけで、落ち着きません。そわそわ・・・・
待っていました!
あべまつさんの若冲語り。
今回の展示は作品がとても
美しく見えますよね~
辻先生が見入ってしまわれるのも
納得です!で、次はいつ行かれます>